4.Beryllium 【ベリリウム】


 4番だ。一応アルカリ土類金属の集団では一番上だな。

 他の仲間とあまり類似点がないという指摘も多く受ける。厳密にいえば、俺と12番はアルカリ土類のグループではないとも言われているが、一般的にさほど大きな問題にはならないだろう。


 俺は金属のなかでは密度が低く、軽量だ。それでいて強度が高く、融点も非常に高い。一見矛盾しているように思えるが、それが俺という奴なんだからありのまま受け入れるしかないだろう。ニンゲンにしろ元素にしろ、自分の性質を自分で選ぶことはできないということだ。


 1番から3番、それから次の5番以降と比べて、俺はあまり馴染みのない元素かもしれない。理由は色々と挙げられるが、まずは希少であること、その結果高価であること、そして毒性があることが原因だと思われる。滅多なことでお目にかかることはないと思うが、俺の粉末を手に入れることがあったら、吸い込まないように細心の注意を払うように忠告しておく。肺に入った場合には、生命に危険を及ぼす症状を引き起こす可能性が高いからだ。


 希少で高価なうえ、扱いにくい俺だが、それでも重宝される性質が全く無いというわけではない。


 まずは先に述べたとおり、軽くて剛性が高いこと。

 ひとつは、X線を透過させること。


 前者の特性を活かしてミサイルや戦闘機の構造部材として使われたり、気象衛星に使われる巨大な鏡の材料となることもある。柔軟な29番と俺をあわせた合金でスパナやレンチを作ると、火花が散らない。それゆえ、引火しやすい油田や可燃性燃料の施設などでは重宝されているという。

 X線透過については利用法はひとつ、X線管の窓だ。内部を真空に保つため、前提として頑丈であることが要求される。ちなみにX線管とは結晶構造を解析するX線回折や、医療診断に用いられている真空管の一種だぞ。


 ああ、固い話ばかりだな。

 では最後にひとつだけ、比較的軽薄な話をしておこう。

 俺の名前の由来となった鉱物『緑柱石(ベリル)』は、美しくて丈夫なことで知られている。もともと、俺はこの鉱物の中から発見されたのだ。緑柱石のなかでもグリーンやブルーに発色するものは『エメラルド』や『アクアマリン』と呼ばれてご婦人方に人気があるという。そういった美しい鉱物のなかにも、俺の成分が含まれているということを、片隅にでも覚えていてくれたら嬉しく思う。


 では、次は5番。

 気のいい奴だときいているが、実はあまり詳しく知らない。紹介は本人に任せよう。



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