第6話 弓はいいぞ3

 マシマーシを出ると外はもう真っ暗だった。そりゃあつばさを助けてた後に武器屋と防具屋を梯子すれば夜にもなるよなぁ。


 「よし、これで装備は大丈夫だな」

 「あとはワーウルフを狩るだけですね!」


 違うだろ? 俺はバカな子を見るような視線でつばさを哀れんだ。

 さっきゴブリンに殺されかけてたやつが何言ってんの? バカなの?


 その手に持っているクロスボウだって1回も使った事がないのに、何でワーウルフと戦える気になっているのか俺には分からないよ。


 「まずはクロスボウを扱えるようになるまで特訓だ」

 「……あはは、分かってますって。冗談ですよ」

 

 本当に冗談か? ちょっと不安になるんですけど。 

 まぁ、そうは言っても今日は遅いから特訓は明日からになるんだけどな。

 真夜中に特訓するほどのやる気が俺にはないので。


「そうだ、つばさの泊まってる宿は何処なんだ? 明日の朝に迎えに行くから教えてくれ」

「あそこですよー」


 つばさが指を刺した先には高級ホテルリバーサイドがあった。

 この世界で最も高級なホテルだ。主にまだ死んでない人がこの世界の視察に来た時に泊まるホテルである。


 あんな場所に毎日泊まっているだと!? 俺なんか安宿を更に値切って泊まっているというのに。これが格差社会か。


 「お父さんが安い宿は危険だから泊まるなって」

 「まじか。お前の親の金銭感覚どうなってんだよ」


 ちくしょう。次元が違い過ぎる。


 こいつには勝てる気がしない。あそこの朝食にはメロンが出ると言う。俺の宿はパン1枚と薄いスープだけなのに。


 宿の近くまで送っていったんだけど、自分の宿との格差が酷かった。

 俺の所は夜になると強制的に消灯するのに何であそこはあんなに明るいんだよ。

 

 あんなの逆に落ち着かないよね? 強がりじゃないよ!


・・・ 


 次の日から特訓が始まった。


 まずはクロスボウの装填と打ち方を教えていく。

 うん、完璧だ。それを忘れないようにね。何て言うか、覚えるの早すぎない?


 特訓を始めて分かった事だが、つばさが天才だった。

 動体視力が飛びぬけていて手先も器用、度胸もある。クロスボウの命中率も7割以上と及第点だ。


 「お前凄いな」

 「でしょー! 私もそう思ってました!」


 少し調子に乗りすぎな感じもあるが、これは調子に乗っても仕方がないかもしれない。最初の1時間でクロスボウの扱いをマスターしてスライムを狙い撃つとか誰でも出来る訳じゃないからな。


 このままだと直ぐに俺も追い越されそうだなぁ。最近の子供の底力しゅごい……


 「そろそろゴブリンと戦ってみるか?」

 「いいんですか!? やったぁ!」


 俺から言っといて何だけど人型のモンスターと戦うってのに喜ぶとか図太いな。

 何で昨日殺されかけた相手と戦えって言われて喜べるんだろう。


 「ようやくあの時のお返しが出来るんですね!」

 「ようやくって言うか、昨日の出来事だけどな」


 考えてみるとつばさと出会ってまだ1日くらいしか経ってないのか。

 1日で人ってやつは変わるもんだな。ゴブリンに殺されかけてたやつがクロスボウを片手にゴブリンを殺しに行くんだから。


 「じゃあ行くか」

 「はいです!」


 まぁ、ゴブリンと戦うって言っても木の上に登って安全な所からクロスボウで攻撃するだけだけどね。


 「そういえば木登りは出来るか?」

 「木登りはやったことないですねー」

 「そっかー」


 まずは木登りの練習から始めないとかぁ。


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