私たちは世界をつくっている
タイラ
1.Hydrogen 【水素】
一番って本当に良い響き。
全宇宙を構成する元素で、いちばんたくさん存在するのは私。
そしてこの世界を作るすべての仲間のうちで、いちばん軽いのが私。
ほら、昔は私を飛行船や風船に詰めて飛ばしていたでしょう?
え、覚えていない?
そう、今は私より2番のあの子が主流になっているものね。私と比べればあの子は少し重いけど、とても穏やかな性格だから、ニンゲンたちには扱いやすいのでしょ。ええ、ほんのちょっぴり怒りっぽいことは自覚しているし、そこは納得しているの。だって炎が近づいて来ると、ついついぽんって燃え上がっちゃう。
……ああ、なんだか悲しいことを思い出したわ。風船の中身はこれからも、あの子に任せることにしましょう。
別に風船に詰めてもらわなくても、私のことは誰でも知っている。動物も植物も、およそこの地球で命のあるもので、私をまったく必要としないものは存在しないんじゃないかしら。
ほら、空を見上げてみて。
そこに輝く太陽は、私をどんどん消費して、ちょっぴり重い2番を作り続けている。2番をつくるついでに生み出すエネルギーのうち、地球まで届くのはほんのわずか。だけど、そのわずかなエネルギーは、この世界にとってすごく大切なの。洗濯ものがからっと乾くのも、ヒマワリの種が芽を出すのも、私がいなくちゃはじまらないってこと。
太陽の放つ熱と輝きは私の恩恵だといっても自惚れではないと思うわ。
一番手でスペシャルな私だけど、ここだけの話6番と8番には一目おいているの。
6番はおそらく、生命体にとっては私よりも重要な役目を果たしているでしょう。あの子は命の設計図を描き、身体を作る。私と反応した化合物は燃料として広く利用されている。つまり、ニンゲンの生活には欠かせないもの。あの子ほどニンゲンに貢献している元素は他に知らないわ。絶対言わないでしょうけど、あの子はきっと好きなのね、この世界が、この世界で生きているものたちが。私はそういうところを好ましく思っているの。
それから8番。確かに8番は短気で気の多い子だということは認めましょう。でも、そんなあの子が私と一緒になると、全ての生き物にとってなくてはならない物質に変身するんだから不思議じゃない? 地表の7割を占める海も、雨が流れてできる河も、それから生き物の身体の大半も、私と8番が反応して作る、大事なもの。
『水』は命の源だもの、やっぱり私がいなくちゃはじまらないでしょう?
さて、まだまだ言いたいことはあるけれど、自分の話はこのくらいにしておくわ。長すぎる自分語りは、いつだって嫌がられるに決まっているでしょ?
私の次に控えているのは、冒頭で出てきた穏やかな2番。
落ち着きはらった態度とは裏腹に、なかなか面白い子だから仲良くしてあげて、ね?
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