自分の感じること、考えることが生きていく上で障がいになってしまう。主人公は、そういう人々の中の一人で、これを書いている私自身もその一人です。
名も知らない誰かの視線、心を掻き乱す喧騒、言葉に隠れる悪意、悪意の流れ弾。
直接、自分を害することのないものを恐怖と捉えることで心は磨耗し、感情は希薄になっていく。生きていく気力も薄れてくる。そんな段階に現在、私はあります。これを障がいだと認識したのも、つい最近です。
しかし、主人公は違います。
一に、障がいと認識し、付き合っている年季が違う。強い。
二に、彼女の障がいを理解し、その上で彼女自身を好いてくれる家族や友人。ただし、クセが強い。
三に、障がいに関することや悩み事を相談できる親しい専門家がいる。現実はお医者さん。
さて、こんな風に書き並べるとホラーかどうか怪しくなりますが、これをホラーとして書き上げているものですから恐ろしい作品です。
まあよくあるホラーものだろうと読み始めた本作は、私自身にタイムリーな共感と感動を与えてくれました。
これから私は、自分の障がいを理解し、受け入れて付き合っていくことになると思います。とても難しく、できるとは到底思えません。もしかしたらこの先、諦めてしまうこともあるでしょう。
ただ、いまは主人公が見る世界を通して自分が見ている世界を見つめ直してみよう思います。
そこにある恐怖を見つめて、彼女たちが見ている世界を想像してみれば、その恐怖がどこから来ているのか分かるかもしれません。
書きたいことがことごとくネタバレになってしまうので、簡素な感想になってしまうことをお許しください。
しかし確かに言えることは、本当の恐怖とはなにか。そして、恐怖と共にあるとはどういうことかを、真っ正面から描いた作品だということです。
とにかく、ページをめくる手が止まらない。私は、完結後一気読みをさせていただいたのですが、毎回引きが強くて、続きが気になって仕方がなかったです。一瞬で読了してしまいました。
また、幻想的であるにも関わらず、イメージが浮かんでくるような巧みな文章。アクが強く魅力のあるキャラクター。この小説の構成要素に、不足ある点がありません。
何一つの不安なく不安を描き、恐怖と、謎と、カタルシスを生む。そして、後には深い余韻がある。私にとって、そんな作品でした。
長さも四万字と短めですので、まずは一話読んでみることをオススメします。気がつけば全て読み終わり、確実な充足感に浸れることでしょう。
一人で下校できないくらい、誰よりも恐怖を恐れる七子。
恐怖を求め続ける正木先輩は、美しい笑顔で、七子に付きまとう。
この世ならぬ幻覚を見る七子は、恐ろしいものに囲まれているのに。
それでも七子と正木先輩が過ごす夜は、とても美しい。
怖いのに、どこかで「羨ましい」と思ってしまいます。
こんな風に探検してみたかった、と。
(実際には絶対やらないけれど……。)
七子の家の、前の住人の頃からある物置でソレを見つけてしまったときから。
起きてしまった事件。
今までのままでは、いられなくなる。
かけがえのない日々だった。
間違いなく、友達だった。
残酷だけどこの上なく美しい、青春物語。
子供のころ、ナップザックにおやつや小道具を詰め込んで、夜の街へ冒険に行くことを夢見ていたことがあった。それはゲーム『MOTHER2』やドラクエや、まあ何かのアニメの影響だったのだろうと思うけれど、本当に実行していたら大変な目に遭っていたかもしれない。
かつて夜は、昼間とは違う冒険の世界だった。
それがいつからか、私は暗闇を恐れ、この世ならぬ呪いや霊といったオカルトなものへの恐怖を抱くようになりました。それは年とともに軽くなることはなく、ある日、ふと死ぬことが怖くなってから悪化して今に至ります。
恐怖を真の感情と捉え、何に恐怖するかで見ている世界が違うと語るこの作品は、ホラーとして真摯に「恐怖」に向き合った作品でした。
丁寧に撒いた伏線を収束したミステリーとしての手腕、少女たちの関係性を結実させる青春小説としての側面、それらが「恐怖」をテーマに描かれた珠玉の中編。
暗い青春として進んでいると思ったら、ヒキのたびにゾッとする恐ろしさで突き落とす、エンターティメントとしても完成度が高い。なんとも憎いほどにスキのない作品です。
まったくこの作者は何者なのか……巧みに描き出された夜の美しさと、恐怖の尊さ、是非あなたの「目」でお確かめ下さい。
小説に限らず、ホラージャンルにおいて人体を恐怖発生装置にするとどうしてもゴア要素に引っ張られてしまい作品自体が飲み込まれてしまう危険があるのだが本作では恐怖という感情に主軸を置くことで発生装置のままで話を動かしている点が良かった。何故人は恐怖という感情を得るのか、危険という意味では忌避するであろう感情に対して何故人は惹きつけられるのか、それは美しさだけでなく傍観者としての自分が知らない世界の一端を恐怖から感じてしまうからなのかもしれない。恐怖とは真なる人の感情であるという正木先輩の言はある意味正鵠を得ているのかもしれない。死が隣にいる恐怖は人間の土壇場ともいえるし、何より土壇場は最も人が輝く瞬間なのだから。故にホラー小説は続きが読みたくなるのだ。人の輝きを求めて・・・
とても恐ろしく、美しく、そして……優しい、物語です。
この作品は夜のように静謐な一枚の絵画。
描かれているのはある一人の少女・七子と、彼女を取り巻く世界。
彼女の傍にいるのは、恐怖を好む、美しいひと・正木先輩。
奇妙で不気味な幻視の数々、
七子と先輩が歩く夜の空気、
そして遭遇する/した怪異……
それらの全てが、読者を奇妙な世界へと誘います。
悪夢のような光景は、私たちを身も竦む恐怖へと叩き込む。
……けれど、それと同時に、この物語は優しく、慈愛に満ちてもいるのです。
七子の「目」を借りて、共に違う世界を見てみましょう。
それが、その意味を知る方法です。