第5話 スーツの方が絶対良いと思う
「よし、次は防具だな」
「えぇ、この鎧気に入ってるんですけど……」
今のつばさの装備は鉄製の部分鎧だ。見ただけで分かる高級なやつ。
確かにその防具があれば他の防具なんていらないかもしれない。それくらいに良い防具だ。だがしかし、俺達の目的はワーウルフの討伐だというのを忘れていないだろうか?
「バカだなお前。そんな装備で大森林を進む気か? 体力持つ訳ないだろ。」
ワーウルフが出現すると言われているポイントまで最低でも4日は掛かる。
大森林は奥に進むほど道が無くなっていく。中盤からは常に獣道を進むことになるのに鎧で進むのは無理があると思う。
比喩なしで1日中歩くんだぞ? それを4日も鎧を着て耐えられるのか? 無理だろ。
「それに部分鎧ってやつは熟練者が着るもんだ。お前じゃ鎧じゃない部分を狙われるのがオチだぞ?」
何度も言うがこの世界にはゲームみたいなアシストやスキル補正が一切ない。そんな世界でゲーム感覚が抜けてないやつは真っ先に死ぬ。ここでのビキニアーマーはただのオシャレ装備でしかないのだ。
「だからその鎧は売るか倉庫の肥やしにしとけ。ほら行くぞ」
「むぅむぅ……」
・・・
防具ってのは着る人の性格が出るもんだ。
服だってそうだろう? 大雑把なやつは大雑把な服装になるし、几帳面なやつは几帳面な服装になる。それと一緒だ。
皆が進めてくれたから、性能が良いからで装備を決めるやつは三流止まりなのさ。分かるか? みんなと同じ服を着てもその他大勢にしかなれないぞ。
例えば俺が着ているスーツを見てみろ。
ギルドにいるクソみたいな冒険者たちには分からないだろうが、防弾と防刃処理が施された特注品だ。それでいて動きやすく、通気性が良い。
分かるか? あんなゴテゴテした重い装備はいらないんだよ。あいつ等はバカだからそれが分からないんだ。
「はぁ、何となくわかりました」
「おい、何となくかよ」
全く嘆かわしいものだよ。良い物が理解されないと言うのは!
俺はため息を隠せなかった。
「それで私たちは何処に向かってるんですか?」
「ああ、俺の知り合いが経営してる店だよ」
理解が悪いお前のために俺の行きつけの防具屋に連れてってやるんだから感謝しろよ? ほら、あそこだよ。少し先にピンクの小屋が見えるだろ?
あれこそが俺の行きつけの服屋マシマーシだ。
・・・
店内に入ると1人の男が手を振ってきた。
スキンヘッドのイケメンで俺の友人のマーシー武藤だ。
多分本名じゃないが、頑なにマーシー武藤で通してくるので諦めている。
「よく来たな正弘!」
「おう! 元気だったか?」
「ぼちぼちだな。で、そっちの子は?」
「あ、私は正弘さんの弟子で三上 つばさっていいます」
つばさが俺の弟子と知ってマーシーがヘンな目でこちらを見てくる。
やめろ! そんな目で見るな。俺はロリコンじゃない!
「あぁ、うん」
「何の話ですか?」
つばさは防具選んでなさい。話しがややこしくなるから。
っていうか、お前は何でゴシックドレス持ってきてるの? バカなの?
可愛さはいらないんだよ。動きやすさが重要なんだよ! やりなおしなさい!
「むぅ…」
「むぅ…じゃないんだよ。マジメに選びなさい。怒るよ?」
動きやすい防具を求めて買いに来てるのに何でフワフワした服を持って来ちゃうんだよ。もっと普通の服持って来いよ。森を歩くんだぞ? こいつ分かってないよ。本当に分かってない。
「大森林を探索するんだぞ? ちょっとは考えろ」
「むぅ、じゃあこっちにします」
次につばさが見せてきた服は森ガールを彷彿とされるワンピースとジャケットだった。値段が良いやつだから性能も申し分ないし、良いんじゃないか? やれば出来るじゃないの。俺はつばさの頭を撫でてやった。
「でもなぁ。それ結構高いけど大丈夫か?」
「はい。全然余裕ですよ?」
「おう、嬢ちゃんはお目が高いな! 両方で15万になりまーす」
まじか。本当に買っちゃうんだ。
本当に大丈夫なの? お金は大事だよ?
「じゃあ着替えてきますね! 待っててくださいね!」
「あ、はい」
最近の子の金銭感覚ヤべーよ。親は何をやっているんだ。
・・・
森ガールファッションに身を包んだつばさがウキウキと前を歩いている。
あれだけ喜んでくれたのなら連れてきた方としても嬉しいものだ。
しかもあの装備は防弾防刃で普通の装備より防御力も高いときている。
高いだけあって性能は折り紙付きだな。
「師匠、どうです? これ可愛いですか?」
「おう、可愛いな」
「適当に言ってません?」
……言ってないよ? でもさ、その値段の服を買われちゃうとおじさんの立場がないと言いますかね。もう少し頑張ろうと思ったよ。
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