魔王(♂)くんと勇者(♀)さん

鶏ニンジャ

魔族と人が暮らすこの街で

幼馴染の女剣士さんと決闘

コーヒータイム

「えーと……ここの書類は……って、なんで古代魔法言語で書くかなぁ。まったく、黒魔将軍は自分がわかればいいって態度は改めた方がいいと思うんだよね」


 ボクは朝の自宅でテーブルに書類を広げて、国からの報告書を読んでいる。

 まあ、休暇中とはいっても、魔王として国の状況の把握くらいはしておかないとならないからね。それに国から生活費をただで貰うのも気が引けるし。


「ふぁー……おはよー……」


 階段の上の方から声がする。眠そうな声……女勇者さんだ。


「おはようって、もう昼ですよ?」


 書類から目を離さずにボクは言う。

 しかし、どうするかな。古代魔法言語は辞書でも出さないとならないんだけど……うん、後回しにしよう。


「ふぁー……なに読んでるの? って、なにこれ。なに書いてあるか全然わからないじゃない」


 彼女はボクの後ろから手を伸ばし、適当な書類を持っていく。


「ああ、普通の人には読めませんよ。魔王軍で使われている特殊文字なんで」

「特殊文字?」

「ええ、記号とか略語を組み合わせて読むのも書くのも効率化を……って、何なんですか、その格好は!」


 ボクは女勇者さんを何気なく見る。大きめの胸に引き締まった腹筋、そして、白い上下の下着姿で立っていた。


「だって、家にいるのに服とか面倒だし」

「いやいやいや、一緒に住むって決めた時に、約束したじゃないですか。家の中では服を着るって」

「うるさいわねぇ。あたしの家なんだからあたしが自由に暮らしても問題ないでしょ」

「いいえ、ボクの家です」


 うん、ボクのお金で家はもちろん、家具まで全部を買ってる。あんまりうるさくは言いたくはないが、その辺のケジメはきちんとつけとかないとダメだと思う。


「まったく、けち臭い魔王様ねぇ……背が小さいんだから、気持ちくらいは大きく持ちなさいよ」

「ちょっと、背は関係ないですよ!」


 ボクの叫びを無視して、彼女は下着姿のままキッチンに向かう。しばらくするとキチンからコーヒーのいい香りが漂ってくる。


「あー……そうだ。今日は買い物に行くんだけど、一緒に行く?」


 彼女がコーヒーを飲みながらキッチンから出てくる。


「買い物ですか? そうですね。せっかくだからご一緒させてもらおうかな」


 ボクはメガネをはずしながら大きく伸びをする。とりあえず、重要な書類はもう読み終わると思う……古代魔法言語に関しては、夜か明日にしよう。さすがにあれを読むのは一苦労だ。

 それに、少し外の空気も吸いたいしね。


「じゃあ、もう少ししたら出るから準備よろしくね。あ、あんたもコーヒー飲む?」

「あ、いただきます」

「はい」


 彼女は無造作に自分が飲んでいたコーヒーを机に置く。


「……なんですか? これ?」

「コーヒー」

「じゃなくて、飲みかけってどういうことですか?」

「えー、だって飲むって言ったじゃない」


 彼女の顔を見るとにやにやしている。なるほど、間接キスだとかでボクをいじるつもりらしい。


「なによ? 飲まないの?」

「はぁ……もういいですよ。とりあえず、これを終わらせちゃうんで、待っててください」

「はーい」


 そう言うと彼女はまたキッチンに入っていってしまう。

 ボクはまた書類を読み始める。


「えーと、これは……」


 今度は几帳面に細かい文字でびっしりと書かれた書類に目を通す。


「ああ、白麗将軍のか……だから、報告書は簡潔に、詩の引用とかしないでって言ってるのに」


 とりあえずなんとか全部読む。だけど、問題がないということしかわからない。

 嫌われてはいないと思うけど嫌がらせを疑いたくなるよね……いや、大臣たちも同じような事を愚痴ってたから全体的な改善はしないとダメかなぁ。


「あー……目が痛い」

「はい」

「え?」


 目の前に入れたてのコーヒーが置かれる。白い湯気が立ち上り、いい香りがただよう。


「コーヒー、飲むんでしょ? じゃあ、終わったら呼んでね」


 彼女はそう言うと階段の方へ歩いてゆく。


「あ、ありがとうございます」


 声をかけると女勇者さんは片手を振ってそのまま二階へいってしまった。

 ボクはコーヒーを一口飲む。


「あ、おいしい……」


 ミルクがたっぷり入った甘めのコーヒーだ。書類整理で疲れた頭にこの甘さはちょうどいい。


「よし、頑張るか」


 ボクは大きく伸びをする。そして、彼女のやさしさに応えるためにも、書類整理を再び始めた。

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