26.Iron 【鉄】
語るべきことは少ない。
俺はありふれた元素で、安価だ。
錆びやすく、軽くもなく、さほど硬いわけでもない。
金属としての俺に取り柄があるとしたら、他の元素と混じることで多様な合金を作ることができる、その一点だろう。しかし、それも俺自身の手柄ではない。他の元素と、ヒトの試行錯誤があっての結果だ。
そう、大昔から、ヒトはさまざまな加工を施し、さまざまな形で俺を使っている。
武骨で重く、すぐに赤いサビが浮いてくる俺に、よくもここまで付き合ってくれたものだ。
現代にいたるまで好んで使ってくれるというのだから、俺は必要とされる限り、最大限役にたつと約束しよう。
特に肩入れしているつもりはないが、俺がヒトに近しい存在でいることができるのは、血液の中に俺が潜んでいるせいかもしれない。タンパク質の一種であるヘモグロビンの中にいる俺の原子は、細胞に必要な8番を身体の隅々まで運ぶ役目を担っている。ヒトや動物の体内で重要な役目を担っているのであれば、親近感を持つのも不思議はないだろう。
しかし8番……8番か。あれには妙に縁がある。
8番にじわじわ浸食されるとポロポロと錆びてみっともなくなる俺だが、不思議とあれが苦手というわけではない。手に負えないところもあるが、8番に悪気がないことは理解しているつもりだ。
さあ、そろそろ27番に譲るとしよう。27番と13番の酸化物は美しい顔料を造り出し、その青は誇らしげに27番の名を冠している。
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