第3話 恋に落ちた瞬間

あれはいつ頃だっただろう。



そう、俺が三浦さんを強烈に意識する切っ掛けとなった出来事。




その日も休憩室でこんな風に三浦さんと向かい合わせでご飯を食べていた。



ただ、その日は入社1、2年の女子社員達が井戸端会議に花を咲かせていた。



「3課の木村さんて格好いいよねー。」



「えー!何言ってるの、あの人ゲイだって専らの噂だよー!」


「げー!ショック!ホントに?気持ち悪いー。」



「だねー。」




会話に入らずとも、耳に入ってくるだけだけれど、切なかった。自分の話をされてる様に心が痛かった。今すぐここから出ていきたい、でも刺さってくる言葉が余りにも痛くて、心が痛い分、身体の感覚が無くなる様な、そんな印象を覚える程だった。




そんな会話に一石を投じたのが三浦さんだった。



「ボッホンっ。」



そう、咳払いをすると、三浦さんは優しくでも意志が感じられる声のトーンで話始めた。



「こら、そこ!本人に確かめもしないうちに、変な噂話をするんじゃない。それに、もし本当だったとしても、全然気持ち悪くないだろ?人を好きになる事は皆同じなんだから。」




「はーい。すみませーん。」



そう指摘された女子社員達はシュンとなった。





衝撃だったー。




人生で、生きてきて、初めてだった。そんな風に悠然と、堂々と、自分の考えを優しく相手に伝えている。そしてそれは、僕がずっとずっと、朝も夜も頭の中に居着いている、もうこびりついて剥がれなくなった悩みを、苦しみを、綺麗になめして救いとってくれた様に思えた。




こんな人がいるんだ。




僕はその刹那、一瞬で恋に落ちたんだ。

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