第5話 松茸とイノシシ


 朝日が昇る前に俺とつばさは探索を開始した。

 まだ薄暗い森を奥へ奥へと進んでいくと森の終わりが見えてくる。そこにはむき出しの山肌とポッカリと開いた洞窟の入り口があった。


 「おい、なんかあるぞ」

 「なんかありますね」


 生前にああいう洞窟には動物たちの巣があると聞いたことがある。

 雨風を凌ぐことが出来る洞窟は野生の動物にとって家にするには最適なんだろう。


 洞窟の入り口は広く、そこそこ大きなモンスターでも出入りする事ができそうだ。何となく洞窟には入らない方が良い気がしてきた。

 山肌が見えるという事は森の奥まで進んできたという事だろうし、引き返してみるのもありかもしれない。


 「入ってみましょうか」

 「いやいや。何か嫌な予感するから止めよう。」


 こういう時の嫌な予感って当たるんだよな。

 大型モンスターとかが絶対いると思う。だって洞窟の上の部分とか削れた跡が残ってるもの。あれを見るにトラックサイズのモンスターがいてもおかしくないもの!


 「入りましょうよ師匠」

 「嫌だよ。絶対変なモンスターがいるって」


 俺が嫌がっていると洞窟の中から巨大なイノシシが出てきた。

 大きさはハイエースくらい。あぁ、ハイエースってのは8人くらいが乗車できる車の事ね。横幅とかはイノシシの方があるから実際はハイエースより1回りはデカかった。


 「師匠、あいつの体にあるのって………」

 「あぁ、松茸だな」


 ハイエースなイノシシの体には無数の松茸が生えていた。

 あのイノシシを倒せば松茸を大量に手に入れることが出来るかもしれないが、今の俺たちにはアイツを倒す手段がない。


 漫画やゲームで巨大なモンスターと戦う場面があると思う。

 みんなは子供の時にそんなモンスターと戦う自分を想像した事があるはずだ。少なくとも俺は想像していた。想像の中での俺は最強で無敵で、モンスターなんかは瞬殺だった訳だが……


 「これ、倒せるのかね?」

 「無理じゃないですか?」


 実際に巨大なモンスターと対峙すると恐怖しかない。

 俺の武器が木刀と和弓、つばさはクロスボウとナイフといった装備だ。そんな装備であの巨大なイノシシを狩れるはずがない。


 「でも松茸は欲しいよな」

 「欲しいですね」


 でも物欲に負けて頑張ってみる事にした。

 取り合えずイノシシの足を止める為に罠を張る。ロープを木と木に結んで足を引っかけて転ばせる罠を作った。


 直接おびき寄せるのは怖いのでエサを使う。干し肉を木の枝に括り付けてイノシシが気付くのを待つ。


 しかしイノシシは気付かずに何処かに行ってしまったので、草むらでじっと我慢する。決してあのイノシシが怖くて動かない訳じゃない。せっかく作った罠を他のモンスターに荒らされる訳にはいかないから見張っているだけだ。


 それからイノシシが戻ってきたのは日が沈んでからだった。

 つばさが草むらの中でよだれを垂らしながら寝言を言い始めた頃に草木を倒しながらイノシシは洞窟へと帰ってくる。


 イノシシは洞窟に入る前に干し肉に気付いたようで、ゆっくりとこちらに近づいてきた。見た感じはゆっくりに見えるけどそこそこの速さが出ており、結構迫力がある。


「ブゴォ!?」


 干し肉に夢中なイノシシは狙い通りロープに気付かずに走って来て、そのまま引っかかって転倒する。周囲の木々を薙ぎ倒しながらイノシシは横になった。


 「今だ! 行くぞつばさ!」

 「ふぇ!? あ、はい!」


 未だ転んで起き上がれないイノシシの足に俺とつばさはロープを巻き付けていく。イノシシが短い足を動かして抵抗するが、それ位だったら頑張れば避けられる。


 俺たちはロープをどんどん足に巻き付けていく。外れないように、千切れないようにしっかりとだ。大森林で眠る時に木から落ちないようにするためのロープなので強度や長さが心配だったが、意外と大丈夫だった。


 ジタバタと抵抗しているイノシシだが、ロープを引きちぎる事は出来ないようだ。俺はその結果に満足して草むらに戻った。とりあえずイノシシが疲れて動かなくなるまで待ってみよう。

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