真面目な話もしますとも

「これだけ料理上手なんだったら、調理師とか目指せば? お前」

「パンケーキで始まる、ちょっと泣ける良い話、聞く?」

「おい、話を逸らすなよ」


 せっかく真剣な話をしようと思ったのに……。


「だってあたし、別にパティシエールにもコックさんにもなりたくないし」

「食べること好きなら、向いてんじゃねーの? きっと」

「オマエ、バカじゃん? こういうのは趣味の範囲でやっているから楽しいのであって、仕事になったら嫌いになるんだよ、きっと」

「そ、そうかぁ?」

「だってテレビの特集とか見てみなよ。あれ、おっかなくない? ちょっとミスしただけで鬼の形相。もうゾッとするわー。それに、ああいう料理人の世界って絶対に女に当たりが強いでしょ。ああいう『ザ・漢の世界』的なやつ、マジ苦手!」


 お前なら乗り越えていけそうだけど……。


と言いたいけど言わなかった。


「何か嫌な気分になったんだけどー」

「でもさ、進路のこと考えるのは、大事だぜ?」

「あーあ、もうプロレスラーにでもなろうかな」

「おい、迷走中の芸能人みたいになるの、やめろよ」

「あたし、才能あるよ。男のオマエに勝てるんだし」

「……」


 さりげなく、グサッとくること言うなよ……。

 それにお前がマジでプロレスラーになったりしたら、オレは嫌だよ。

 危ないよ……。


「大体あたし、もうなりたいもの、あるし」

「お、何だ⁈」


 気になる。

 ミサエのなりたいもの、すげー気になる!


「作家。小説家とか、漫画家とか……」

「おおー! 理由は?」

「外に出なくても、早起きしなくても良さそうだから!」

「……あ~、そこか~……」


 それも、らしいと言えばらしい。


「つーかさ、ゲーム置き去りだよね? エンディング間近でしょ、これ」

「あ、そうだった!」

「早く見たい」

「これ食べてから!」


 このパンケーキは結構なボリュームがある。


「四十秒で食べ終えな」

「無茶言うなー! 喉詰まるだろ!」


 それでも、やっぱりパンケーキはうまい。

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