彼女の再開

「ここですね」


 月明りの下。ボクたちは森に囲まれた、丘の上の共同墓地にきた。あたりは静寂に包まれ、遠くから時々フクロウか何かの鳴き声が聞こえてくる。


「あの、ここは……」


 スケルトン少女さんはここに来るまでの間、ずっと戸惑っていたし、今も戸惑っている。


「いいですか? よく聞いてください。あのドワーフの工場……確かに人間族の住む家はありました」

「え? じゃあ!」

「ですが、最近ではありません」


 できる限り冷静にボクは話す。


「百十三年の事です」

「え?」


 スケルトン少女さんはよろめき、女勇者さんがそれを支える。


「ねぇ、待って。じゃあ、彼女は……」

「はい、役場や図書館などで調べましたが、あの場所には確かに百十三年前に夫婦が暮らしていました。しかし、奥さんは行方不明になり、今も見つかってはいません。そして、その事実に絶望した旦那さんも、後を追うように病死しています」


 ボクは事実を告げる。胸が苦しい。でも、言わなければならない。


「じゃあ、あの人は……」


 無言でボクは墓地の中を歩く。女勇者さんに支えられながらスケルトン少女さんはボクのあとをついてくる。


 石や木のお墓が立ち並ぶ中、しばらく歩いてボクは立ち止まる。


「ここ……ですね」


 そこには木製の朽ちかけた粗末なお墓があった。名前すら読み取れないが、ここで間違いない。


「ここに、あなたの最愛の人が眠っています。これが、その時の記録です」


 ボクはポケットから一枚の紙を差し出す。スケルトン少女さんはその紙を手に取る。


「ああ、そう、そうです。私は彼と十六才の時に結婚して、でも、街の外に出かけた時に崖に落ちて……それで……」


 彼女は震えて、泣きそうな声でつぶやく。女勇者さんもつらそうな表情をしている。しかし、それでも彼女をしっかりと支えている。


「じゃあ、私はもう彼には……」

「いえ、たぶん、それは大丈夫だと思います」

「え?」


 スケルトン少女さんはボクを見る。そして、その直後、周囲の気温が一気に下がるのを感じた。


「来ましたね」


 ボクはお墓の前から離れる。するとそこには若い男性の幽霊が現れる。


「あ、あなたは……」


 スケルトン少女さんは泣きそうな声でふらふらとその幽霊さんの元に歩いていく。


「ちょっと!」

「大丈夫です」


 女勇者さんは止めようとする。しかし、ボクは逆に女勇者さんの腕を掴み止める。


「やっと、やっと……会えました……」


 幽霊さんは優しい顔でほほ笑んでいる。そして二人は抱き合う。


「ダーリン!」

「マイハニー!」


 ん? ダーリン? ハニー?


「マイハニー、どうしたんだいその姿は?」

「いやん、恥ずかしい。こんな骨っぽい姿であなたの前に出るなんて……」

「何を言ってるんだいハニー、骨まで愛するって言っただろ?」

「もう、ダーリンったら!」


 あれ、おかしいな。もっと悲しい感じの再開になると思ったんだけど……

 隣の女勇者さんを見ると、彼女も何とも言えないと言った感じの顔をしている。


「僕のほうこそこんな半透明な姿になってしまって」

「なに言ってるの! 半透明でもあなたのカッコ良さは全然変わらないわ。いや、むしろ、あの時よりも少しやせてもっとかっこよくなったわよ」

「ハハハ、そうかい? 照れるね」


 なんだろ、話に入っていけない雰囲気なんだけど。


「あ、そうだ! この人たちが私のことを引き合わせてくれたの!」


 スケルトン少女さんがボクたちを幽霊さんに紹介する。ボクたちも挨拶する。


「いやー、ありがとうございます。僕も最近目覚めて彼女を探そうと思ってたんですけど、なぜかここから動けなくって、本当に助かりました」


 幽霊さんはすごく明るく気さくに話しかけてくる。

 うん、なんだろな、事実を話すことを、もの凄く悩んだんだけど……まあ、楽しそうならいいのかな?


「え? 二人は死んだことは悲しくないの? 不死族になった悲しさとかそういうのはないの?」


 女勇者さんは何とも言えなそうな顔で聞く。


「え? それはハニーと一緒にいられなかった時は悲しかったですけど、こうして再会できましたし」

「そうですよ。これからずっと一緒にいられんですから。ねぇ、ダーリン」

「ああ、マイハニー! これからは君を悲しませないよ?」

「もう、ダーリンたら……これから幸せになりましょうね」


 二人はボクたちに一切の遠慮をすることもなくイチャイチャしている。

 そうだね。愛さえあれば姿かたちが変わっても気にならないのかもしれないよね。


「ねえ。一つ聞いていい?」

「なんですか?」

「あの二人、何年くらい生きるの?」

「えーと……普通に暮らせば五十年。死者の国なら百年くらいは普通に生きられるかと」

「あ、そうなんだ……」


 夜の墓地の中、何とも言えない顔になってしまったボクたちと対照的に、スケルトン少女さんと幽霊さんの楽しそうな声が響いていた。






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