第四話:ポンプとバイオトイレと衛生指導


 二回目の異世界トリップから5日後の金曜日、時刻は23:59分。

 時刻が0時になり、日付が変わると同時にウルの国に繋がる扉が開き、ウルの国へと向かう。

 扉を潜ればウルの国の人達も慣れてきたのか、普通に歓迎してくれた。

 まずは上総掘りがどうなったか確認する。

 井戸掘り装置は完成しており、試し掘りも終えていた。城にいた貴族達が興奮した様子で上総掘りを褒め称える。

 王レネゲスが言うには上総掘りを褒め称えた貴族達は水が不足気味の領地を持つ領主らしく水不足解決のめどがたったから喜んでいると説明してくれた。


 ポンプの知識を教えれば撥ね釣瓶より先に教えて欲しいと怒られた。

 鍛冶技術がまだ未熟で再現できないかもしれないからというと鍛冶師達の職人魂に火がついたのか再現してやると息巻いていた。


 続いてバイオトイレと衛生指導として手洗いと煮沸消毒の概念を伝える。

 バイオトイレは大歓迎された。やはり臭いものは臭いらしく、バイオトイレを使えば匂いが軽減できると伝えると排泄物の放棄場所に近いエリアで生活していた使用人たちの目が輝いていたというか……ちょっと狂気を孕んだ期待の眼差しになっていた。


 バイオトイレと言っても材木を切る際に発生するおが屑を便器に入れるだけ。

 排泄物をおが屑が微生物分解していくので、山間部や水不足の地域ではこのバイオトイレが主流だったりする。

 地震や紛争などでライフラインが破壊された被災地でもこのバイオトイレは重宝された。時間はかかるが微生物分解された排泄物とおが屑は肥料にもなるので、ウルの国の農業にも貢献できるだろう。


 さて地味に困ったのが衛生指導だ。

 なにせ雑菌やばい菌の概念がなく、なぜそんなことをしないといけないのかから説明しないといけない。

 ウルの国の人々は衛生管理の重要性に今ひとつ理解していないが、あれこれ知識を提供していた事で賢者様が言う事ならという形で受け入れてくれた。


 まず原始的石鹸を作り説明する。作り方は簡単で動物の油脂と水で溶かした灰を混ぜた物。肌が荒れやすいので使いすぎないことを注意しながら手洗いの習慣を説明する。

 次に煮沸消毒。最初は火起こしや湯沸かしが手間なのかウルの国の人々は難色を示していたが、病気の悪魔は熱湯に弱いと伝えると手のひらを返したように受け入れてくれた。とりあえず人には熱湯かけないように注意して釘を刺す。え、駄目なの?的な反応があったことから言わなかったら大惨事になってたと思った。

 実際青年海外協力隊に所属していた時代に電気ガス水道すら無い後進国の田舎にこの煮沸消毒の概念を教えたら赤子に熱湯をぶっかける事件が起きて大変だった。

 ドクターヘリを呼んで治療にあたり一命を取り留めて本当に良かった。


 最後に傷口の水洗いと清潔な布での包帯止血方法を教える。傷口を洗う水も木炭の濾過装置を使った水を一旦沸かして冷ました水で行うように伝える。布も煮沸するように伝え、止血帯のやり方を説明する。


 ウルの国の人達は羊皮紙や粘土板に教えた知識を書き写し、すぐに実行できることは実行していった。

 衛生指導に関しては効果が見えないことで報奨は一旦保留。ポンプは実際に作って稼働実験してから報奨を支払うと言ってくれた。

 バイオトイレに関しては金貨5枚と使用人たちから多大な感謝を頂いた。


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