赤飯のワケは……
「そもそも料理人ってさー、女には難しいんだってさ」
パンケーキもゲームも終わり、二人でウーロン茶をお供にくつろいでいると、ミサエが急にさっきの話題を出した。
「え、何で?」
「体力勝負だから男に劣るだろうし、あと、生理があるから!」
「ごふっ!」
オレは思わぬ衝撃ワードが耳に入ってきた途端、勢いよくウーロン茶を吹き出した。
「汚ねぇよ」
「お前が平気でそんな言葉、出すからだろっ!」
「ヘタレ」
オレをバカにしながらも、ミサエはタオルをくれた。
「生理のときって味覚が変わるから、料理人には厄介だとか。ネットで知ったことなんだけどさ」
「どういう流れで、そんなこと調べて知ったんだよ……」
ミサエが補足を加えたけれど、オレはそれどころではなかった。
生理って……。
女子が男子の前で、堂々と言うなよ!
「オマエ、小学生のときから変わってねーな。いい加減に慣れろよ、生理に」
「うっせ!」
オレたちが小学五年生だったある日のことだ。ミサエがオレの家に、あるものを届けに来た。
「おばちゃん、いないんだ」
「ああ、買い物。オレ留守番中。ところで、これなんだ?」
「お赤飯だよ。おばあちゃんが作ってくれたの。たくさん炊いたから、お裾分けしましょって」
「へー、何かめでたいことあったのか?」
「うん、初潮」
「あー。……え⁈」
「あたし、生理きたんだよ」
ショチョー……。
……セーリ⁈
「忘れたの? この前、習ったじゃん?」
「分かってる。覚えてるけど……」
「顔、真っ赤。……ウブな奴」
「う、うるせっ!」
「じゃーねっ。おばあちゃんのお赤飯、おいしいんだから!」
「あーあー、ありがとよ!」
オレをバカにしているのか、ミサエは笑いながら手を振って、帰っていった。オレは顔が熱いのを感じながら、ぶっきらぼうに礼を言って、ミサエを見送った。
「あのときから、全然変わってないな~ホント」
「お前もな! 少しは恥ずかしそうにしろよ!」
「賢太、しっかりしんしゃい!」
「黙れ、恥知らず! おまけになんだ、その方言……」
ん?
あれ、待てよ?
「なあ、今何て言った?」
「ふん、つんぼ。『賢太、しっかりしんしゃい!』だよ」
「……っふ」
「な、何がおかしいんだよ」
「だって、方言……」
「え、そんなにおもしろい?」
ミサエは嬉しそうだ。
オレがウケていると思って、嬉しいんだ。
良かった、見事に勘違いしてくれて。
賢太……。
賢太!
オマエじゃなくて、賢太!
ちょっと違うかもしれないけれど、名前で呼ばれたことが、オレはすごく嬉しかった。
……でも、そんなことだけで嬉しくなるオレって一体……。
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