ヤムシラの林檎

作者 赤坂 パトリシア

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★★★ Excellent!!!

林檎……といえば、なんといっても最初に思い浮かぶのはアダムとイヴで、西洋史の中では頻繁に出てくるモチーフですが、あれって厳密には禁断の果実で、それを食べて楽園を追放されたんだったっけ。
つまりは果実といえば林檎が思い浮かぶくらい、西洋ではポピュラーなものなのでしょうが、その林檎だって最初からどこにでもあったわけではない。
本作品は、林檎がローマからブリテン島に伝えられた頃の話、ということですが、アダムとイヴとは逆に、林檎を通じての瑞々しくも甘酸っぱいボーイミーツガールという切り口もいいですね。当時、本当にこんな出会いがあったのかもしれないと、読者の想像の翼を広げさせてくれます。
そしてラストの、林檎が更に遠くへと伝えられていくところ。こういう歴史視点は、世界史ものの醍醐味。主人公とヒロインの物語が収束したところへ、ラストで更に大きく羽根を広げる開放感のような読後感をもたらしてくれて良かったです。

★★★ Excellent!!!

日本語で読める英国舞台の歴史小説は多々あるが、ローマ支配下のブリテン島というのは珍しいのではなかろうか。
林檎を間に挟んだ、少年と少女の出会い。二人は会話を交わし、林檎の種を植える。いちどは遠のいた二人が再会し、そして――。
作者の深い歴史的知識に裏打ちされ、林檎の芳醇な風味が凝縮されたような一篇。特に、途中で清教徒の時代に一気に飛ぶときの飛翔感たるやただごとではなく、読み返すたびに心が震える。

★★★ Excellent!!!

林檎が、時代をいっそく飛びにさせてくれました。
こういう、物の起源のお話は心が踊ります。面白かったです。

イギリスの歴代の著名な作曲家のなかに、園芸家と併記される人がいます。
奥さんと一緒に林檎園を営んでいて、元を辿ればここに出てくる林檎なのかもしれない、その可能性は結構あるんじゃないかと思えて、さらに楽しい気分です。

★★★ Excellent!!!

タイトルに書いた、好きなフランス語の諺が真っ先に浮かびました。主人公もヒロインもまた、林檎のように愛情を知って赤く染まり、結実したのではないか、と想像が膨らみます。

壮大で重みのある、それでも優しさが垣間見える物語を、この文章量で書ききってしまう筆致には感心頻りでした。

読後感も大変爽やか、林檎をかじったようです。

★★★ Excellent!!!

 遠い昔の少年と少女の物語、と想像しながら読み始め、読み終わったときには、少ない文字数に込められた壮大な世界に、寒気がするほどの感動と衝撃を覚えました。土地の人々が何百年と語り継いできた伝説を体験したような気分です。
 作品舞台の世界観を、文字を費やすことなく読み手に豊かに想像させ、上品な言葉で少年少女の成長と交流を描く見事な手法に、ただただ溜息が出るばかりです。作家さまの深い知識と知性に圧倒されます。長い時をつなぐ役割を果たす「林檎」も、とても印象的でした。

★★★ Excellent!!!

繊細でやわらかく、何よりも豊かな物語であった。
少年と少女の出会い、林檎の僅かな酸味と鮮烈な甘みから、1600年を超える時の流れを、作者様はたった4000字程度の中に描かれた。

正直に言えば言葉も出ない。
同じ(いや、同じだろうか?)物書きとしてただただ圧倒され、驚嘆した。
それでも暗い失意の谷底に落とされなかったのは、やはり物語に溢れるやわらかさのお陰であろう。

決してぬるい物語ではない。歴史を遡れば当然であろう。
それでも優しい温もりを感じるのは、作者様が切に平和を願っているからではなかろうか。

――ああ、この辺りで止めておこう。
このまま思うままに書いていけば地球と林檎と人の和の丸さ等にまで述べ、きっと書き直したい衝動に駆られてしまう。

このような名作を描いてくれた作者様に最大級の賛辞を贈りたい。

★★★ Excellent!!!

少女が本を抱えて、砂の道を走って来ます。
ねえ、お父様。 このご本の中の 「林檎のお話」 を読んで。

いい子にしていられるかな。
古い匂いのする厚い本をぱらっとめくると
ラテン語で書かれた文字と、真っ赤な林檎の挿絵。

いつかこの子も、禁断の果実を食べるのだろうか。
髪を撫でながら、そのばら色の頬を見つめ、父は物語を読む。

運命というものがあるのなら
いつか誰かと結ばれるのだと、憂いながら。

★★★ Excellent!!!

古代ローマ時代の男女の愛を綴った短編。
これだけでも題材として惹きつけられるものがありますが、本作では林檎をキーアイテムとして使うことで、この二人の愛も悠久の時の中ではごく儚いものでしかなく、そしてだからこそ美しいものだということを示しています。
歴史の片隅で花開いた人の営みの輝きを、本作で味わってみてはいかがでしょうか。

★★★ Excellent!!!

何かの小道具を恋愛ものに添えるというのは良くある手法ですが、ここで扱われている林檎は単なる作品の彩りではなく、1つの出来事が普遍的に広がっていくためのきっかけとして描かれているのかなと感じました。

1つの男女の関係はささやかなもの。しかし林檎を通じて結びつけられる世界は果てしないのだと教えてもらえたような。ローマ、ブリテン、アメリカという政治的な動き一緒に、より具体的な人間の心も広まって行くのだなという、そんなお話でした。

それはさておき、この作中で描かれる林檎はものすごく美味しそうでなんとかして食べたくなります。なんでこんなに美味そうなんだと不思議に思うくらいだ。

★★★ Excellent!!!

慎ましやかな節度を持った文章の美。固有種の幼さを外来の豊かな(そう見える) 文化や植物が抱き込んでいく過程を、絶妙のバランスで書かれています。かつての初期ローマは、少年の属するブリテンがそうであったように質素で堅実、保守的な民族でした。それがブリトンに進出する頃はヤシムラの容貌が示すように多彩な民族と土着の文化を内包し、広がっていきます。少ない文字数の中にリンゴの赤い色を際立たせる構成力が光ります。拡大したローマの宗教の反動として現れるピューリタン。その世界拡大も示唆して、美しい物語は終わります。「リンゴは尻から腐っていく」という格言をひとまずは横において、読みかえしたくなる物語です。

★★★ Excellent!!!

ブリテン島がローマ統治下に置かれて間もない頃。
土着の少年アンテドリグは、少女ヤムシラと出会う。

ローマとの戦いで父を失ったアンテドリグは、貧しいながらも、母と一緒に暮らしていて。
一方のヤムシラはローマ兵の奴隷であり、裕福な生活であっても、自由はない。
単純に、少年と少女が出会った、では済まない世界。
征服者であるローマが、ブリテンにもたらした、甘い林檎。


突然ですが、私は「グレート・ジャーニー」が大好きです。
アフリカで誕生した人類が、南米大陸の端や、太平洋の島々にまで拡散していく旅路。
最後、林檎が辿った遥かな道のりと時の流れを思って、ぞくぞくしました。

★★★ Excellent!!!

古くは聖書でアダムとイヴが食して楽園を追われ、日本ではまだ上げ初めし前髪の君が差し出してくれる禁断の果実。古今東西、林檎はその存在をかくも甘酸っぱく、かつ艶やかに知らしめている。
そんな罪作りな果実にまつわる物語。
作者さまの描かれる世界にはいつもながら酔わされます。