21.Scandium 【スカンジウム】


 20番の言う通り、ここから先は硬くて面白みの少ない遷移金属の仲間が続く。

 唯一救いといえば、知名度の高いモノが多いところだが、私はその知名度もさほど高くない。

 では、礼に則って手短に自己紹介をしよう。


 私は21番。

 先に述べた通り、遷移金属のトップバッターだ。『遷移金属』という言葉自体、あまり馴染みのないものだろうが、一般的に『金属』として認識されている元素は、おおむねここに属している。厳密なくくりとしては、原子のどの軌道に、どんな順番で電子が埋まっていくか、その電子配置に特徴があるのだが、その話はここでは無用だろう。


 私はそれほど希少な元素ではない。にもかかわらず、私単体での全世界における年間取引は、極めて少ない部類に入る。広い地域にごく少量ずつ分布するタイプの元素なので、精製することがとても難しいのだ。合金等に使用する場合、金属的に見て、私の性質は22番とよく似ている。つまり、私のことなど気にかけず22番を使っていれば問題は無い。

 しかし、ニンゲンはそう考えないらしい。数少ない私の特性を活かそうと、研究を諦めない。まったく、無駄なことが好きな生き物だと時々感心させられる。


 私固有の存在価値を見出そうとするのなら、メタルハライドランプについて語るしかないだろう。あまり耳慣れない名称かもしれないが、このランプは80番を使った水銀灯と同様の構造でできている。その電球に私の化合物を封入することで、より明るい、太陽光に近い発色を得ることができるのだ。寿命も長いので、取り替えが難しく明るさが必要な場所、たとえばビルの吹き抜けの天井など、高所に使われることが多い。もっと大勢のニンゲンが目にするのは、夜間にスポーツが行われる競技場の照明だろう。もちろん、どんな場所の照明も、昨今の流れに違わず発光ダイオードを使った灯りに変換されていく傾向にある。しかし色と明るさにアドバンテージがある限り、しばらく私の居場所は保証されるはずだ。


 では、次は22番。

 私と違って、22番の知名度は非常に高い。むしろ、その名前が一人歩きしている傾向も見逃せないが、ともかく活躍の場が多い元素なのは、客観的な事実だ。



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