第7話、過去の軌跡
「 …あ、来た。 里美~っ、ココよォ~! 」
愛子は、芝生の向こうへ手を振った。
ブレザーの制服を着た1人の女子高校生が、こちらへ歩いて来る。 小柄な体形で、身長はそんなに高くはない。 髪は、短いようだ。
……その瞬間、友美は、あるモノを感じた……!
あの、社とか言う少年と出会った時と同じ、『 力 』を操る者の感触だ。 それは今、近付いて来る少女から、ハッキリと伝わって来る……!
友美は、身構えた。
「 あっ、キャッ…! 」
突然、芝生の上に、その彼女は、仰向けに押し倒された。
彼女の周り、10メートルくらいの円形範囲の芝生が押し潰されている。 何か、巨大な… 目には見えない、恐るべき脅威なる力が、彼女の周りを取り囲んでいた。
「 …や… やめてェッ…! つ、潰れ… ちゃ… うぅ~……! 」
仰向けになったまま、彼女は呻いた。
「 ち、ちょっと、友美… やめてっ! あの子は仲間よっ…! 」
愛子が叫んだ。
「 え? あ……! 」
また、いつの間にか、力を使っていたようである。
しかし、彼女との距離は50メートル以上はある。 友美は、自分の力で起こした事とはいえ、この状況を、にわかには信じられなかった。
「 里美、大丈夫っ? 」
愛子は、倒れていた彼女の所へ駈け寄り、彼女を抱き起こした。 友美も駆け寄り、彼女の背中についた芝生を、はたきながら言った。
「 ご、ごめんなさい! 私… まだ、コントロール出来なくて… 」
里美と呼ばれた彼女が、答えた。
「 ううん、私がいけないのよ。 不用意にあなたの深層心理の中を探ろうとしたから、弾き飛ばされちゃった。 でも、それにしても凄い力ね……! びっくりよ 」
「 かなり強力なプレスだったでしょ? 私も校門の壁に、ペッチャンコにされかけたのよ? 」
愛子が、笑いながら言った。
里美が答える。
「 波動、感じたわよ? 大き過ぎて、ちょっと心配だったの。 愛子、潰されてるんじゃないかって 」
彼女は、立ち上がると、友美の方を向いた。
「 初めまして。 三上 里美よ。 あなたと同じ、高3 」
友美は、ぺこりと頭を下げて挨拶を交わした。
「 笠井 友美です。 …ごめんなさい。 これからは、気を付けるわ 」
「 いいのよ。 あなたの力の凄さも分かったし 」
里美は、友美の腕を、ポンと叩いた。
苦笑いした愛子が、友美に言った。
「 里美は、少し離れて待機しててもらったの。 もし、友美が、社側に取り込まれちゃっていたら、多分、話し合いどころじゃなかっただろうから、私が囮になって、里美に押さえてもらおうと思ってたの 」
「 ちょっと、愛子ぉ~、こんな力じゃ… 私たち2人でも、ペシャンコよ? 私が、平方センチメートルあたり、最大で600kgだから… 友美のは、1tは越えてるわね。 凄おぉ~い! 」
里美は、笑いながら言った。
しかし、不安気な友美。 呟くように尋ねる。
「 ……社って子たちは、そんなに危ない事、考えてるの? 」
その質問に、里美は、愛子の方を見た。
「 うん… 一通りの事は今、説明したわ。 友美は、大丈夫 」
答えた愛子に里美は頷くと、しばらく考え、想い付いたように足元の小石を拾うと、友美に見せた。
「 これは、ただの小石よ? 大きさは、小指の頭くらいね。 でも、これを音速以上の速さで飛ばしたら、どうなると思う? 」
里美は、周りを見渡した。
「 あそこにベンチがあるでしょ? さっきまで2人が座ってた。 多分、木製だと思うけど、見てて…… 」
里美は、手の平に乗せた小石に、気を集中し始めた。 やがて小石が、手の平で宙に浮いたかと思うと、ヒュッと、小さな風切り音と共に、消えてしまった。 友美があっけにとられていると、ベンチの方で、バシッと音がした。 ベンチの、背もたれの部分に飛ばして当てたらしい。 小さな白煙が上がっている。
「 来て 」
里美たちに引かれ、ベンチの所へ行って見てみると、小石はベンチの背もたれを貫通していた。
「 まるで… 鉄砲で撃ったみたい……! 」
貫通した穴に手を触れながら、友美が言った。
「 そうね。 もし、パチンコ玉みたいな金属だったら… 警察の検証でも、完璧にそう判断されるわね 」
「 …… 」
「 そこが狙い目なの。 この痕跡の場合、明らかに銃で撃った行為と思われるでしょ? 銃が使われたと判断されたのなら、銃を持っている人間、銃で撃てる範囲の場所しか捜索は行なわれないわ。 つまり、誰かを狙撃しても、犯人は判らない。 どんなに近くにいても、撃った証拠がない……! 姿亡き、犯行よ。 …まあ、わざわざ、狙撃と思わせる必要もないけど、変死よりは、説明のいく状況の方が、私たちの力の存在を知られずに済むから 」
里美の発言は、自分たちを含む『 力 』を持った者たちが、いずれ、人を傷付ける行動に及ぶ可能性がある事を示唆しているようだ……! 社とか言う、あの少年の一派は、人を殺める準備をしているとでも言うのだろうか……?
里美は続けた。
「 とある人物と、組んだとするわね。 その人物にとって、邪魔な他人や状況は、すべて私たちの『 力 』で、どうにでもなるわ。 お金も、地位も、仕事も。 目の前で、力を見せて脅して、その人を思いのまま操る手だってある。 …まあ、他人と組む必要はないかもしれないけど、今のところ、私たちは未成年でしょ? 隠れ蓑的に、誰か、大人と組む方が手っ取り早いのよ。 これを、政治家と組んだら… どうなると思う? 」
……大館という人物の、壮大な策略が、友美にも理解出来てきた。
まさに、自分の思い通りの事が出来る。 邪魔なものは、全て消し去る、独裁的発想の極致だ。 しかも、この力を使えば、いともたやすく実現出来る……!
愛子が、友美の肩に触れながら言った。
「 あいつらが『 事 』を始めたら、全力で止めなくちゃいけないの……! 放っておけば、いずれ、とんでもない結果になるわ。 欲望なんてモノは、一度、手にすると、次は、もっと大きなモノが欲しくなっていくものよ? それを、普通は理性で押さえてるけど… 全ての人が、理性的とは限らないでしょ? …特に、まだ中学生の、あの社って子は、要注意よ 」
それは、友美にも容易に理解できた。
愛子は、メガネの奥から、真剣な眼差しで友美を見つめながら続ける。
「 ……今は、まだよくコントロールが出来ていないけど、驚異的に大きく覚醒した友美の『 力 』は、私たちにとっては必要不可欠なものなの……! 私たちだけの規模の小さな力じゃ、社には勝てないから……! 」
「 …… 」
愛子が続ける。
「 いずれ、この秘密を知っている私たちは、邪魔者にされるわよ? 大館さんは、いい人だけど… あの、社ってヤツは信用出来ない。 最近は大館さんも、手始めだけは少々、荒っぽい事しなくちゃいけないって… 何か、アイツの言動に賛同するようなコト、言い始めてるし…… 」
里美が、友美を見つめながら補足した。
「 手始めだけ、って… ホントに、最初だけで済むと思う? カンタンに解決出来るんなら、その方が手っ取り早いに決まってるじゃない。 逆に、どんどんエスカレートして行くって思わない? 」
無言で頷く、友美。
愛子も、同意したように答えた。
「 何でも思いのままに出来る、とんでもない力が手に入れば… 誰だってそうなるかもね 」
……また何か、大きな事件に遭遇するかもしれないという不安が、友美の脳裏を過ぎった。 平穏な生活が自分に与えられる事は、金輪際、無いのだろうか? しかも、今回は、得体の知れない力との共存である。
( でも… この力を、私利欲望を得るための道具として利用しようと考えているのは、少人数のようだわ…… その危険性を排除出来れば、今度こそ、平穏な生活が待っている……! )
友美は、そう自分に言い聞かせ、里美に尋ねた。
「 ユキは… この事を知っていたの? 」
しばらく間を置いて、里美は答えた。
「 ユキのお父さんは、新聞記者だったの。 人体実験が行なわれた笠原病院に入院していて亡くなった奥さんの死因に疑問を持ち、色々と調べていたらしいわ。 人体実験の事も、独力で調べ上げたみたいね。 感付いた榊原院長と笠井社長の策略で、自動車事故に見せかけて、殺されちゃったの。 …車を貸したのは、当時、『 死喰魔 』のリーダーだった、笠井社長の娘、笠井洋子。 やったのは、洋子の彼氏だった、住田純一。 ……この住田純一っていう人は、元はユキのお父さんの部下だった人なの。 人体実験の事も、一緒に調べてはいたんだろうけど、病気で入院中だった母親の手術費が膨大で… お金に困って、榊原院長たちに密告したのよ 」
……まさに、金と欲が絡んだ、醜い人間絵図の縮図だ。
今、解き明かされた恐ろしい過去に、友美は驚愕せずにはいられなかった。
また、以前から不明だった、ユキが『 死喰魔 』を恨んでいた理由も、里美の説明から判明した。 病院側・製薬会社側の不正を正そうとした父親を、口封じの為に、『 死喰魔 』に所属する車で、轢き殺されたのだ……!
里美は続けた。
「 父親の古い手帳から偶然、この事を知ったユキにとって、それは復讐以外の何ものでもなかったのよ。 だから我を忘れて、力のコントロール制御が出来なかったの。 もっと大きな企てが立てられている事も、私たちの存在も知らなかったと思う 」
愛子が、その後を付け足して答えた。
「 でも、ユキは、友美を殺さなかった……! きっと、何かを感じたのよ。 深層心理に入っても、判るのは、その人の過去の記憶がほとんどだけど、もしかしたらユキには、未来が予知出来ていたのかもしれない 」
「 未来の予知……? 」
友美自身も推察していたが、菊地も同意し、更なる未来に対して、同じような事を言っていた。
未来予知……
本当に、そんな事が出来ていたのだろうか……?
愛子の言葉に、友美は、じっと彼女を見つめた。
友美を見つめ返す、愛子……
しばらくの間の後、愛子は、静かながらも、重みのある口調で言った。
「 ……私は、確信してるわ。 ユキには… あの子には、未来が予知出来ていたんだと思う 」
「 そ、そんな事が本当に……! 」
信じられない様子の友美。
愛子は続けた。
「 一度だけ… ほんの少しだけど、ユキの深層心理が見えた時があったの。 暗い… とてつもなく悲しい世界だったけど… 期待と希望を感じる心理の中に、友美の姿があったわ……! 」
「 え? 私の……? 」
愛子は頷き、言った。
「 もっとも、その時… 私は、友美の顔立ちは知らない。 でも、ユキは、ハッキリと意識の中で認識してたわ。 いずれ出会う、友美に期待してるって……! 」
自分を、見逃してくれたのかもしれない、ユキ……
未来への『 期待 』が、友美が『 生かされた 』、もしくは『 見逃された 』理由となるらしい。
……ユキには見えていたかもしれない友美の未来……
それは、一体、どんな未来であったのだろうか……?
愛子は続けた。
「 未来予知なんて… 冗談のように思えるでしょ? でもね、ユキの、あの常識を超えた力は、ホント、ケタはずれだったのよ? 憎しみで我を失い、神経を切っちゃった時… 私なんか、ユキの半径50メートルには、近付く事すら出来なかったわ。 社だって、跳ね飛ばされて、肩を脱臼したのよ? 」
怒りと復讐の憎悪……
ユキを動かしていたのは、怨念の塊とも言える『 恨みの力 』だったのだ。
そして、あまりに悲しい末路……
未来予知の確信は別として、この一連の事件の発端に、自分の父親が関係していた事実は、友美にとって、改めて恥じ入る気持ちにさせた。 それと同時に、何とか解決の糸口は掴めないものか、と思慮した。 ……出来れば、争いは避けたい。 お互い、『 仲間 』なのだ。
3人は、それぞれの想いを胸に、無言で河川敷を眺めていた。
しばらくすると、里美の携帯端末の着信が鳴った。
画面を確認した里美が、愛子に言った。
「 …春奈からよ。 行ってもいいか? って 」
里美が、愛子に言った。
「 うん。 友美にも引き合わせたいし、そうね… 5時半に中央公園でどう? 」
「 わかった。 返信しとくね 」
どうやら、新しい仲間からの連絡らしい。 先程の愛子の説明だと、あと3人の仲間がいるはずである。
友美は愛子に言った。
「 ごめん。 駅前で、ちょっと人と会わなければならないの。 それを済ませてから行ってもいい? 時間までには行けるわ 」
里美が、端末をブレザーのポケットに入れながら答えた。
「 いいよ。 …中央公園、知ってるでしょ? 南の方に、大きな石碑、あるじゃない。 ちょっと、舞台みたいになってるトコ。 あそこね 」
「 わかった。 待っててね 」
愛子が言った。
「 じゃ、里美、何か食べていかない? 私、お腹減っちゃったよ 」
「 アンタ、いっつもそうじゃん。 おとなしい顔して、めっちゃ食べるのよねぇ~ 」
気の合いそうな、新しい2人の仲間と別れた友美は、駅前の方へと向かった。
雑居ビル1階にある小さな喫茶店……
歩道側にある4人掛けのボックス席からは、街を忙しそうに歩く人々の姿が、途切れる事無く目に映る。
友美は、着信のあったスマートフォンを操作し、ブック式カバーを閉じるとテーブル脇に置いた。
テーブルに置いてあったカップを手に取り、カフェオレを一口飲む。 カップを持ったまま、窓の外を見やると、小さく息をついた。
やがて、入口のガラス製扉を押し開け、若い男が入って来た。
「 やあ、ごめんごめん…! 出掛けに編集長から電話が掛かって来てね。 話し出すと長いんだ、ウチの編集長 」
菊地である。
昨夜は、今後の事を相談しようとしていた時間を、社の遭遇で遮られた為、ここで待ち合わせをしていたのである。 『 力 』の理解者となり得そうな菊地の存在は、愛子たちに紹介しても良かったのだが、今の時点では時期早々と判断し、今回は見送った。 まだ『 力 』の保持者全員と顔合わせをした訳ではない。 全てのメンバーとのコミュニケーションが終了した後、皆に、菊地を紹介した方が良いだろう、と友美は思ったのである。
「 忙しいのに、すみません 」
持っていたカップをテーブルに置き、軽く、お辞儀をする友美。
菊地は、持っていたブリーフケースを座席横に置くと、友美の対面に座り、笑いながら答えた。
「 これも、何かの縁だよ。 乗り掛かった舟だしね。 僕にとっても、大きな転機になるような気がするんだ 」
「 大変な事態に巻き込んでしまったようで… 何か、心苦しいです 」
「 ははは、気にしなくて良いよ。 …それより、LINE読んだよ。 仲間たちと会ったって? 」
「 はい。 1つ年下の愛子って子と、同年の里美って子です 」
大学生バイトと思われる店員が、菊地の分のおしぼりと、水が入ったコップを持って来た。
「 あ、僕、アメリカンね 」
会釈してテーブルを離れ、厨房に向かって声を掛ける。
「 アメリカン、1~ 」
友美は、カップを手に取ると続けた。
「 2人とも、あの社って子と同じように、不思議な力を使うんです。 彼女たちに言わせると、私の方が、力が強いらしいんですが…… 」
「 まだ、力の扱いがよく出来なくて、コントロール不足… 力は大きくても、使いこなせていない、って事だね? 」
菊地が、友美の発言の続きを言った。
「 はい 」
答える友美に、菊地は腕組みをしながら言った。
「 …そのコントロールが、出来た方が良いのか、出来ない方が幸いなのか… だな 」
頷く、友美。 手にしたままのカップを、じっと見つめながら、呟くように言った
「 出来れば、関わり合いたくないのが本音です。 もう、人を傷つけるのはイヤ……! 」
目を瞑り、表情を曇らす友美。
運ばれた来たコーヒーを手を取り、テーブルに置かれた伝票を脇に移動させながら、菊地が答える。
「 もっともな答えだね…… だが、現状は、そうも言ってられないんだろう? 」
ひと口、飲んだカップをテーブルに置き、下を向いたまま、無言で頷く友美。
カップを口に運び、菊地は言った。
「 友美ちゃんや、その… 愛子ちゃん・里… 美? ちゃんが、どうして不思議な力を使えるようになったのかは、聞いてみたかい? 」
顔を上げ、友美は、愛子たちから聞かされた『 4429F 』と言う新薬に纏わる経緯を、菊地に話した。
遺伝子構造を変化させる薬品…… 投与された妊婦の存在…… 体内に摂取される食品添加物との反応…… ユキの『 見逃し 』の真相……
菊地は時々、頷きながら、真剣に聞き入ってくれた。
親身になって、心配をしてくれている菊地。
その心情が確認出来、友美は嬉しかった。
……心から信頼して、何でも話せる相手……
友美にとって菊地の存在は、そんな、拠り所のある大切な存在へと変化しつつあった。
「 …う~む… でかいスクープだな、そりゃ…! 」
話を聞き終わった菊地は、長い溜息をつくと、静かに言った。
左手の指先で、右眉の辺りに触れながら続けた。
「 発表すると、学会がひっくり返るね……! 他の週間誌か聞きつけたら、それこそ、いいネタにされて… ある事・ない事を捏造された挙句、事実宜しく吹聴されるのがオチだ 」
友美は、すがるような表情で菊地に言った。
「 菊地さんなら大丈夫、と思って… 」
苦笑いしながら、菊地は答えた。
「 認めてもらって嬉しいね。 …大体、新薬によって引き起こされるとされた『 力 』の実証は無い。 そんな状況では発表出来ないよ、こんな大それたコト 」
コップの水を飲み、菊地は続けた。
「 まあ、実証が明らかにされても、微妙だね…… 信じる・信じないは、個人の価値観次第だけど、あまりに突飛な内容だけに、発表は慎重を期さないと 」
無言の友美。
菊地は続けた。
「 見逃しの理由は、友美ちゃんの未来への期待… か 」
友美は、不安気に言った。
「 私… そんな大それた事、出来ません。 だいたい、何をしたら良いのか分からないし…… 」
菊地は答えた。
「 別に、無理に『 救世主 『にならなくても良いと思うな。 これから、どんな展開になって行くのかは、ハッキリ言って誰にも分からない。 その場その場での、適切な判断に委ねるしか無いんじゃないかな? 」
友美は下を向き、目を瞑ると言った。
「 私、これからどうして生活して行けば良いのかしら… 凄く不安だわ……! 」
菊地は、小さな息をつき、答えた。
「 特別な事は、する必要なんて無いよ。 力を覚醒したとは言え、それで何かしらの義務が生じる訳でも無い。 他の仲間たちも、普段は、普通に生活しているんだろう? 」
友美は、頷いた。
「 まあ、先に覚醒した仲間たちがいるんだ。 物事は、『 先輩たち 』に聞くのが賢明だよ? 特に、リーダー的な仲間にね 」
不安な友美の心情を和らげようとしてか、少し笑いながら菊地は言った。
小さく頷く、友美。
菊地の言葉に、多少は落ち着いたのか、顔を上げて言った。
「 私は、まだ会った事は無いけど… その『 大舘 』さんと言う人は、みんなのリーダー的存在らしいの 」
カップに手を伸ばし、冷めたカフェオレを飲み干す、友美。
菊地はテーブルに突いていた両肘を放し、イスに、背中をもたれ掛けると尋ねた。
「 彼… その『 大舘 』とか言うリーダーの男性は、何に『 力 』を利用しようと考えているんだい? 」
「 ……まだ、詳しくは聞いていないわ 」
愛子たちからは、政治家と組み、人を殺める画策を目論んでいるらしいと聞かされていたが、本当かどうかの確認は取れていない。
( 憶測を、ジャーナリストである菊地さんに話すのは良くないわ。 今日は、やめておこう )
友美は、そう判断し、言葉を濁した。
窓の外に目をやり、遠くを見るような目で菊地は言った。
「 …何でも出来る、見えない力、か…… 単純なヤツだったら、自分の事に使うだろうね。 金の強奪とか 」
それ以外の『 人物 』だったら、どう駆使するのか……?
菊地には、何となく答えが見えているかのようだった。
友美は、その答えを確認したく、菊地に問いかけてみた。
「 頭が良いと言われている大舘さんなら、何に力を使うと思いますか? 」
しばらく、外の景色を見つめた後、友美に視線を戻し、菊地は答えた。
「 ……ある意味、『 神 』に成り替わろうとするだろうね 」
まるで、謎解きの様な答えに友美は、菊地をじっと見つめた。
菊地も、友美を見つめると、静かに言った。
「 世界を… 社会の実情を… 世の中を動かそうと、真剣に画策すると思う 」
……さすがは、記者である。 おそらくは、的を得た考えに到達していると推察された。
菊地は続けた。
「 まあ、友美ちゃんが、大舘と言う人に面会して意思の疎通が図れたら、僕にも紹介してもらおうかな。 実際に会って、意志を確認してみたい 」
「 ……画策に同調したら、仲間になる、って事? 」
「 まさか。 人の目を避けての行動や、自分を表に出さない言動は、何かしらの『 負い目 』が前提にあるからだ。 そんな後ろめたい画策には、同調なんて出来ないし、当然、仲間にはならない 」
それを聞いて、安心した表情の友美。 どうやら菊地には、大舘の考えの見通しが、おぼろげながらも出来ているようだ。
だが、愛子たちから聞いている大舘の目論みを、今日、菊地に話すのは止めた。
( 私がまず、大舘さんに会ってから、菊地さんに話そう )
友美は、そう思った。
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