第七話:ノーフォークと肥料と手押しポンプ


「チートの賢者よ、よくぞ来てくれた」


 ウルの国に通じる扉を潜るとウルの国王であるレネゲスが歓迎してくれる。

 チートの賢者とはウルの国での俺の呼び名だ。本名である天城将和という名前はウルの国の人々からすると発音しにくいらしく、チートの賢者で名前が定着してしまった。

 ちなみにチートとはウルの国の言葉で知恵を与えるという意味らしい。意味を知ってもチートと言われると吹きそうになってしまう。


 早速種子を渡すと聖遺物のような丁重な扱いで運ばれていった。まあ収穫量が現在より増えて病気に強く、蕎麦やじゃがいもは飢餓対策にも使える救荒作物だ。

 竹については取扱い注意と伝えると見ているこっちが気の毒になるほど青い顔でおっかなびっくりな手つきで竹の苗を持つ。


 持ち込んだ農作物の栽培方法と手入れの仕方を教え、ノーフォーク農法を伝える。

 ノーフォークとは休耕地がない農業方法だと伝えると農業に詳しい家令や貴族は卒倒と言うか興奮のあまり気絶していた。


 国王レネゲスは即座にすべての農地にノーフォークを導入しようとするが、俺はそれを止める。ノーフォークには一つデメリットが有り、最初の年は収穫量が微妙なのである。翌年から土地が肥沃になるので、新規に開墾する農地にノーフォークを実行するようにしてもらった。


 次に取り掛かったのは肥料の制作だ。使用済みのバイオトイレと森の枯れ葉を集めさせて堆肥を作る。

 一部の貴族が作業工程を見て直接畑に人糞を撒けばいいのではというので必死に止める。

 発酵させないと肥料にならず、直接撒き散らすと疫病のもとになると伝えるがいまいち納得がいっていないようだ。

 最終的には賢者様がそう言うなら従いますということで止めれたが、勝手に行いそうな気がするので国王に監視を依頼する。


 そのついでに開かずの扉と前任者と思われる賢者の言い伝えについて詳しく聞くと、家令がヒビの入ったかなり古い粘土板を持ってくる。

 その粘土板には前任者と思われる賢者のことが記録されていて、ウルの国の人々は神の国の住民だったが、神の目を欺いて禁忌を犯し罰として知恵を奪われ神の国を追放される。

 今の地に辿り着いた時あの扉だけが草原のど真ん中にあって、賢者が現れて神に奪われた知恵を取り戻し、火の起こし方や狩りや農業の仕方、馬の乗り方や青銅の作り方などを教えてくれたという伝承だった。

 そしてある日唐突にドアから現れなくなり、王国の住人がドアを開けようとしても開かず。またいつか来てくれることを願って今日まで暮らしているという。


 つまり前任者の賢者は原始文明から青銅器などを使う古代文明に底上げしたのかな? ある程度文明が育つと賢者の役目が終わってドアが開かなくなるとか?

 この粘土板に書かれた伝承以外確認しようがないのでとりあえず、今代の賢者として活動を続けることにした。


 ウルの国は馬が多いので馬糞と藁を使った馬厩肥を製造する。混じり合って発酵し熱を発生するようになればきのこ類の種菌を植えてキノコを栽培する。

 肥料の作成方法と取扱を説明していると鍛冶師達が以前伝えた手押しポンプの試作品が出来たと伝えに来た。

 上総掘りで掘削して作った井戸に試作型の手押しポンプをはめ込み、呼び水と呼ばれる水を注ぎ込んでピストンを上下に押し引く。

 しばらくは何も起きなかったが、すぐに地下水から水が組み上げられ、手押しポンプの蛇口から水が吹き出ると見学していた人々から感嘆の声が漏れた。

 そこからは交代で国王や貴族達が手押しポンプで水を汲み、その手軽さに驚いている。

 早速鍛冶師達に手押しポンプの増産が命じられ、鍛冶師達は悲鳴を上げていた。

 とりあえず農業に関してはここで一旦終えて実りの様子を確認することにした。

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