第2話 間接キスの味はカレーパン
「早坂、今日人足りなくて、合コン参加してくれない?」
「えー、俺金欠なんすよ、勘弁してください。」
「チェッ、残念。早坂来ると女性陣集まりいいのになー。」
「本当、すみません。」
俺は同じ課の同僚の中村に休憩時間に話掛けられた。
この手の会話はお決まりである。余程しつこく誘われない限り、合コンには出たりしない。あの合コン独特の、男女がこれから狩るぞみたいな雰囲気が苦手なのだ。
どうしても付き合いで出なければ行けなくなった時は、食事のみを楽しみにしている。男性陣が見栄を張るから、結構美味しい所で催される事が多いのも事実だった。
昼飯のカレーパンを頬張りながら、今日は夕飯何食べるかなー等と思いにふける。片手でCOOKPADを適当に開きながら、美味しそうに盛り付けられた投稿写真を眺めていた。
1つ、目に止まったレシピがあった。
「なす味噌炒め…」
思わず声に出てしまった所で、いつの間にか向かえに座って愛妻弁当を食べていた、三浦さんが声を掛けてきた。
「なす味噌炒め?作るの?夕飯?」
いきなり、俺の想い人、三浦さんに話掛けられて、ドギマギを隠しきれただろうか。声が上擦らないように、一呼吸置いてから、カレーパンをしっかり飲み込んで、質問に答える。
「えっと、冷蔵庫になすがあったかなっと、今日の夕飯にしようと思いまして。」
普通に応対出来てるだろうか、自分の心臓がドクドク言ってるのを感じる。
「いいなー、自炊出来て。スペック高くない?俺なんて独り暮らし経験ゼロで結婚したからなー。包丁すら握れん。」
「なーに言ってんすかー、そんな愛妻弁当作ってくれる奥さんいたら必要ないっすよ。」
「いや、弁当続くとたまにカレーパンとか食いたくなるんだよなぁ。」
そう言うと、三浦さんは俺が手にしているカレーパンに目をやった。
「一口くれっ。」
「いいすよっ。」
えーーーーーー!!
俺はなんて事ない風を装ってオーケーをしたが、口から心臓が出る思いで、三浦さんにカレーパンを差し出した。
「うん、やっぱ揚げ物最高!」
カレーパンを頬張りながら三浦さんがいう。
俺は何故か俺が口を付けていたカレーパンが食べられる瞬間、目を逸らしてしまった。
間接キスーー。
心で呟きながら、平静を装う。いい大人がこれ位の事で心臓が高鳴るのを感じた。
「俺も何かくださいよー。」
俺はわざとらしい位おどけてみせて、そう言って、三浦さんの手元に目を落とした。すると、色とりどりに満遍なく盛り付けられた美味しそうなお弁当が視界には入った。
「じゃあ、卵焼きもーらい!」
俺は三浦さんのお弁当屋から一際美味しそうに鎮座している黄色い塊を掴んで口に入れた。
「美味しーい。流石三浦さんの奥さんっすね。」
「そう?早坂が褒めてたって、女房に言っておくよ。」
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