13.Aluminum 【アルミニウム】


 12番の言うことに嘘偽りはありません。私には私の、12番には12番の性質がある。それがニンゲンにとってどう役立つかというのは、個々の価値とは関係のないことです。


 さて、改めまして、私は13番。

 日本人なら誰でも、純度100%の私を見たことがあるはずです。むくの私をコインにそのまま使用している例は、1円玉くらいのものですから。ちなみに金属としての私の価値はコインの額面よりもずっと高額です。一説には私を作るのに、相当な赤字が出るという話もあります。どうしてそうなったのか理解に苦しむところですが、きっと何か事情があるのでしょう。


 私は錆びない、と思っている方も多いでしょう。けれどそれは間違いです。空気にさらされれば、私はたちまち錆びる――つまり、8番と反応します。ただし、反応するのは表面のみ、表面部分の私は8番に触れるとすぐさま、丈夫で安定した物質、俗に『アルミナ』と呼ばれる物質に変化します。幸いなことにアルミナの被膜はたちまち私の本体を覆い、攻撃的な8番の浸食を食い止めてくれます。実はこのアルミナ、すごく硬度が高く、研磨剤などに使用され、ディスクグラインダの研磨ディスクにも、ごく一般的に利用されます。ホームセンターに行けば、アルミナのディスクを見つけることは容易なので、機会があれば探してみて下さい


 一方、天然のアルミナ結晶はコランダムと呼ばれていますが、ご存じですか? 色によって呼び名は違いますが、ルビーやサファイアといった宝石に加工される、有名な鉱石です。そうそう4番の名前の由来となった緑柱石にも、私は含まれているのですよ。あれはエメラルドですね。赤、青、緑、3種の貴石。このように、私は様々な鉱物の中に存在する、ごくありふれた元素といえます。


 軽くて強度があり、酸化も内部まで進まない。そんな私は、化学分野よりも『金属』として活躍することがほとんどです。とはいえ、私が単体で使用されているのは先に挙げた一円玉くらいで、実用金属としては他の金属との合金として利用されることが圧倒的に多いのですが。電車や航空機の車体、高圧送電線、そしてアルミ缶や調理器具のような生活に密着したものまで、私は常にニンゲンの近くに控えています。


 このようにごくごく身近な金属である一方、私は反応しやすい金属でもあります。

 ええ、意外でしょうか。1円硬貨を見ていると、とてもそうは見えないのでしょう。そう、アルミナの膜に保護される上、12番と同様、高い熱伝導率ゆえ塊になれば燃えにくい私ですが、いざ粉末ともなればすぐに熱に反応して、白く発光しながら粉塵爆発を起こします。粉末の私ははっきりいって危険物なので、取り扱いには重々気を付けるよう、ここで忠告しておきます。


 錆びないと思わせておいて、錆びやすい。安定していると思わせておいて、反応しやすい。やれやれ、どうも私は誤解を招きやすい性質のようですね。


 ではそろそろ、14番の紹介に移りましょう。

 14番は同じように、多くの鉱石に含まれたありふれた元素です。しかしながら、現代社会においてもっとも『純度が高い』ことが求められている元素のひとつかもしれません。少し不思議なところはありますが、話を聞いてあげて下さい。



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