お下がりならぬ……
「あー、もう! これ着ろ!」
「ん?」
オレは、いらなくなったTシャツを取り出し、それを目の前にいる痴女に向かって投げた。
「いいの?」
「いいよ。もうオレは着ないから」
「ちょっと! これかわいいじゃん!」
オレが投げたのは、キャラクターもののTシャツ。
そっか。こいつ、こういうキャラクター好きだったんだっけ。すごく喜んでいるんですけど。ハイテンションが予想外なんですけど。キャラクターについて、さっきから「かわいいかわいい」言いまくっているんですけど。ていうか……。
そんなミサエが、めっちゃかわいいんですけど!
「ねえ、本当にもらっていいの?」
「お、おう……」
ついボーっとしていたオレは、慌てて返事をした。
「……ありがとうっ! 早速着る!」
「……どういたしまして」
さっきまで屁理屈を言っていた痴女はいずこ。もうすっかり女の子な幼なじみに、オレはすっかり心を奪われていた。
……心を奪われているのは、今に始まったことではないんだけど。
と、妙にクサく自分にツッコむオレ。そんなオレの横でTシャツを着ている幼なじみ……をオレは直視できていない。
「がっつりキャミソール見といて、今更目を逸らすこともないんじゃねーの?」
「うっせ! がっつり見てねーし!」
「はいはい」
また逆ハラか! かわいいって思ったのに……。
「オマエからこういうお下がりもらうの、もう何回目だろうねー」
そう、こいつにお下がりをやるのは、もうずっと前から始まっていることだ。オレが着なくなった服は、ほとんどこいつへと回っている。その服はオシャレに着こなされているものもあれば、単なる寝巻きになっているものもある。
「ていうかさ、これってさ……」
「何?」
「お下がりっていうより、いわゆる……」
「……?」
え? まさか、まさか言うのか?
あの言葉を、オレは言われるのかっ?
「お上がり、だな!」
「……は?」
「オマエより誕生日が早いあたしの方が、お姉さんだから!」
「……」
「彼シャツ」という言葉を期待していたオレが恥ずかしい。
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