抜いてやる!
オレには、プロレスとビジュアル向上以外にも、諦められないことがある。
「あらぁ。ミサエちゃんと賢太、身長同じなのね!」
オレは小学生のころ、母ちゃんからのその言葉がチクリと刺さった。
「まあ、でもいつか賢太の方が高くなるわよねぇ。男の子だもの」
そして同時に、この言葉に励まされもしていた。
「成長って早いわ~。制服、大きめに作っておいて良かった!」
「だろ⁈」
中学生になったオレは、急に背が伸びてきた。
そしてもちろん……。
「へっへっへ。今はオレのがでっけぇな」
オレとミサエとの身長差もできた。
……よぉぉぉぉぉぉしっ!
「あっそ。それは良かったね」
……へ?
「え、それだけ?」
「あら、足りない? まーすごいですねあなたはせがたかくなってとてもえらいわねー……、はいっ、これで満足ですか?」
「良いよ、もう」
予想外の反応に、オレは気を落とした。
何なんだよ。
「悔しい」とか「かっこいい」とか、期待していたのに……。
そしてその後、オレの傷口を抉るかのような、まさかの出来事が起こる。
「ミサエちゃん、急に背が伸びたわね! モデルさんみたいで素敵だわ~」
「おばちゃん、ありがとうございますっ!」
マジかよ……。
中学二年生のころ、ミサエの背が急激に伸びた。もうその勢いはすごかった。ニョキニョキ、ニョキニョキ、と、まるで止まることを知らないかのように伸びる身長。気が付けば……。
「あらぁ。ミサエちゃんと賢太、身長同じなのね!」
母ちゃんが、あのときと同じ言葉を発した。
「あたし、170cmです~!」
オレも同じです~……なんて元気良く言えない。絶対に。
そして身長差ゼロの悲劇は、まだまだ続く。
「あー、暑い暑い! アイス買いに行くだけで汗かく~」
「……おい、ミサエ……」
「何?」
「何で近所のコンビニ行くだけで、そんなヒールの高いサンダル履くんだよ!」
「さぁ、どうしてかな~」
「嫌がらせか?」
「ピンポーン♪」
オレと同じ身長になって以来、ミサエはたまにヒールの高い靴を履いて、オレとの身長に差をつけるという嫌がらせをするようになったのだった。
「っぷは!」
風呂上がり、オレはビンに入った牛乳を飲んでいる。
「兄ちゃん、そんなにミサエちゃんより背ぇ高くなりたいんだね?」
「ぶ!」
「うわ、汚いよ兄ちゃん!」
「お前、人の心を勝手に読んでんじゃねーよ!」
「ああ、やっぱし」
「! お前……カマかけたな!」
「まあ、好きな人との身長差は、永遠の憧れだよね」
「当たり前だろ! ……って、え?」
「ぷっ……、頑張れ」
「っ……、この野郎!」
「言っとくけど、母ちゃんも知っているからねー」
こいつ、知っていたのか! オレがミサエのことを好きだって……。
しかも、母ちゃんまで……!
「後で泣かすぞコラ!」
「良いよ、母ちゃんに言うから」
「……弟だからって、調子に乗るなよな!」
「へ~んだ。お風呂行こっ!」
善希は風呂場へと逃げていった。
あいつめ……。
後でやってやるからな。
そしてミサエ。
何だかんだで、お前の成長は止まっているみたいじゃねぇか。
いつか見てろよ。
身長差、つけてやる!
オレは意気込みながら牛乳を飲み終え、風呂場へ直行した。
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