第六話:ホームセンターは現代知識チートの宝庫です
深夜0時と同時に俺は自宅のアパートへと転移する。
完全に週末の日付変更が異世界転移の起動キーのようだ。
「ふう……王様達しつこかったなあ。気持ちはわからなくもないけど」
農業の知識を伝えるとウルの国王は必死に移住を懇願してきた。
王室の娘を嫁に公爵位と土地を提示してきたが断った。
週末限定で立ち寄るなら悪くないが、現代社会のライフラインやアニメもネットもゲームも漫画もない世界に永住は絶対に断る。
賢者の国から物資を持ち込む事と可能な限りウルの国のみ知識を教えることで納得してもらった。
就寝につこうとした時、ふと気づいたことがあった。
「そういえば、ウルの国の言い伝えからすると過去にも賢者がいたとも取れるけど……あんまり発展していないような」
開かずの扉が開くと賢者が現れるということは前にも開いて現れたとも言える。
とりあえず、次にウルの国に行った時に聞いてみようとメモに書き込んだ。
翌日仕事を終えて質屋にウルの国の金貨を売る。店主からどこの国の金貨かわかれば歴史価値もつくから記録が残ってないか聞かれた。
とりあえず祖父が戦時中に手に入れた物、祖父は亡くなっているでお茶を濁した。
ウルの国へと移動する週末までインターネットや書籍で伝えられる技術を探し、プリントアウトしたり、近くのホームセンターに立ち寄ってウルの国に持ち込む種子を選ぶ。
可能な限りテクノロジークラッシュを抑えるため、現代の農耕器具などは持ち込まない。
青年海外協力隊時代、研修でテクノロジークラッシュの恐ろしさは耳にタコどころか暗記できるほどに繰り返し教え込まれた。
テクノロジークラッシュとは技術革新の過程をすっ飛ばして最新技術を持ち込むことによる弊害を言い表す。
研修時には過去に青年海外協力隊が行った支援が原因で起きた人災や災害を教えていた。
たとえばずっと人力で農業を行っていた場所に最新のトラクターや農業器具を提供し、人手を必要としなくなったために農場で働いていた農民が失業してしまい、暴動が起きた。
同じように農業器具を持ち込もうとして、現地の農民が仕事を奪われると勘違いして器具を破壊して、協力隊員に襲いかかった事もある。
ブルドーザーなど重機を持ち込んだことで乱開発され地すべり、崖崩れ、森が枯れてしまう出来事があった。
機械で地下水を組み上げる井戸を作ったが、組み上げ機が故障すると修理できる人材がおらず、水不足地域に逆戻りした国もあった。
急速に発展したことで貧富の差や教育の差による差別が発生したこともあった。
日本の協力隊は可能な限り現地でも再現できる技術提供で押し留めている。
「とりあえず、こういった農作物の種子なら大丈夫だろう。肥料とかはバイオトイレのおが屑や家畜の糞など利用して……」
購入した種子はコムギ短稈多収品種、かぼちゃにじゃがいも(メイクイーンに男爵など)、大豆にサイフォン、シロツメグサにレンゲ、蕎麦に綿花、あと竹の苗にきのこ類の種菌。
改めて思うがホームセンターは往復できるタイプの異世界トリップでは最強のチート施設かもしれない。
「ノーフォーク農法に千歯扱きに竹が育てば踏み車が作れるな」
鞄に農業指導方法をプリントアウトした種類を詰めて異世界トリップに備える。
時刻は金曜日の23時30分。忘れ物がないか再チェックして俺は異世界トリップに備えた。
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