第八話:鐙とクロスボウとギリースーツ


 農業指導を終えて昼食を取り、午後からは軍事面の知識を伝えることになった。

 都市郊外の演習場と思われる広い草原地帯に騎士達が集まる。

 常備軍と言った兵力はなく、基本戦争が起きたら周辺領主の参軍と農民達から徴募徴兵が基本だった。


 常備軍を作ろうとしたら農業生産力を上げないといけないので今現在では無理だ。

 今後の目標としてメモに書いておく。


 まずは何故かホームセンターで売ってた鐙と鞍を馬につけてその有用性を説明する。

 だが、軍馬を操る騎兵達の反応はいまいちだ。騎兵達からすると鐙は騎乗する際の補助台ぐらいの認識で、この国の馬はポニーほどではないが背が低く、鐙なしでも跨がれますよと返された。

 多分日本で例えるなら俺は二輪の自転車乗れる大人に補助輪勧めているような感じか?


 国王の命令で騎兵の一人が鐙付きの馬に騎乗し演習場を一周する。半周は緩やかに、残り半周は全速力で走らせる。時折剣を振らせてバランスが取れるか試してもらった。

 一周して返ってきた頃には騎兵は興奮した様子で鐙の素晴らしさを伝えようとするが、興奮しすぎて言語中枢が故障したのか、すごい、やばい、最高と単語を繰り返して鐙を褒め称える。

 国王は要領が得られなかったで、また別の騎兵に鐙付きの馬に騎乗させ走らせる。

 やはり帰ってくると言語中枢が壊れて最初の騎兵と同じ言葉を繰り返すだけだった。

 最終的に騎乗が下手な兵士が鐙付きの馬に乗って走らせる姿を見てその素晴らしさがわかったのか、鐙を馬鹿にしていた騎兵達が謝罪してきた。

 国王も試しに乗った結果、鐙が軍事機密扱いになった。

 ただこれはすぐにカウンターテクノロジーされるだろう。見たらどういうものかわかるし。


 次に伝えたのはクロスボウ。リアル中世ヨーロッパでは威力が高すぎて悪魔の兵器と言われ教会から使用禁止令が出された兵器だ。

 弓職人が試作機を作り、弓の名手が試射する。的になっていた木製の板を矢が貫通し穴を開けた。

 見学していた兵が絶句し、試射した弓兵も恐ろしさのあまりにクロスボウを投げ捨てた。

 国王に耳元でクロスボウのメリットの一つである訓練していない兵でも取り扱えることを伝えたら卒倒してしまった。

 意識を取り戻した王はクロスボウの製造は最重要国家機密とし、王家が認めた職人以外製造を一切禁止とお触れを出すことになった。


 まだ伝える知識あると言ったらもう勘弁してほしそうな顔で続きを促された。

 次に伝えたのが偽装。革と布の合皮服を草汁で染めて木の葉や枝など挿してギリースーツ風に偽装させる。

 何もない場所で紹介すると滑稽に見えたようで兵士達は失笑したが、森の中での隠れんぼを実地すれば、兵士達の悲鳴が森に響き渡り、泣き叫びながら這々の体で森から逃げ出る兵士達。自衛隊直伝の偽装技術は異世界でも有効だった。

 この時代の技術で製造すると革と布の合成品で10~15キロ前後の重さになるのがネックだ。15キロというと野球のキャッチャー防具フルセット並の重さをイメージしてくれ。


「王様、このギリースーツ着て森とかに隠れてクロスボウで狙い撃つ。どうです」


 その一言でギリースーツの製造も軍事機密で王家認定の職人のみ製造許可となった。


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