本当の気持ち

「……さっきのことだけどさ」

「な、何だ?」


 昼食を終えて、ミサエの部屋でオレたちはくつろいでいた。そして、どうやらミサエから発表があるようです。


「あたしが将来、外に出なくても良い仕事につきたいのは……あたしの子どもに淋しい思いをさせたくないからだよ」

「へ……」

「だって、あたしママが仕事に行っちゃって……家で一人でいて淋しくなっちゃったことあったもん。おばあちゃんはいたけど死んじゃったし」

「ああ……」


 ミサエは母子家庭だ。いつも強気なミサエだって、やっぱり淋しいものは淋しかったんだ。


「ママは悪くないんだけどね。でも、あたしは自分の子に淋しくなってもらいたくないの。だから、あたしは家でずっと子どもの側にいられる仕事がしたい!」


 そのとき、オレはミサエを抱き締めた。


「……はっ? ちょっ、オマエ離せよ!」

「嫌だっ!」


 突然の自分の行動に、オレ自身も驚いていた。でも離れたくない。ミサエを抱き締めたくなったんだ。


「オレはミサエの側にいるよ。淋しい思いなんて絶対にさせない」


 そして、その直後。


「いっっっっっで!」


 オレの脳天に空手チョップが降ってきた。


「変態! セクハラ! ナマイキ!」


 オレから解放されたミサエは、顔を真っ赤にしながら罵倒してきた。


「わ、悪かったよ! ごめん!」


 痛かったけれど、そりゃあミサエの言っていることは正しい。彼氏でもないオレなんかに、そんなことはされたくないに決まっている。


「……でもさ」

「はっ、はい?」

「……ありがと」


 そのとき、オレの唇に柔らかいものが触れた。


「っ……はああああっ?」

「お返しっ!」

「お、お返しってチョップじゃなかったのかよ!」

「あんなの、お返しじゃねーし! というかオマエ……早く口で言えよな!」

「えっ……?」

「オマエ分かりやすいんだよ。あたし、ずっと待っているんだからな! 行動よりも、ちゃんと言ってくれなきゃ……あたしは嫌!」

「ご、ごめん。じゃあさ」

「今はダメ! もっとロマンチックに伝えろ! それまで、ずーっと待っているから! あたしは!」

「……ずーっと?」


 それって、もしかして……!


「……賢太みたいなヤツ、あたしみたいなマニアックな趣味の女くらいしか隣にいられないっつーの」


 二度目のミサエの唇。今回は頬だった。




 ミサエにオレが「好き」と言えるのは、まだまだ先だ。

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ミサエちゃんとオマエくん 卯野ましろ @unm46

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