切実な思いがめちゃくちゃ丁寧に描かれていて、こちらの心まで思い切り揺さぶられてしまう作品です。
五感の描写がとても鮮明で、
主人公の小春ちゃんは、全身で物事を感じていきます。
たとえば大好きなおぼろくんのことをよく観察していて、序盤にはこんな文があります。
『背中を丸めたままのおぼろくん。肩の力は抜け落ちているのに、両手には筋が浮き出るほどの力が込められていた。その手の中で握りつぶそうとしているものはなんだろう。』
見ることに限らず、本当に五感を使っています。
嗅ぐことで話が展開されることだってあるし、それに小春ちゃんはよく食べる子です。
そしておぼろくん。
最序盤「絶世のおぼろくん」の時点では、小春ちゃんとおぼろくんにはかなりの距離があります。
小春ちゃんが、言ってあげたいと思った言葉を言えなかったということもその一因になっているみたいですが、
でも勇気を出して言っていたとしても、おぼろくんに近づけていたのだろうか?と思ってしまうくらい、おぼろくんは複雑な心の持ち主であるみたいです。
そういうところを「絶世のおぼろくん」の時点でまざまざと見せつけられるので、続きを読みたくてたまらない気持ちにさせられました。
LGBT(本作はT)少年×ヘテロ少女という構図が自作と似ていて気になって読み始めた作品。これが、類似構図の作品を持つ身として嫉妬を覚えるほどに大当たりでした。
本作の主人公はおぼろくんという同じクラスの男の子が好きな女子高生、小春ちゃん。その小春ちゃんが街で女装をして歩いているおぼろくんを偶然発見し、女装のあまりの出来の悪さに反射的に美容師をやっている兄のところへ連れて行ってしまうところから物語は始まります。
まずこの始まりがいいです。好きな男子の女装を発見して最初に思うことが「女装酷すぎワロエナイ」。新しいながらも荒唐無稽ではなく、妙なリアリティがあります。
さて、やがて小春ちゃんはおぼろくんの心が女の子であることを知るのですが、それで小春ちゃんの恋心がどう変わるかというと、なんと変わりません。「おぼろくんは心が女の子」「自分はおぼろくんのことが好き」。この二つをしっかり認識&肯定しておぼろくんと親密になっていきます。
おぼろくんはおぼろくんで例えば小春ちゃんの前では女言葉になったりとか、そういう分かりやすい変化を見せたりはしません。くっきりした線を引いてくれない。
だから、プラスのドライバーがマイナスのネジにはまらないように大本が致命的にかみ合っていないにも関わらず、小春ちゃんの恋は止まることなく進んでいってしまいます。
そう、本作はおぼろくんの苦悩の物語ではなく、小春ちゃんの恋の物語なのです。だからLGBTとかゲイとかホモとかレズとかバイとかオカマとかオネエとかトランスジェンダーとか性同一性障害とかその手の人間を外から型にはめる単語はほとんど出てきません。小春ちゃんは社会を通してではなく、あくまで人として、「好きな男の子」としておぼろくんと向き合います。
結果としておぼろくんの悩みも社会問題ではなく個人の苦しみとして浮き彫りにされる。それは大仰な問題として捉えられるよりも遥かに重く、ずしりと心に圧しかかります。
この奇抜な恋物語を描き、読ませるのが卓越した表現力。これが実に巧い!カメラの動かし方、言葉の選び方、比喩のセンス、全てが素晴らしい。物語の起伏に頼らずに作品を読ませる力がズバ抜けています。「プロかな?」と思ってPNググりました。本当に。
心も身体も女の子な女の子から、心だけが女の子な男の子への恋心。叶う道理のない想いは、どういう道を辿り、どこに行き着くのか。その行く末を是非、皆様の目でお確かめ下さい。
主人公の初恋の相手は、隣の席の彼。
ある日、主人公は街中で意中の彼の秘密を知ってしまって――?
……という、ともすれば王道な設定だけからすると、始まるのは甘酸っぱくキュートな、ドッキドキの恋物語のようにも思えます。
だけどそれ「だけ」で終わった話なら、自分はこうしてレビューを残していないだろうと思います。
主人公である小春ちゃんは、素直に喜び、素直に怒り、素直に悲しみ、そして素直に恋をしています。おぼろくんが大好き。彼女の根底にあるのは常にその気持ちです。そんな真っ直ぐな気持ちは読者に真っ直ぐに届き、小春ちゃんのもだもだする胸中がよく分かります。親身になって、頑張れ、と応援したくなります。
しかし、物語内の他の登場人物――おぼろくんにも小春ちゃんのその気持ちが伝わっているかといえば、違います。
それは、おぼろくんはおぼろくんの人生を生きているから。彼には彼の事情があり、気持ちがあるから。そんな当たり前のことが、ひりりと痛く感じられます。
じわじわと距離が縮まっていき、お互いの気持ちがぶつかり合った先、踏み出された結末。
それを最後まで見届けた時に感じるのは、甘酸っぱくてキュートな、ドッキドキの恋物語を読んだ後のものとは、恐らく違うものでしょう。しかしそこには、満足感があるはずです。
ぜひ多くの方に、その味を噛みしめていただきたいと思います。
甘い物が好きな小春ちゃんが、隣の席のおぼろくんに恋をするお話です。
でも、おぼろくんには葛藤があります。それは、おぼろくんの心は女の子なのです。偶然、それを唯一知る立場になった小春ちゃんはーー
物凄く「好き」が溢れているお話でした。初恋の話を読んで何言ってんのと言われるかもしれませんが、凄くまっすぐにグラグラな小春ちゃんに、最終的に銀河鉄道の夜のカンパネルラに感じたような気持ちを感じました。
ねえカンパネルラ、好きすぎて大事に想って幸せにしたくてどうしようもなくなる事ってあるんだけど、その幸せにしてあげたいリストに自分の名前が足りなくなってるのを忘れないでね。
そんな好きすぎるお話が好きな方であれば是非。
最後まで読んだときには、きっといろいろな事を考えたり、思い出したりできる素敵なお話です。
可愛い。ふたりとも可愛くてほんとうにお似合いなのに、肝心なところが噛み合わない。神様はなにも間違ってないけど、恋する気持ちだけが、二人の間に噛み合わなくて、会う度取り残されていく。
彼女は彼を、彼は彼女を、この上なく大事に思っていて、思いあっているのに。
でもそれは、恋には、ならないんだなぁ。
だけど恋人よりもずっと相手を大事にできる、理想的な関係を、このふたりならきっと築けたと思う。最終話を見て、そう思った。
もちろんメインのふたりだけじゃなくて、小春ちゃんを支える親友の鮎子や、脳天気なお兄さん、マシンガントークのお母さんに、クラスメイト。みんな魅力的で、人間臭くて、ドラマに華を添えてくれています。
おぼろくんと同じ空間を、時間を共有出来るだけで夢心地の小春ちゃん。
別れる時はいつもどこか寂しいのは、きっと分かり合えない部分を噛みしめるから。
可愛くて微笑ましくて、ちょっと切ない
ふたりの青春を、一緒に見守ってみませんか。
作中のこの一文にグッときました。いろんな角度からシンパシーを感じ、とても面白かったです。ありがとうございました。
おぼろくん、小春ちゃんはもちろん、登場する人物が皆どこか足りない/柔い/不器用な部分を持ち合わせているところがとても好ましかったです。
他人を慮りきることはできなくて、それでも大切に思う相手と手を繋ごうとあがいたりもがいたり。手を繋ぐというより、相手にそのままの自分で立っていてもらいたい、立っていられるように、という方が近いでしょうか。そのままの相手とそのままの自分で、時間を共にできるなら……。ある面から見れば献身的なんだけど、自己犠牲の苦さ健気さがこの作品の本質ではなくて。それによって自らが傷つくことを厭わない純粋さがずっと小春ちゃんのベースになっている、その素敵さがキラリと輝いています。
性的な干渉を前提とせず、相手をただのその人として抱きしめることができることも本当に素敵なことだと思います。私もそういう人でありたいです。
小春ちゃんが初めて恋したのは、心が女の子な男の子、おぼろくんでした。
そんな秘密を知ってしまっても、小春ちゃんの想いはつのるばかり。秘密を知ったのがきっかけで二人は仲良くなっていきます。
二人が仲良くなっていく姿は、とても可愛くてほのぼのしていて、がんばれー、と応援しながら暖かく見守っていたくなります。
でもやっぱり、仲良くなって男女の仲に……という風な単純なことにはならなくて……。
しかしそのエンディングは、読んでいてとても大事なものを受け取れたような気分になって、少し泣きそうになりました。
二人の行きつくところがどこなのか、少しでも気になった方、見守ってあげてください。
初恋の物語。
好きな男の子の女装姿を目撃してしまうという、始まりから既に衝撃的で、ページをめくる手が止まりません。
決して一筋縄にはいかない、複雑な事情を孕んだ恋。
だけど今だけの、一生分の煌めきを纏った恋。
その揺れ動く心の機微が、非常に丁寧に鮮やかに描かれています。
物語は小春ちゃんの主観で紡がれますが、
おぼろくんの繊細な心情まで手に取るように伝わってきます。
小春ちゃんとおぼろくんの、少しずつ変わっていく関係性。
何気ないひとことひとことが、お互いかけがえない言葉として蓄積されていく。
そのたび二人それぞれの抱える想いが痛いほど胸に沁みてきて、心をぎゅぅぅっと掴まれます。
こんな読書体験そうそうあることではありません!
小春ちゃんが最後に出した初恋への答え、皆様にも是非、見届けてほしいです。
初めて好きになった相手は、男の子でもあって、でも女の子で、
その両方を隠さなければ生きていられない可憐で繊細な生き物。
なぜそんな人を好きになってしまったのかという疑問も抱かず、
そんな人だからこそ好きで好きでたまらなくて、小春は苦しい。
みずみずしく柔らかく等身大の筆致で綴られる初恋物語だ。
おぼろくんは、透き通っているのに中身が少しも見えない。
爽やかな読み心地にも、もどかしさと悔しさが残り続ける。
リアリティある不条理に惹き付けられて、一息に読んだ。
トランスジェンダーや同性愛への差別あるいは誤解について、
最近では様々なメディアで様々な切り口の意見を目にするが、
その一方で、男の娘や女装子って面白おかしく描かれるよね。
BLもGLもだいぶ御伽話だよね。人の尊厳って何なんだろうね。
私は、男の体を持って生まれていたら、苦しかったかもしれない。
男か女か、社会的に二分されているから女の性には従っているし、
男になりたいと苦悩したことはないが、女である意味も判らない。
男女どちらかでなければならないのかと、たびたび思ってしまう。
高校時代、ホームステイ先で私を指示するのが「she」だったとき、
制服のスカートには慣れ切っていたのに、凄まじい衝撃を受けた。
便宜的に女を名乗っているけれど本当は性別意識に乏しい自分を、
「she」というただ一言に見抜かれ、撃ち抜かれたように感じた。
もともと私の趣向は(一般論から言えば)男っぽいのだが、
男主人公の小説を書いている間は特に、性自認が倒錯する。
背丈があって髪も短くして普段から男物ばかり着ているが、
女の私がやるから、異性っぽさも個性だと認められやすい。
でも、性別が逆だったら、異性装は格段にハードルが上がる。
男のペンネームで乙女心を書くことに勝手に違和感を覚えて、
いつバレるかとヒヤヒヤしながら女のふりを貫くかもしれない。
自分で自分を気持ち悪いと断罪して、苦しむんじゃないか。
おぼろくんのような人に実際に出会ったことはない。
いや、出会っていたとしても、私は気付かなかった。
もしも唐突に「おぼろくんを綺麗にしてあげて」と頼まれたら、
彼でもなく彼女でもないその人として受け入れられるだろうか。
いろんなことを感じながら読んで、読後にいろんなことを考えた。
中高生を中心に、どんな年代の人にも広く読んでもらいたい作品。
バリエーション豊かな比喩表現、多彩で平易な言葉選びも素敵で、
個性的なのにうるさくない、そのセンスが本当にうらやましい。
ひたむきなメッセージを受け取った。
思いやりってどんなものだろう?
少し優しくなりたいと思った。
素敵な作品です。オススメ。
とにかく読んでみて欲しい物語です。
朧君と小春ちゃんの恋の物語、しかも朧君は心の中は女の子で、女装することもあって……かたや小春ちゃんはそんな朧君のことがとにかく好きで……
と前提からして多難な恋なのですが、なんといっても小春ちゃんも朧君もとにかく魅力的なのです。
朧君は淡々としたその佇まい、その魂の在り方がとにかく魅力的。小春だけしか気づいていないのですが、それに気づけばきっと誰もが惹かれると思います。
そして一方の小春ちゃん。彼女もまたちょっと変わった朧君に夢中で、朧君の人柄そのもの、その存在そのものに惹かれているのが伝わってきます。
ああ、なんともうまく説明できないのですが……
小春ちゃんの視点から書かれたこの物語、柔らかで、時に辛辣で、いつでもコミカルなその語り口。
彼らを取り巻くキャラクターのなんとも魅力的な事。
そして静かに積もっていく暖かなエピソードたち。
やがて訪れるクライマックスと静かなエンディング!
もうとにかく読むのが楽しい作品なのです。
細かな心理描写に寄り添い、何気ない風景描写に酔い、小春の目線で世界を見る楽しさ!
沢山の人に読んでほしい作品。
沢山の人に小春と朧君のことを知ってほしい!二人の物語をたくさんの人に見て欲しい!
ということでぜひ、読んでみて下さい。
性は個性に優先するものではない。そんな結論に達する前の段階を、手探りで歩いている二人の高校生と友人たちの物語。
私事になって恐縮だが、今思い出すと母校の文学部は不思議な空間で、性自認が世間一般とやらとずれていた学生や教員が、普通に過ごしていた。
日文専攻クラスで一番おしとやかでなよやかなのは、小柄でポニーテールにワンピースの似合う「○○君」と呼ばれる戸籍の性別男子。だが男子にも女子にも受け入れられ、あるがままに過ごしていた。だから性別というのは自認によるものが一番強く、戸籍は便宜上、と、ずっと思ってきた。
世間ではどうやら違うらしい、と思い知ったのは就職してからだ。
いくつものお面をかぶり分け、危ういところで高校生活を送っている朧君と、朧君を好きになったことで自分を必死に見つめることにもなる小春ちゃん。
小春ちゃんの動きを心の的確に表すユーモラスな言葉遣いは、単なる「アイドル(偶像)に過ぎなかった朧君の様々な面をとらえていく。
年上のお兄ちゃんと親友の恋、自分の中の潔癖さと、朧君の現実への理解不足。そしてなにより「自分の考えを伝えること、受け取ることの難しさ」が過不足なく描写されている。
特筆すべきは空の描写。朧君と小春ちゃんの変わりゆく心持を実にさわやかに映していく。作者の筆力の確かさである。
中でも感動的なのはメイクボックスを手にした朧君がメイクをするのが、自分ではなく小春ちゃんなことだ。その筆致。二人の間の息遣いと脆い緊張感は実にエロティックで、愛しい。
ここがあるからこそ、セーラー服を着たいと願う朧君の強さが際立つ。
インターネットの掲示板で「女装したい男子のための着付けとメイク募集」という書き込みを見て、旦那と一緒に出掛けたことを思い出した。そのとき嬉々としてブロウをされ、頬や爪、唇を彩られていた大勢の少年たちは、今どうしているだろうか。
男も女も、若い人も年齢と人生経験を経た人も、みんなに広く読んでほしい作品。
カクヨムという場が生んだ鮮やかな傑作です。
スポーティな小春ちゃんと女の子の心を持つ同級生男子・おぼろ君。
気になる彼の女装姿をイタイではなく、助けてあげたいと思った時から二人の『女子友』的秘密のおつきあいが始まる。小春ちゃんは おぼろ君への恋心を、おぼろ君は自己嫌悪をそれぞれ胸一杯に抱えたまま。
物語の先は知りたいけれど、 相手の指先の動き、灯りに照らされる肌、揺れる心模様まで繊細に描かれ、愛しさ溢れる場面の数々に急いで読むのが惜しくなるほど。
日頃 コミュ力不足で苦労しがちの私なので、想いを言葉にするのも、とまどい 時に立ちすくむ彼の背中を押してあげるのも巧くできない不器用さに悩む小春ちゃんの気持ちは痛いほど伝わってくる。周囲を気にするあまり、自分が求める姿に悩むおぼろ君の窮屈さも。
ほろ苦いラストではありますが、丸ごと好きと言える相手に出会えた事、過ごせた時間は貴いものだと思わせてくれる 読みごたえのある作品です。年の初めに 良い時間を過ごせました。
かわいい、切ない、甘い、苦い。
小春さんの恋心をカラフルに綴ったこの物語を形容するには、どの言葉も足りているようで十分ではありません。それは丁度、彼女が恋をしたおぼろくんの心のように。
甘いものが大好きなどこにでもいるような女の子、小春さんが恋をしたおぼろくんは、女の子の心を秘めた男の子です。
おぼろくんの秘密を知ってしまい力になろうとする彼女が、おぼろくんとの次第に距離を縮めながら奮戦する物語は、小春さんのかわいらしい語り口調に頬をゆるめられ、次第に切なくなっていく展開に胸を締めつけられ、そして最後のシーンでは目頭を熱くしてくれました。
セクシュアルマイノリティにとってまだまだ生きやすくはない世の中に、性別という型にうまく適合できない自分に、初めて抱いた叶わない恋心に、傷つくふたりの姿が、強く胸をうつのです。
色々な色が混じりあった虹色は、セクシュアルマイノリティのシンボルカラーです。
いつか彼女の心に、おぼろくんの心に、そしてふたりを取りまく世界に、おおきな虹がかかるといいな、そんな風に願いました。
とんでもない作品を読んでしまった……。
一話目を読んだ時点でなんとなく察しはつきました。ああ、これはヤバいやつだ……と。
美しく繊細な筆致、揺れ動く心情の描写。思わず唸ってしまうような文章、表現が、これでもかと押し寄せてきます。
言葉の選び方がものすごくうまいということも感じました。
うわぁ、そこでその言葉を使うのか……。やられたぜ……。
そんな流れを5回は繰り返したと思います。
この小説には、言葉以上の何かが、高密度で詰まっているような気がしてなりません。
言葉で表せないはずの心情を、言葉で表している……とでもいうのでしょうか。
うーん。上手く言えないのがすごく悔しいのですが、目で追った言葉以上のものが、こう、ブワァーっと流れ込んでくる感じです。
とにかく、この小説の一文字は、一文字以上の重みを持っています。
読めばきっとわかります!
細やかな描写の一つひとつが、どうしようもなく愛しい。
そんな恋の物語を、ぜひ読んでください!
最後まで読み終えてからと思っていたのですが、「9」まで読み終えた時点で、思わず☆を押していました。
“におい”というのは、それを発する人の特性や個性や体調や生き方などが、静かに顕著に表れるものだと思います。
本人も意識せずに、“におい”は、自己主張していることもあります。
また、本人が、自分の望む姿を演出するために、“におい”を操作することもあります。
けれども、操作は、うまくいく時もあれば、滑稽なことになってしまったり、胸がしめつけられるようなことになってしまうこともあります。
作中のとあるシーンでの“におい”を絡めた表現がとても印象的でした。
ここでは詳しくは記せませんので、少しだけ。
“レースまみれ”という女性性の象徴に、“男の汗の臭い”というどうしようもなく否定のできない男性性の象徴の取り合わせで表現されたせつなさ、絶妙です!
妙なるせつなさを味わいながら、ラストシーンまで追っていきたい物語です。
小春ちゃんの鮮やかできらきらとした言葉遣いで綴られる、初恋のひと、おぼろくんへの甘酸っぱい想い。
読み進めていくと、これが単なる青春もののラブストーリーではないことがじわじわと分かっていく。
独特の筆致。繊細な心の機微を丁寧に捉えた描写。そして何より、小春ちゃんとおぼろくんという、ユニークでひどく繊細な存在に、いつしか引き込まれていった。二人の行く先がどうなってしまうのか、何としても見届けなくては、と思った。
途中、小春ちゃんの、そして小春ちゃんの目を通したおぼろくんの心の痛みに感情移入して、じわりときてしまったことが何度かあった。
それでも最後まで読み終えると、どうしようもなく切ないけれど、爽やかな気持ちになれた。この初恋の物語を見届けられてよかったと、心からそう思えた。
何だか私も、小春ちゃんのようにばっさりと髪を切りたくなる。