18.Argon 【アルゴン】
やれやれ、騒がしいのう。
儂は18番。
怠け者で不活性でやる気のない名前の通り、世俗にはあまり興味はない。しかしの、『なにものにも反応しない』という特性こそが、儂の価値だと考える者もいる。ほれ、ナントカとハサミは使いようとニンゲンたちもよく言っとるじゃろ? この怠け者さえも利用しようとするその根性は、なかなか捨てたもんじゃないのう。
そうじゃな、儂の使いみちはほとんどが、『反応しやすい何か』を閉じ込めることじゃ。一番日常的なところでは、電球の中に詰められて、張り切って発光するフィラメントを外気から守っておる。いやなに、昔の電球のように中が真空だと、ガラスを厚くせんと保たんからのう。今は電球のガラスの中は、儂や7番が詰められて、フィラメントを守りつつ、外気とほぼ同じ気圧になっているというわけじゃ。
10番がぶつぶつ言とったように、儂にも同じように世界中の歓楽街でぶいぶい言わせていた時代があった。10番は赤橙の光じゃが、儂の光はスカイブルー。これはなかなか見事な色で、まだまだ現役で働いている場所もある。もちろん昔に比べて数は激変しておるが、完全になくなってしまうまでには、そうじゃな、まだしばらくは猶予があると踏んでおる。もっといえば、結局のところ儂らの光はニンゲンがいなくなるまで、滅びることはないかもしれんのう……まあ、これは自惚れと希望の込めての与太話じゃ。
ひょっとしたら、儂はあまりなじみのない名前、なじみのない元素だと思われておるかもしれんな。じゃがの、目に見えなくとも、儂はお前さん方のすぐ近くにおる。そう、毎日吸ったり吐いたりしている大気の中に一分近く、つまり1%近く含まれておる。これが多いか少ないかといわれれば、見る者によって意見の分かれるところじゃろうが、それでも窒素、酸素に次いで3番目に多いということを覚えておいても損はないと思うがの。
やれやれ、17番に乗せられて、少しばかりお喋りが過ぎたようじゃ。
次は再び左端、騒がしいアルカリ金属の順番に戻る。さて、19番はどんなふうに爆ぜるのか、見ものじゃな。
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