第8話 買い出ししようぜ

 つばさが木登りを成功させた事に満足して町に帰ってきてしまったが、考えてみればゴブリンと戦うのが当初の目的だった気がする。


 まぁ、つばさも満足してるみたいだから良いか。

 もう夕方だし、お腹も減ったし。今更ダンジョンに戻るのも面倒くさいしな。


 「今日はこれで解散だな」

 「そうですねー」


 最近はずっと特訓だったから、これを機に少し休んでも良いかもしれない。

 俺も疲れてきてるし1日くらいなら休んでも大丈夫だろう。


 「明日は特訓を休みにするか」

 「良いんですか!?」


 おぉ、凄い嬉しそうだなぁ。

 ここまで喜ばれるとちょっと寂しくなる。そんなに筋トレは辛かったんだろうか。最後の方はつばさもノリノリだったじゃん。


 「うひゃっほう! 嬉しいです!」

 「そんなにかよ」


 確かにこの1ヵ月は休みなしだったもんな。喜ぶのは当たり前か。


 「師匠は明日どうするんですか?」

 「俺は買い出しかなぁ。最近保存食とか買ってなかったし」

 「お買い物ですか! いいなぁ、お買い物いいなぁ!」

 「何なら一緒に来るか? つばさもダンジョンに潜る冒険者なら保存食とか欲しいだろ」


 木登りも出来た事だし、そろそろ大森林の探索を始めても良いだろう。ちょっとしたサプライズだ。この事は明日の買い出しの後にでもいう事にしよう。


 「良いんですか? 私も行きたいです!」

 「おう、こいこい」


 そんで自分用の保存食とか買ってくれたら嬉しいかな。


・・・


 翌日の夕方、俺はつばさと待ち合わせて町はずれの広場に向かっていた。


 この世界はデパートが1つだけの寂れた世界だが、それは運営陣がNPCを使って出している店がそこにしかないと言うだけで俺達みたいな住民が出している店はチラホラあったりする。何故なら少しくらい安くしてもギルドに売るより儲けが出るからだ。


 D級やE級ダンジョンにしか潜れない奴らは生きる為に自分たちで素材を加工して高く売ろうとする。そして長い下積みを経て自分の店を出していく。


 俺達が向かっているのはそういう夢見る住民達が集まって出来た露店市だ。


 「こっちの方にお店ってあるんですか?」

 「つばさは露店市には行ったことないのか? 祭りみたいで楽しいぞー」


 祭りは祭りでもバザーに近いけどな。

 まぁ、ワクワクしてるみたいだし黙っておくか。


 露店市は空き地や道路を使って行われることが多い。

 今回は広場と道路を使って開かれているようだ。しっかりとした屋台を出している者もいればシートを広げただけの者もいる。そんなカオスな光景が目の前には広がっていた。


 「おぉ、凄いです!」

 「今日は保存食とか野営に使う道具を探しに来たんだ。良さそうなのあったら教えてくれ」

 「ラジャーですよ!」


 つばさは俺の言葉に返事をすると小物や服を売っている店に走っていった。あいつ絶対に俺の話を聞いてないよな。


 取り合えずつばさを放っておく事にした俺は保存食を買うために屋台の方に向かった。


 露店市で簡単に手に入る保存食は干し肉と魚の干物、ドライフルーツくらいしかない。パンがないのは麦を手に入れる方法がまだ分かっていないからだろう。パンを買いたいと思ったらデパートで買うか宿屋に融通してもらうしかない。


 俺は干し肉とドライフルーツを買い込んでいく。魚の干物は身が少ない割に高いので買わない。干し肉は何の肉か分からないけど安いから財布に優しくて好き。


 「師匠! 見てくださいよ、スライムゼリーのクッションですって!」

 「お前、それどうするの?」

 「野営の時に枕として使います!」


 おま、そんなの野営で持ってくの? バカじゃん! そんな余裕はないよ。食材や調理道具だけでもバックは一杯になるんだぞ? ちょっとは考えろよ!

 パーティを組んでいれば分担して持っていけるかもしれないが、それでも枕を持っていく余裕はないよ! 返してきなさい!


 「えー」

 「えー、じゃないよ。お前、これ3千円もしたの? 本当にバカだろ。これくらいなら今度作ってやるから返してこい。マジで」

 「作ってくれるなら返してきます」


 その後はつばさの買い物に付き合った。

 何故かネックレスを買わされたが、喜んでくれたし別に良いか。

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