企画(三題噺など)

「唇」「岩塩」「黒猫」の三題噺

ファンタG 

 この世に悪の栄えた社会的認知事象なし! 我ら正義の戦隊ヒーロー!


 「唇」~レッド!


 「岩塩」~イエロー!


 「黒猫」~ブラックっ !!!


 カットカット! なんだよ黒猫ブラックって! それ一番やっちゃいけないこと! それとエクスクラメーションマーク多すぎ!! 頭悪いと思われるぞ!!!


 そもそも3人で戦隊ヒーローをやろうと考えたのが間違いの元だった。

 「唇」は口ばっかりだし「岩塩」がイエローなのは見解の相違があるし、「黒猫」はもともとブラックだし、縁起悪いし、やり尽くされた感があるし…………「岩塩」以外のメンバーはため息をついた。


 3人の出会いは高校の卒業パーティーだった。好きでもない男にキスを迫られあやうい吉岡愛美の「唇」を食べていたローストチキンに降りかかっていた「岩塩」が抵抗し、「黒猫」が引っ掻いて救ったことに始まる。友情が芽生えたとしても不思議ではないだろう。その場で意気投合し、卒業後の進路に悩んでいた吉岡愛美の「唇」の就職先が決まった。


「そもそも唇だからレッドは安易よ。卒業したてなのにまだピンクっしょ?」

「リーダーのレッドがいないんじゃはじまんねぇだろ。それよりブルー不在が問題」

「だな、レッドは熱いだけで本当に強いのはブルーだかんな」

「吉岡愛美の静脈ひっこぬいて静脈ブルーにしよう」

「ちょっと戦隊ヒーローっぽくない発想やめてくれる? それに静脈は実際には青くないから!」

「黒とブラックって重ねるのそんなにダサいかなぁ? 「三毛猫」レインボーよりよっぽどいいと思うんだけど」

「それよりイエローが……見解の相違はあるとしてもホワイトでいいんじゃね?」

「どっちにしろ色味が足りないのは確かね」

「だよなぁ」

「岩塩」は青い空を見上げた。


「悩んでてもしょうがない」「岩塩」は立ち上がる。

「君はピンクでいい。とりあえず、梅肉レッドでも郵便ポストでもなんでもいいから赤を探そう。そして当然、ブルー。主役のブルー。残りはグリーンでいいかな?」

「やったピンク。わっしょぃ! 赤青黄、ピンクそろえば後はなんでもいいわよ」

「くっそ、イエローは確定かよ。「黒猫」もそれでいいか?」

「いいわけねぇだろ! なにげに俺の存在なくなってんじゃんか」

「あ……戦隊がピンチになったら助けてくれる先輩ポジでいいんじゃないかな? 最近は女子二人がデフォだし。悪役は嫌だろ? すべての能力を持ってる特別な兄貴的存在ってかんじでさ」

「疎外感あるわぁ。7話に一回でるペースでしょそれって」

「グリーン却下にしよ。梅肉レッド、憂鬱ブルー、岩塩イエロー、かわいいピンク、黒猫ブラックで決まり! リップ買いに行かなきゃ」

「おいおい。自分だけなんか違うじゃねぇか。それより憂鬱ってなんだよ。擬人化も行き過ぎると無理があるぞ」

「そもそも戦隊ヒーローやるのはいいけど、俺たちの敵ってだれよ? それとさっきの監督風味の人ってどこよ?」

 はっ! …………三人とも頭を抱えた。


「根本的なことを言ってしまったにゃん」

「思い出したように、にゃん言葉使うな」

 


「鷹山祐介でいいと思うの……」

 唇から吐息がもれた。



「そもそも高校3年間同じクラスだったのにまともに話もせずに、たまに喋ったら憎まれ口ばっか。おまけに二年の時、校舎裏に呼び出されたら友達の告白の仲介。

『おまえモテるんだな。どこがいいのか俺にはさっぱりわかんね』なんて捨て台詞。祐介を見るといつも向こうもこっち見てて……なのに顔を背けて。祐介がお弁当食べてるの、それじゃ栄養足りてないぞって心配してると『こっち見んな』って机叩くし、怖くなって後ろ向いたらやっぱ鏡には祐介が映ってるしっ!」


「どうやら悪役は決まったにゃん」

「そうだな。なんか「吉岡愛美」の思念がたっぷり入った「唇」の動きのようにも思えるが、高校三年間、意地悪だったのに急に突然不意打ちで俄然突拍子もなく、


 キッス


を仕掛けた悪党を粉砕することを我々の使命としよう」


「そうと決まったらすぐ行くにゃん。「鷹山祐介」は東京の大学に進学が決まって今日、引っ越すはずだ。にゃん。このままだと高校を卒業したのはいいけど就職もせずに実家で家事手伝いをしている「吉岡愛美」に勝つチャンスはないにゃん。とりあえず文字数と色味は足りないけど、俺たちだけで頑張るしかないでごわすでにゃんっ!」

「いちいち滑ってるけどこの際、突っ込みはなしだっ! 行くぞ戦隊ヒーロー!」

「唇」はなにも言わなかった。(文学的表現)





 ※プロローグが終わりここからがいよいよ本編※





 鷹山祐介(お待たせしました主人公の登場です)はサイドミラーに映る故郷の風景を眺め感傷にふけっていた。故郷と書いて ”ふるさと” と読むのか ”こきょう” と読むのかで、その人が本当に善人か生粋の悪党かわかるのだが、今は関係ない。



 

 …………………… 僕はこのままでいいのか?


 このまま僕が東京の一流大学に進めば、それなりの一流企業に就職するだろう。

 勉強もスポーツも自慢できるだけの素養が僕にはある。これからもそうだろう。

 だけど僕はそれでいいのか? なにかとてつもない忘れ物をしている気がした。


「吉岡愛美」ジャジャーン 僕の青春の99・999%を占めてる女。

 彼女は言った「私たち高校3年間、同じクラスだったよね」ってな。

 糞っ!!! 中学の三年間も俺たち一緒のクラスだったじゃねぇか!


 同じ景色を見ていなかった。


 だから僕は君にキッスをしでかした。「唇」はふれなかったけど。

 僕たちのキスを、なにかが邪魔をした。黄色い巨大な、なにかが……

 そして引き裂かれた。僕の顔面と二人の可能性は、黒猫の鋭い爪で。



 そこまで考えて、次の衝撃に身構える準備がなかった。

 大学への進学が決まり実家の農家を継げない僕の代わりに田畑を管理すると言ってくれた従兄弟いとこの「田原敬一」が運転する軽トラックは、がしゃーーーーん!


 巨大なイエローストーンがそこにはあった。無残にも車は大破した。


「そんな設定、聞いてなかったにゃん」

「あほぅ。岩塩と聞いて顆粒やこぶし大を想定するのは発想力の欠如やっ!「岩塩」なんてものは巨大なもんや。蓄積された塊が地殻変動で数億年かけて隆起したもんじゃけん。岩塩味わうときはそこらへんもよ~く加味して味わえよ、黒猫」


 薄れゆく意識の中で、僕は「吉岡愛美」から流れる暖かい水を運命だと感じた。

 おそらく僕の約束された人生で君を抱きしめることはマイナスにしかならない。

 君は素直じゃないし、所詮、パン屋の娘。とても流行っているパン屋の娘。経済的には僕が就職して成功しても、実際はオーナーである君のお父さんがなんの努力もしないのに稼ぐ以下の……


 こうして「田原敬一」が従兄弟の立場を利用して、主人公の両親を騙して資産を奪う計画は頓挫したのだった。知らないところで、正義は成し遂げられた(キリッ)



「両方、血だらけだにゃん。レッドはひとりで十分だから、残りは証拠隠滅なのだにゃん」

「ぼっぼぼぼおおぼおぼおぼおぼぼぼ」

「岩塩は巨大化して低音すぎで意味がわからないにゃん。さっきはそんな設定なかったにゃん」



そう。血だらけの「鷹山祐介」はまさにレッド。やはり戦隊物せんたいものの主役は赤なのだ。


見上げた空には監督風味の「青空」ブルーに「三毛猫」レインボーなにじが架かる。


それはみんなの未来への架け橋。例えその先に婿むこの苦悩が待っていようとも。



 戦え! 戦隊ヒーロー・ファンタG  負けるな! 正義のヒーロー・ファンタG









 




 

















 





 

 





 

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