閑話 NeとSi 【ネオン×ケイ素】

 

 ボクのすぐ隣にある遊興場の大きな看板が、とうとう新しくなった。

 もちろんLEDが使われているので、消費電力は低く、やや鮮やかさに欠けるけれど、新品の灯りはとてもキレイだ。


 ボクだって、いつまでここでこうして光っていられるかわからない。

 滅びていく運命を思ってひとつため息を零すと、自慢げに点滅している新しい看板から、誰かの気配を感じた。


「あらぁ、10番発見!」


 呼ばれたボクのほうが恥ずかしくなるくらいの明るい声。

 正直面倒なのに見つかったな、と隠れてしまいたくなったけれど、今は夜。

 望むと望まざるとにかかわらず、ボクは派手な光を放っている。


「こんばんは……」


 と、ボクは仕方なく挨拶をした。

 純度の高い14番は、最近いろんなところに現れる。ニンゲンの考えだした新しいギジュツに、14番はものすごく貢献している、らしい。


「派手なわりにシャイなのねぇ、カワイイ」


 クスクスと、愉快そうに笑う14番は、どこでみかけてもご機嫌だ。

 そりゃそうだよね、ボクと違って、14番には輝かしい未来がひらけているんだもの。どうして古くさいボクなんかに声をかけてきたんだろう。ひょっとして、滅びかけのボクを笑いに来たんだろうか。笑われても仕方ないボクだけど、少し悲しい。


 14番はボクの看板をしばらく見つめると、ゆっくりとこちらに首を巡らせた。

 何を言われても傷つかないように、ボクはぎゅっと意識を閉じかける。


「うーん、やっぱり10番の光はキレイねぇ!」

「…………、え?」

「アザヤカだし、こんなふうに曲げてあるのに、どうしてちゃんと光るのかしら。フシギ」

「……」


 びっくりした。14番はキラキラした目で、にっこり笑う。


「お隣にアナタがいて、すごく嬉しいわぁ。これからヨロシクね、10番」

「…………」

「あらぁ? もしかして、ごキゲンナナメ?」

「……、ちがう、うん……ええと」

「なぁに? ワタシ、なにかヘンなこと言っちゃった?」

「ううん、違う。ありがと」

「え?」

「ボクの光、褒めてくれて」

「ああ! だって本当にキレイだものぉ、羨ましいわ!」


 素っ頓狂な声でそう叫んだ14番につられたのか、ボクは久しぶりにほんの少し嬉しくなった。


「あの」

「ウン?」

「こちらこそ、これからよろしく、14番」


 ボクがいつまでここにいられるか、わからないけれど。

 いつか滅びていく光だって、それはわかってるけど。

 だけど今、ほんのひととき、自分の光を誇らしく思っていたころのことを、ボクは思い出すことができたんだ。




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