8.Oxygen 【酸素】


 は、黙って聞いてりゃあることないこと、ごちゃごちゃうるせーな。

 浮気者とか短気とか並べたところで、結局オレがいなきゃなんもはじまんねぇだろ? この地球で一番量のある元素はこのオレ、8番だ。


 そうだな、好き嫌いは別としてオレと肩を並べられるとしたら、1番と6番くらいか。

 ……まあ、ここだけの話、あいつらいちばんに妙なこだわりがあるから、フォローしておかないとめんどくせぇんだよ。いや、オレだってあいつらの力には一目置いてるって、それは嘘じゃない。

 あと7番とは空気中で常に混在してるから、一緒にいても苦にはならない。てかあいつ、オレのこと時々褒めてくれるし、いいやつだぞ。


 オレの話に戻そう。

 言うまでもなく、すべてのドーブツは呼吸してオレを吸収し、生命活動を維持している。

 言うまでもなく、モノを燃やしてエネルギーを生み出すのは、オレの得意技だ。

 このふたつだけで、もう充分だろ?

 チーターが阿保みたいにはやく走れるのも、ジェット機みたいな金属の塊が空を飛べるのも、突き詰めれば俺のおかげ。そこんとこ、よく覚えておけよ。


 オレが好き嫌いなく反応するからって、浮気者とか乱暴者とかいうやつがいるが、こればっかりは制御できるもんじゃないから、どうしようもない。有機物を燃やすには相応の過熱が必要だけど、だいたいの金属なら常温でも余裕で酸化反応が始まっちまう。とくにチョロいのは26番、てめーだよ! いや、26番以外にもサビやすい金属はいくらでもあるんだ、けど、26番はニンゲンに使われている量が圧倒的に多いからさ、結果あいつが目立つことになるわけ。まーあいつをじわじわ赤サビで浸食してくのは、悪くない気分だけどな。そのかわり、ガツン熱くしてくれれば、黒サビの被膜で守ってやるんだから、おあいこだろ、おあいこ。


 もしもオレからもっと効率よくパワーを取り出そうとするなら、-183度まで温度を下げろ。それが無理ならぎゅっと圧をかけるのでもいい。ある条件下までいけば、オレは薄い青色の液体になる。液体になったら、こっちのもんだ。あとは火種と、ほんの少しの燃料さえもらえば、ロケットを月まで飛ばしてみせてやる。あんまり見る機会はないだろうが、液体のオレは見惚れるくらいいい色だから、死ぬまでに一度拝んでおいてもバチはあたらないと思うぞ。


 さて、爆発的に暴れた後は、さすがのオレもちょっとくたびれる。

 反応が終わってしまえば、しばらくはお休みの時間だ。他の元素とうまいことくっつくと、妙に落ち着いて、それ以上働く気にはならなくなる。

 代表的な化合物でまっさきに思いつくのはやっぱ水だろ? 1番とオレの化合物で命の源。ここでもオレ様は大活躍ってわけだ。ドーブツもショクブツも、水なしで生きていられるやつなんていない。やっぱりオレがいなきゃこの星ははじまんねぇってことだろ。

 はー、ったく、役にたちまくりなうえ、量も多いってんだから、オレってホント使える元素だよな。


 だけど気を付けろ、オレはたいていのモノを酸化させる。そう、生き物だって、ニンゲンだって例外じゃない。触れれば錆びる。摂りすぎれば毒になる。それだけは覚えておけよ。


 じゃあそろそろ次な、オレの次は9番だ。

 すべての元素のなかで、オレよりも過激なのはたぶん9番だけ。

 いや、悪いやつじゃねぇんだよ、基本的に誰彼かまわずケンカを売っていくそのスタイル、嫌いじゃないぜ?



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