第二話:鉄を作ろう。



 自室に響き渡る目覚ましのアラームで目が覚めるとそこは城の来賓室ではなく、アパートの自室だった。


「夢か? 仕事で疲れて土日ずっと寝ていたの……ん?」


 ウルの国での出来事は夢かと思った。起き上がる時にポケットに入っていた何かが落ちた。


「夢じゃ……ない?」


 落ちたのは数枚の金貨。ウルの国で木炭などの作り方を教えた礼として国王から貰った報酬だった。

 製造技術がまだ未熟なのか歪な円に彫り刻まれた人の顔の金貨。それはあの出来事が夢でないという証拠だった。


「だけど……扉がない。あの日限定の出来事だったのか?」


 ウルの国に繋がっていた扉はなく、扉があった場所はただの壁だった。狐につままれたような気分だが、時間は容赦なく現実を突き出す。ふと時計に目をやればそろそろ家を出ないと会社に遅刻する時間だった。


「そういえば、この金貨って売れるのだろうか?」


 仕事を終えて自宅へかえる途中、ポケットに入れたままだった金貨を手にしてそんな疑問が浮かんだ。

 ちょうど帰り道に金の買い取りのテレビCMをやっている業者がいたので試しに売りに行った。


 結果は売れず。金貨が偽物とかではなく、こういった正規の金の買取業者は製造日や18金、24金で製造されましたという刻印が入ってない金は法律か何かで買い取れないらしい。

 売りたいなら質屋に外国で購入した金と思われるものか、祖父が持ってた遺品という扱いで売るようにと言われた。

 買取店の店員に言われたとおり質屋で売ると金貨が10万になった。なんでも今金が高騰しているらしくまだあるならぜひ売ってくれと言われた。


 売りたいのは山々だが、もうウルの国にはいけない。一時の夢と臨時収入だったと思って諦めることにした。


「諦めたはずなんだけどなあ」


 週末の金曜日、日付が変わる頃にアパートの自室へと帰宅すると、ウルの国に通じる扉が現れていた。


「ようこそ賢者よ! お待ちしておりました」


 扉を潜るとウルの国の王族によって迎え入れられた。どうやら王族たちも俺の再来を待っていたらしい。

 ちなみに前回どうやって元の世界に戻ったか聞くと、開かずの扉が開いたかと思うと俺を吸い込んで閉じたという。


 今回は製鉄技術を教えることにした。ただ鉄の作り方を教えるというと周囲が凄くざわついた。

 何事かと聞くと、鉄はウルの国では製造できず、悪魔の金属と忌み嫌われているという。

 なぜ悪魔の金属かと聞いたら、北方の騎馬を使う蛮族達が鉄の武器を使っており、その武器を鹵獲して調べ、炉にくべて溶かそうとしても溶けなかったからという。多分温度が足りなかったんだろうな。


 鉄は悪魔の金属ではない事を説明し、実際に製鉄工程を見学させることになった。

 製鉄の基本は炭素から一酸化炭素を生成し、一酸化炭素の強力な還元作用によって酸化鉄を還元することで鉄を作る。


 薪だと温度が足らず、木炭だけだと燃焼に時間がかかり放熱してしまい、やはり温度が上がらない。

 そこで必要になるのがフイゴだ。材木と革があればなんとか作れる。試作品を作ると団扇と勘違いされた。更に炉に空気を送る過程を見せたときも火を消してどうすると言われて説明に時間がかかった。

 銑鉄と言われる鉄ができたので、それを鍛冶師が鍛造して剣を作り上げたことで製鉄技術も王家の秘伝となり、今回の技術提供に対しては金貨10枚貰うことになった。


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