尊き恐怖を、あなたに。

 子供のころ、ナップザックにおやつや小道具を詰め込んで、夜の街へ冒険に行くことを夢見ていたことがあった。それはゲーム『MOTHER2』やドラクエや、まあ何かのアニメの影響だったのだろうと思うけれど、本当に実行していたら大変な目に遭っていたかもしれない。
 かつて夜は、昼間とは違う冒険の世界だった。
 それがいつからか、私は暗闇を恐れ、この世ならぬ呪いや霊といったオカルトなものへの恐怖を抱くようになりました。それは年とともに軽くなることはなく、ある日、ふと死ぬことが怖くなってから悪化して今に至ります。
 恐怖を真の感情と捉え、何に恐怖するかで見ている世界が違うと語るこの作品は、ホラーとして真摯に「恐怖」に向き合った作品でした。
 丁寧に撒いた伏線を収束したミステリーとしての手腕、少女たちの関係性を結実させる青春小説としての側面、それらが「恐怖」をテーマに描かれた珠玉の中編。
 暗い青春として進んでいると思ったら、ヒキのたびにゾッとする恐ろしさで突き落とす、エンターティメントとしても完成度が高い。なんとも憎いほどにスキのない作品です。
 まったくこの作者は何者なのか……巧みに描き出された夜の美しさと、恐怖の尊さ、是非あなたの「目」でお確かめ下さい。

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