第五話:農業指導その1


 翌日城の客室で目を覚ます。スマホを確認すると時刻と日付は日本時間で日曜日の午前7時と表示されていた。


「ベッドも変えたいな」


 21世紀の日本のベッドに慣れている俺の体はウルの国の寝具は不評だった。

 木枠に藁を敷き詰め上からこの時代ではマシなシーツをかぶせただけの簡易的なもの。掛け布団もなくシーツと同じ布を布団代わりにしていた。


 今日は農業指導することになった。

 ウルの国の食料を支える農地は城壁を超えた都市の外側にあり、育てられているのは麦や豆類等、農業方式も原始的な二圃式農業法(農地を二つに分割して片方休ませて地力を回復させる方法)だった。

 種蒔方法も畑に植えるのではなく、適当にばら撒いていた。これだと種が密集して根を張り、十二分に栄養を吸収できずに痩せた作物になったり、鳥や小動物がばらまかれた種を食べてしまう。


 現代日本から農作物の種を持ってきてもいいが、まずウルの国の気候がわからないと育てる農作物も決まらない。

 温暖気候で育つ農作物を寒冷気候の地域に持ち込んでも悲惨な結果しか残らない。

 麦が育っているのは確実なので小麦農林10号を親に持つコムギ短稈多収品種を持ち込む予定だ。

 家畜として牛や馬がいるので肩掛け牽綱や縦列法による鋤での土地の耕し方法とモールドボード・プラウと呼ばれる家畜牽引式の改良犂を伝える。

 種蒔はばらまくのではなく筋蒔き型という一直線上に浅い溝を等間隔に作り、その溝に種をまく方法を伝える。


 現代世界では当たり前だったり、時代遅れの農法だが、ウルの国の時代ではオーパーツ級の技術知識となり、国家機密扱いとなった。

 事実農民や農奴と呼ばれる人達に農法の秘密をバラしたら一族郎党全員斬首と伝えられ、農民農奴が青い顔で土下座して絶対に秘密を漏らしませんと誓約を交わしていた。

 同じように指導現場を見た貴族や兵士も箝口令が伝えられ、どんな役職であれ秘密を漏らせば一族郎党全員死刑となった。


 次に視察したのは葡萄園。ウルの国はワインが特産らしく、これを外部に輸出して外貨やウルの国では手に入らない香辛料といった輸入品と交換していると聞いた。

 ワインの搾りかすについて聞くと普通に廃棄しているというので搾りかすを使った毒餌の作り方を教えた。


 毒餌と言っても搾りかすを木の枝などに吊るすだけ。それを狼や熊などが餌として食べると酔いつぶれて駆除が楽になるというもの。

 青年海外協力隊のメンバーで、日本で農業やってた同僚から教えてもらった方法で、本人曰く熊が搾りかす抱きかかえて酔いつぶれてイビキかいて寝ていたなんてエピソードがあったなんて言ってた。

 最初は冗談だと思ったが、携帯動画で本当に熊が一升瓶抱きかかえて酔いつぶれてイビキかいているおっさんみたいに寝ている動画を見せられ絶句した。

 狼などの害獣の駆除に使えると伝えると農民達から賞賛の嵐だった。かなり害獣被害が深刻だった模様だ。


 搾りかすの葡萄種から種子油を取る方法を教え、俺の国では高級品扱いと伝えると蜂の巣をつついたような大騒ぎで種を回収していった。残った人員に種子油を効率よく採取できる木ねじ式圧搾機を大工達に教えておいた。


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