言いたい言えない「違う、そこじゃない」


「大体どうして、暑いのにパーカー着てんだよ?」

「外でキャミは、さすがにやばい奴だろ」

「最初から脱ぐつもりだったのかよ!」

 

 てか一応、羞恥心あったのか!


「家ではいつもこの格好だもーん」

「Tシャツ着ろよ!」

「選ぶの面倒だから、そこら辺にあったパーカー着た」

「……は~……」


 オレが呆れてため息を吐くと、トントン、とノックの音。


「兄ちゃん、おやつ」

「おー、サンキュ」


 ドアが開き、善希よしきが本日のおやつとともに姿を現した。


「ミサエちゃん、いらっしゃい」

「おう、よっちゃん。ありがと!」


 ……よっちゃん……。

 それなのに、オレは……。


「オマエの弟は、相変わらずのいい子だねー」

「いや~、それほどでも~」

「あはははは!」


 ……。


「何でそんな不満げな顔してんの?」

「別に」

「あれぇ~、それってひょっとして~」

「……何だよ」

「ヤキモチ?」

「な!」


 予想外のご名答。思わず顔が赤くなる。そんなオレを見て、目の前の約二名はニヤニヤしている。


「そ、そんなことねーよ!」

「いいトシした高校生が、弟に対してヤキモチですか~」

「違うから!」


 いや、そうだけど!


「弟が褒められたなら、兄として喜ぶべきっしょ。オマエ、よっちゃんに妬くなよな~」

「えっへっへっへ」

「何でオレは『お前』で、善希は『よっちゃん』なんだよ!」


 そう言いたいけど言えない複雑な気持ちで、オレは誤った解釈をしてはしゃぐ奴らを、ただただじっと見ていた。

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