「ドール」「本」「 靴下」の三題噺

えー毎度ばかばかしい三題噺で

 


 チトチトテン テトテトテン テトテト チトチト テトテトテトテトテン♪


 パチパチパチパチパチッ




 えー、お時間もあれですが、もう一席だけお付き合いくださいませ。


 笑・しょうてんがはじまりますてぇと、わたくしは極悪非道の山田君の意地悪で座布団がない状態でのスタートとあいなりまして、それじゃぁ膝が痛くてしかたねぇもんですから、弟子に膏薬こうやくと膝サポーターを買いに行かせております。届きますまで、しばしご辛抱を。



 あはははは


 とんっとん



 世の中では、ずいぶんと風変わりなものが流行ることがございまして……

 昭和のはじめから活躍しておりました太宰なにがし。今で言うところの春樹と龍、ダブル村上に東野圭吾と伊坂幸太郎を足しといて割らない・・・・ってぇくらいの人気者。本を一冊だしゃぁ、そりゃあ飛ぶように売れるってぇ……ひとりの物書きがおりました。

 戦後すぐのことでございます。その某てえのが玉川上水で愛人とふたりで入水自殺……、おばいたしました。


 とんっとん


 今で言うところの、芸能人とかアイドルみたいなもんだったんでしょうな。やれ純愛だ! 誠の愛だ! なぁんてちまたでたいそう評判になりまして、そんでもって世間では奇想天外、珍妙なものが流行りだしたのでございます。

 なにがって? そりゃあーた……あっちでどぼーん。こっちでもどぼーん。

 男と女の心中が流行したんでございますよ。


 しーーん


 中には流行りに乗らなきゃ江戸っ子の名が廃るってもんで、心中するために見合いをするってぇ馬鹿まででる始末。これにぁ、お上もたいそう頭を悩ませていた……そんな折……



 上 「こいつはどうも弱ったねぇ、自殺ってことにはならないかね」


 下 「それはいくらなんでも警部殿」


 上 「だろうねぇ。まったく只の心中だけでもこっちは手一杯だってのに……」



 二人の刑事が悩むのも無理はない。ある日、一組の心中と思われる遺体が川っぺりに打ち上げられた。一人は年の頃なら二十歳そこそこ、たいそう美しい娘さんで……


 上 「片方はいい。若い娘でそりゃぁ可哀想だが…………もう片一方……」


 下 「…………人形ですもんねぇ~」


 当時の入水心中ってのは、あの世に行っても離れ離れにならねぇようにとお互いの手首、足首をきつーく結びましてね。それでも足らねぇってんで、胴回りにも帯ひも括り付けてってぇのが常套じょうとうでございました。ですが奇っ怪なことに……そのうら若き乙女が結びつけられていた相手ってぇのが、西洋から輸入された、ほぼほぼ、等身大のビスク・ドール。

 両目には蒼いガラス玉が入った陶器の人形でございまして……



 上 「普通の人形相手に心中したならいいんだが……おい、ちょっと持ってみろ」


 下 「かしこまりました警部! ん……くっくくく。こりゃ重てえ!」


 上 「素焼きの二度焼きだ。これを女ひとりで持ち運べたと思うかい?」


 下 「西洋のからくり人形で、自分でよいしょと歩いてきたとか? 」


 上 「馬鹿言ってんじゃないよ。はぁ弱ったなぁ」




 困りに困った警察は、――今じゃ浮気調査だ、別れさせ屋だなんて職業ですが――当時は本物の名探偵なんて呼ばれている御仁がおりまして……



 とんっとん



 下 「旦那。またわけのわからねぇ仕事をお引き受けなすったね」


 上 「お前のその古くさい言い回しはどうにかならないものかね? 戦後だよ?」


 下 「殺しですぜ? 殺しとなりゃこういうしゃべり方が一番でさぁ」


 上 「好きにおし。仕方がねぇ飯の種だ。聞き込みに行くよ」


 下 「へい! がってん」



 若い女の身元を調べるってぇと、当時としては珍しい女学生様。いまで言うところの女子大生ですな。それも関東大震災前までは御茶ノ水にあったという名門中の名門の女子大……つまりは、大層なインテリだ。

 実家のほうも裕福で、近所で話を聞いても悪い噂なんかこれっぽっちも出てきません。



 下 「弱りましたね。若い娘なんで、てっきり男が絡んでいやがると思いやしたが」


 上 「仕方ない。女学校の方にも聞き込みだ」


 下 「黄色いくちばしばかりですぜ? あっしはどっちか言うと年増のほうが……」


 上 「軽口言ってないで早く行くよ!」


 下 「とほほ」



 天下の名探偵とはいえ今度ばかりはお手上げの謎のようでして、良家のご学友につらつら~と聞き込みをいたしましたが、めぼしい話は聞けずじまいの疲れて帰る、帰り道。



 下 「しかしまぁ、聞けども聞けども評判のいい娘でやしたねぇ」


 上 「そうさねぇ。ますます不憫なことだよ」


 下 「決めた! どうあってもあっしは犯人を見つけてやりますぜ!」


 上 「いや……まぁ……犯人はわかったのだがねぇ、どうしたものか……」


 下 「はがぁ?」



 季節は秋。そろそろ寒さも厳しくなった夕暮れ時。日が陰る中をあの辺からこの辺まで二人のながぁい影が伸びまして、カラスがカァカァっと……え、準備整った? あそ? 遅刻していた好○こうらくがやっと来た? まったくあいつは……どうせ、またいつもの競馬だろ? 後でお仕置きだね、まったく! (ざわざわざわ)てへへ……いえさっきのは○楽こうらく膏薬こうやくをかけておりましてね。(あはははは)


 お待たせで。笑・しょうてんの準備もできましたんで、こっからは巻きでいかせて頂きます。



 あはははは


 とんっとん




 下 「そりゃぁ、一体全体いったいぜんたいどういうことで?」


 上 「うん? 見たろう? 女学生のひとりが手首に包帯巻いていた。左手だ」


 下 「はぁ? それがなにか?」


 上 「鈍いねぇ。死んだ娘の縛り痕は右手。丁度、ついになる」


 下 「……え?」


 上 「靴下を脱がせれば、足にも痕があるはずさ。だからこその……人形のお出ましだ」



 とんっとん



 仰ぎ見て上手かみて 「もともとは女二人の心中だったのだろう。ところが打ち上げられて一人が息を吹き返した。つまりそういうことだ。普段から様子がおかしかったのだろうね。包帯巻いた女学生の父親か兄貴かそりゃあわからないが、心配してそれを見つけた。だが困ったことに片一方の遺体には、手首にも足首にも結び痕がくっきりとある。心中となれば相手はだれか? それは当然、探される……」



 傾げて下手しもて 「それであんな素焼きの重たい人形を……そりゃまた苦肉の策……ってか、突飛なことをしたもんですねぇ」




 上 「不細工な話さ。でもまぁ、警察の目はうまく誤魔化せたねぇ」


 下 「で、どうなさるんで? 解決しないと銭はもらえないんでやしょ?」


 上 「心中の生き残りとあっちゃぁ、あの娘にも罪はある。あるっちゃあるが、女と女の心中だ。世間に知れたら、もう生きてはいられないだろうよ」


 下 「あー、つまり……畜生! しばらく飯抜きかーー!」


 上 「しょげるんじゃないよ。わたしたちの腹が減るのは……人形じゃないあかしさ」






 とんっととん! とんっ!





 えー、LGBT(性的少数者)は生産性がないだなんて、人間味のない惨い言葉を吐く国会議員もいるそうですが、愛の形なんてものは昔から変わらず色々とございましたわけで、真実から目をそらしたり、それを押さえつけたりする世の中にだけはしたくないものでございます。


 わたくしども、笑・しょうてんメンバーも


 禿げいじり

 独身いじり

 ラーメンいじり

 馬鹿いじり

 ○平いじり


 色々とやってはおりますが、それは高座の上でのプロとしてのお遊びで、お客様方には、どうぞご存分に笑って頂きたく存じます。



 ……ただし。わたくしの不倫いじりだけはどうぞお手柔らかに……(ぺこり)


           あはははははは




 ……丁度、時間となりました。おあとがよろしいようで……(深々とぺこり)



        パチパチパチパチパチパチパチッ








 チトチトテン テトテトテン テトテト チトチト テトテトテトテトテン♪


 



 








 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る