かっこいいは、作れる……のか?

「それにしても、ミサエちゃんかわいいわよね~。美人なお母さんに似て」


 メロンを頬張りながら、母ちゃんは言う。そう。実はあのミサエ、食い意地の張ったブタで、ケンカが強いゴリラであると同時に、美少女なのだ。目はパッチリ。その他の顔のパーツも良い。あんなに脂っこいのばっかり食べているくせに美肌。ラグビー部員か、ってツッコミを入れたくなるくらい食べるのに痩せている。はっきり言って、スタイルが良い。


 ……ってオレ変態かよ。


 もちろん、「美少女」の上に「残念な」は欠かせない。

 対してオレは……。


「オマエ、気づかれないタイプのブスだな!」


 自分の人生が決してイージーモードとは言えないことを勝手に知らされた直後、オレはこの先これ以上、そのブスを気づかれないようにしていこうと決意した。


 ……と、いうよりも……。


 オレは少しでも、あいつに「かっこいい……!」と思ってもらいたかったから、そう考えたのかもしれない。

 まずオレが実行したのが「ビビり染め」だ。明るく染めたかったけれど、結局勇気がなかった。でも気持ちの問題だ。「染めたい」という気持ちの問題だ。オレは髪を染めた今でも、そうやって良いように言って自分を慰めている。

 初めて染めた翌日は……。


「あれ、髪染めた?」


 え、気づいた?


「お、おう……。少しな」

「……ふーん……」


 なあ、似合ってるか?

 オレ、かっこいいかっ?


「せんせーいっ!」


 ……へ?


「先生、ここに違反者がー! 校則違反者がー!」

「わあーっ! やめろーっ!」

「じゃ、パフェ奢れ」

「……は……?」


 髪を染めたことを良いように利用された奴なんて、オレ以外に存在しないんじゃないか……?


 コンビニのフルーツパフェで勘弁してもらい、思わぬ出費をするハメになった自分が情けなさ過ぎて、涙も出なかった。

 「ビビり染め」で泣きを見たオレだが、そこでめげない部分は、自分で自分を褒めてやりたい。

 次はオシャレだ。

 これでもオレは、センスは良い。ファッションは何回も褒められた。オレは高校生の身で金はたくさん持っていないものの、親戚のお下がりをもらったり、弟と貸し借りしたりすることで、自分のできる範囲でコーディネートを楽しむ。着回しコーデもなかなかおもしろいんだ、これが。もちろん、バイト代やら貯金やらで服を買うこともある。


「そんなにオシャレなら、SNSやってみたら良いじゃん」

「そうかっ? じゃ、やってみる」


 SNSを勧められたとき、すごく嬉しかった。

 なぜなら、勧めてくれたのが、ミサエだったからだ!


 あいつが!

 あのミサエが! 

 やっと褒めた! 

 オレ、褒められた!

 ミサエに!


 オレは心底喜んだ。

 そのときは。


「お、コメントきてる! goodも押されてる!」


 最初は緊張していたけれど、徐々に楽しくなってきたオレ。他の高校生ユーザーにも、嬉しいコメントを書き込まれていた。オレのこだわりも強くなった。

 ……そして悲劇は突然やってきた。


「……え……」


 そのときオレは、もうすっかり楽しみになっていたSNSのコメント欄を見て、ショックを受けた。


「服がかわいそ~」

「ちょw モデル気取りですかwww」

「このポーズ、痛っ……」


 そんな……。

 ……ん?

 投稿者が全部同じ。名前は……。


「あ~っ!」


 オレはSNSを中断し、すぐに電話をかけた。


「もしも~し」

「おい! ミサエ!」

「なーに?」

「このMs.Eっていうの、お前だろ!」

「あららー、バレたー♪」 

「お前、最初から嫌がらせする気だったのか!?」

「だってムカつくんだもん、ブスのくせしてファッションリーダー気取りのオ・マ・エ☆」

「くそぉ~っ!」


 その日でオレは、ミサエが教えてきたSNSを退会した。




「あんなかわいいミサエちゃんが、本当に母ちゃんの娘になったら良いのに~……」


 そう言って母ちゃんは、オレをチラッと見た。

 

 ……母ちゃん、これでも一応、頑張ってるんだよ、オレ。

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