エピローグ
「うーん……この書類は……」
あの事件から数週間、ボクは相変わらず自分の家で書類の整理をしている。
というか、書類整理の仕事が多すぎるんで改善はしたいとこだけど、書類整理以外に城の外でやる仕事もないから仕方ない。
「ただいまー」
「あ、お帰りなさい」
女勇者さんは袋を抱えながら家に入ってくる。しかも、行儀悪くリンゴを食べながら。
「あ、またやってますね。そうやって歩きながらものを食べるのはやめてくださいって前から言ってますよね?」
「うるさいわね。ほらあんたも食べなさいよ」
リンゴを口にくわえながら、紙袋からリンゴを取り出すとボクの方に投げてくる。
「おっと、もう、あぶないですね」
「なによ。あ、もしかしてあたしの食べかけの方がよかった?」
「はいはい、冗談はそれくらいにしてください」
ボクはリンゴを横に置くと書類を片付け戸棚にしまい込む。
「まったく、面白くないわね」
そんなことをやっているとドアがノックされる。
「はーい……あれ、あんたは」
「どうもっす」
ボクはドアの方を見る。真っ黒い狼族の青年……黒狼将軍だ。
「どうしたんですか?」
ボクも立ち上がりドアの側へ行く。
「その節はお世話になったっす」
「いや、お世話にって言うか……大丈夫だったんですか?」
「まあ、なんとか」
眼帯を触りながら彼は言う。
そう、彼はもう将軍ではない。さすがに部隊を失ったことや秘宝を勝手に持ち出したことは問題になり、彼は一時的に逮捕された。そして、将軍を解任され、軍からも除隊することになった。
「魔王様からの嘆願書とか色々あって、なんとか首で済んだっす。いや、本当に感謝してもしきれないっす」
「もう少し罪は軽くしたかったんですけど」
「いやいや、十分っすよ。本当なら今頃は牢屋の中でもおかしくなかったっすからね」
確かに、彼の今までの功績などを考えると、ギリギリだったとは思う。確かに、これ以上罪を軽くすれば別の問題が出てきたかもしれない。
「で、今日はどうしたの? またなんか頼み事?」
ボクがそんなことを考えていると彼女が言う。
「あ、いや、実は俺、この結婚してこの街に住むことにしたんすよ」
「へぇ~、結婚ですか……結婚!?」
ボクは驚きのあまり変な声を出してしまう。
「あ、ちなみに彼女がそうっす」
そう言うと家の陰から真っ白い猫族の女性が現れる。
「こんにちは。色々とお世話になりました」
彼の婚約者さんは深々と頭を下げる。ボクたちも自己紹介と挨拶を済ませる。
「えーと、じゃあ、彼女が幼馴染の警備兵だと」
「そうっす。何とかごまかせたから辞める必要はなかったんすけど、俺が辞めるってことになったら、自分も責任をとるって言うもんすから」
「なに言ってるんですか? 全部の責任を押しつけるとでも思ったんですか?」
婚約者さんは少し怒ったように言う。元将軍は困ったような顔をする。
「いや、だからって、俺が国を出ようとするときに待ち構えて、結婚を迫るとか」
「なんですか? 結婚したくないんですか?」
「そんなわけないだろ」
二人の仲がよさそうな会話にボクは思わず笑ってしまう。
「で、あんたたちはなんの用で来たの? まさか、結婚するって自慢しに来たわけでもないでしょ?」
「え? ああ、そうっす。実は結婚するにあたって結婚式の仲人を頼もうと思ったんすよ」
元黒狼将軍は眼帯を触りながら少し恥ずかしそうに言う。
「え? あたしたちに? でも、いいの?」
「はい、彼とも相談したんですけど、お二人に是非ともおねがいしたいと思ったんです。ダメでしょうか?」
婚約者さんは不安そうな顔をする。
「あ、ボクは構いませんよ。貴方もいいですよね?」
「まあ、頼られたのに断るわけにもいかないわよね。わかった。引き受けてあげる」
ボクたちが言うと婚約者さんは笑顔になる。
「ありがとうございます!」
「お二人に受けて貰えて感謝してもしきれないっす」
「じゃあ、お二人の結婚式の具体的に日程が決まったら教えてください」
「了解っす。じゃあ、すいませんけど、これから新居を決めたりしなきゃならないんでこの辺で」
話が終わると、二人は何度もお礼の言葉を言い、帰っていった。
「結婚……か」
家に入ると女勇者さんはつぶやく。
「やっぱり憧れますか?」
「まあ、あたしも女だからね。そりゃ憧れるわよ」
彼女はそう言いながらほほを指でかく。
「そうですか……そうなるとボクは魔王を辞めないとならないでしょうから、暮らしは大変になるかもですね」
「え?」
「いや、もしも結婚するなら、さすがに魔王は続けられないから、お金の面が不安かなぁ……とは、思いますね」
ボクは腕を組んで悩む真似をする。ボクを見た彼女は大きな声で笑う。
「まったく。なに言ってるのよ。まあ、でもあんたが失業したらあたしが稼ぐから安心していいわよ。これでも剣の腕にはちょっとした自信があるからね」
「え? あなたが稼ぐのが前提なんですか?」
「そうよ? あんたのおいしいごはんを食べさせてくれるなら、あたしがしっかり稼いできてあげから安心してちょうだい」
「はいはい」
ボクは紙袋を持ってキッチンへ向かう。
「じゃあ、二階で待ってるからよろしくね」
「たまには手伝ってみませんか?」
「あはは、あたしはあんたの作ったごはんが食べたいから、それは遠慮しておくわ」
彼女はそう言いながら二階へと上がってしまう。
「まったく……さて、なに作りましょうか」
ボクもキッチンに入り、彼女の好きなものを考えながら昼食の準備を始めた。
魔王(♂)くんと勇者(♀)さん 鶏ニンジャ @bioniwatori
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