「she」と指されて衝撃を受けたことなら、私もあるんだ。女だけれども。
- ★★★ Excellent!!!
初めて好きになった相手は、男の子でもあって、でも女の子で、
その両方を隠さなければ生きていられない可憐で繊細な生き物。
なぜそんな人を好きになってしまったのかという疑問も抱かず、
そんな人だからこそ好きで好きでたまらなくて、小春は苦しい。
みずみずしく柔らかく等身大の筆致で綴られる初恋物語だ。
おぼろくんは、透き通っているのに中身が少しも見えない。
爽やかな読み心地にも、もどかしさと悔しさが残り続ける。
リアリティある不条理に惹き付けられて、一息に読んだ。
トランスジェンダーや同性愛への差別あるいは誤解について、
最近では様々なメディアで様々な切り口の意見を目にするが、
その一方で、男の娘や女装子って面白おかしく描かれるよね。
BLもGLもだいぶ御伽話だよね。人の尊厳って何なんだろうね。
私は、男の体を持って生まれていたら、苦しかったかもしれない。
男か女か、社会的に二分されているから女の性には従っているし、
男になりたいと苦悩したことはないが、女である意味も判らない。
男女どちらかでなければならないのかと、たびたび思ってしまう。
高校時代、ホームステイ先で私を指示するのが「she」だったとき、
制服のスカートには慣れ切っていたのに、凄まじい衝撃を受けた。
便宜的に女を名乗っているけれど本当は性別意識に乏しい自分を、
「she」というただ一言に見抜かれ、撃ち抜かれたように感じた。
もともと私の趣向は(一般論から言えば)男っぽいのだが、
男主人公の小説を書いている間は特に、性自認が倒錯する。
背丈があって髪も短くして普段から男物ばかり着ているが、
女の私がやるから、異性っぽさも個性だと認められやすい。
でも、性別が逆だったら、異性装は格段にハードルが上がる。
男のペンネームで乙女心を書くことに勝手に違和感を覚えて、
いつバレるかとヒヤヒヤしながら女のふりを貫くかもしれない。
自分で自分を気持ち悪いと断罪して、苦しむんじゃないか。
おぼろくんのような人に実際に出会ったことはない。
いや、出会っていたとしても、私は気付かなかった。
もしも唐突に「おぼろくんを綺麗にしてあげて」と頼まれたら、
彼でもなく彼女でもないその人として受け入れられるだろうか。
いろんなことを感じながら読んで、読後にいろんなことを考えた。
中高生を中心に、どんな年代の人にも広く読んでもらいたい作品。
バリエーション豊かな比喩表現、多彩で平易な言葉選びも素敵で、
個性的なのにうるさくない、そのセンスが本当にうらやましい。
ひたむきなメッセージを受け取った。
思いやりってどんなものだろう?
少し優しくなりたいと思った。
素敵な作品です。オススメ。