プロレスごっこ

「さー、食べるぞー」

「わーいポテチポテチ~。いただきま~す」


 ミサエは子どものようにはしゃぐ。善希によるパーティー開けが完了し、みんなでポテチを食べ始めた。うまい、うまい。そう言いながら仲良く楽しくポテチをつまむオレたち。

 しかし、それが後半になると……。


「おいミサエ」

「あ?」

「お前、一気に二枚も取るなよ」

「いいじゃん、どっちも小さいんだから」

「兄ちゃん、けちんぼだなー」

「ねー、器ちっさ」

「お前ら……!」


 決まって二対一の構図。オレの味方なんて、一人も居やしない。そしてとうとう……。


「あっ……」


 重なる、ミサエとオレの声。書店あるいは図書館にて、一つの本に、二つの手が伸びる……というようなロマンチックな展開は待っていない。


「おい、手ぇどけろよ」

「何を偉そうに言ってんだ、お前は」

「あたしがお客様なんだから、ここは譲れよ」

「ヤダね。大体客なのに図々しいんだよ、少しは遠慮しろ」

「あらー、このおこちゃまはレディーファーストを知らないのね~。残念ですわ~」

「ポテチ食うの早くて、小さいのばっかになってから一気に二枚も取って、それでいてさっきまで上半身下着姿だった奴が何言ってんだ! 都合良く女ぶってんじゃねーよ!」

「あたしは女だよ! そういうオマエは男かよ!」

「あー男だ!」

「ふーん。じゃ、勝負する? プロレスで。男、見せろよ!」

「やってやらぁ。オレは男だ、絶対に勝ってやる!」


 ポテチ一枚に何をムキになってんだか。自分でもバカバカしいと思う。でもオレは、どうしても勝負したかった。


「お! ジャッジはおれがやるー♪」

「よっちゃん頼むよ!」


 善希がノリノリでレフェリーを申し出た。ミサエもノリノリ。


 こいつら、オレの気も知らず……。 


 間を開けて向かい合う、ミサエとオレ。そしてその間に立つ、レフェリー・善希。


 絶対に勝ってやる。


「レディー、ファイト!」 

「おおおおおっ!」


 善希がパチンと手を叩いた直後、オレはミサエめがけて突進した。

 そして、数秒後。


「ぐぇ」


 バンバンバンバン!


 ミサエに突進をサラリと避けられたオレは、背後に回られ、ケツに思い切り蹴りを入れられ、よろけた。そして、あっという間にマウントを取られたオレはミサエの締め技を食らい、今、手で必死に降参の合図をしている。


「カンカンカンカ~ン! ミサエちゃんの勝ち~!」

「やった~! ポテチいただきまーす!」


 床にベッタリなオレをほったらかして、ミサエはポテチを口に入れる。


「いや~、素晴らしい試合でした! 決め手となった締め技、お見事です!」

「ありがとうございます~! ポテチおいし~!」


 善希はレフェリーからインタビュアーと変わった。


「今回で、ちょうど二百連勝ですかね?」

「そうですね~」

「全勝なんてすごいですね~」


 そう、オレは今まで一度も、プロレスごっこでミサエに勝ったことがない。


「男のくせに、弱くて嫌になっちゃいますよホント~」


 そうだよな。男のくせに、情けねえよなオレ……。

 好きな奴にプロレスで全然勝てないなんて……。

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