その真相は

「さて……」


 縛られた隊長さんをボクは見る。目を覚ます気配はない。しかし、このまま無防備にしておくのはまずい。

 魔物の気配は今はないが、襲われたらさすがに守るのは厳しいし、ここから背負って場所を移動するのも体力的に不可能だ。


「しかたないですね……シールドウォール!」


 ボクは防御魔法を発動する。移動はできないがその分頑丈なシールドを一定時間その場に残すことができるから、これで最悪、一晩くらいは越せるはずだ。


「さて、次は……」


 ボクが悩んでいると後ろの茂みから音がする。ボクは警戒しながら後ろを向く。


「ああ、よかった。無事だ……」


 ボクはそこで言葉に詰まる。そこには女勇者さんが立っていた。しかし、手にした剣には血が付いている。


「心配したんですよ? 大丈夫でしたか?」


 状況を把握するためにもボクはゆっくりと彼女を観察しながら話す。

 いつの間にかボクは幻覚の魔法にかかったのか?

 いや、それならわかるはずだ。どんなに魔力が高くても全く抵抗もなく魔法にかかることはありえない。


 なら、答えは……


「さあ、かかってきなさい」


 無表情で女勇者さんが剣を構える。ボクも構え、両手に魔力を集中させた。


「どうして……って、聞いても無駄ですよね?」


 僕の問いかけに彼女は表情を崩さない。

 どうする? 戦えるのか? いや、彼女が幻覚を見ているなら何とかして解呪しないと……


「はっ!」


 考えを整理しているうちに彼女が斬りかかってくる。


「くっ! ウインドブラスト!」


 その攻撃で、ボクは右腕を斬りつけられる。しかし、左腕で何とか風の魔法を使い彼女の体を弾き飛ばす。


「うわ!」


 彼女はそのまま尻もちをついてしまったが、すぐに立つと構えなおす。


「ど、どういうこと? 杖も使わないで魔法って……」


 彼女はなぜか驚いている。


 右腕状態をボクは確認した。痛みはあるけど、指先は動く。だが、魔法を使うことはできそうにない。


「はぁっ!」

「マジックシールド!」


 ボクは左腕で魔法の盾を展開し何とか防ぐ。しかし、彼女は盾で防がれると簡単に後ろに下がってしまう。


「え?」


 おかしい……彼女の力ならそのまま押し込めば勝てるはずだ。

 腕の痛みのせいで、逆に思考がクリアになる。

 そうだ……黒狼将軍だ。彼が彼女を見失うはずはない。そうなると剣の血は彼のもののはずだ。だが、彼女の服には戦闘をした形跡がない。いくら彼女が強くて、黒狼将軍が手加減したとしても無傷で済むはずがない。


 それにボクが杖も使わずに魔法を使えることは知っているはずなのに……何かおかしい。

 ボクはもう一度女勇者さんを見る。冷静になってみると、構えもどこかおかしい。


「あなた……一体誰ですか?」

「あたしはあたしよ? なに言ってるの?」


 彼女は笑う。いや、違う……冷静になってみれば見間違ってたボクがどうかしていた。


 その笑顔は彼女のものじゃない。


「あー、バレちまったか。お前、オレを捕まえに来たんだろ?」


 女勇者さんのまま、彼女の偽物の口調が変わる。


「ええ、そうですよ。ただ、相手に魔法をかけるんじゃなくて、自分を変化させる魔法だとは思いませんでしたけどね」


 ボクは相手に気付かれないように左手に魔力を集中させる。彼女じゃないんだったら遠慮する必要はない。


「ああ、すごいだろ? 俺は変化の魔法が得意な魔術師でな。最初は本当に短時間だけだったんだが、こいつのおかげでいくらでも変身し放題だ。凄いだろ?」


 指輪を見せながら魔術師は言う。


「じゃあ、宝物庫に入ったのも?」

「ああ、そうだ。巡回の兵士に変身して眠り粉をちょいとまいてやったらぐっすりさ」


 彼は得意げに語る。

 魔力はもう少しで……


「ああ、そうだ。一ついいことを教えてやるよ。この指輪のおかげで魔力が上がってな、その感知能力も上がってるんだわ」


 そう言いながら魔術師はボクに背を向け走りだす。


 しまった! 見破られた!


「アイスニードル!」


 ボクは慌てて氷の針を撃ちだすが木に突き刺さってしまう。魔術師はすでにそこにはいない。


「くっ……いや、落ち込んでる場合じゃない。急いで彼女たちに合流しないと」


 ボクは治療魔法で傷をふさぐ。


「よし、次は……」


 そして、魔術師を追うために探知のペンダントに魔力を送る。

 彼はボクの倒すのに失敗した。なら次の動きは逃げるか、女勇者さんたちを狙うかの二つに一つだ。

 だが、逃げたとしたら彼女たちに合流している時間はない。


「よし、こっちだ!」


 あの魔術師の戦闘能力は低い。じゃなければ、あの時にボクから逃げずにとどめを刺していたはずだ。なら、油断さえしなければ何とかなる。

 ボクは反応のあった方へと全力で走り出した。


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