幼馴染剣士登場する
「いらっしゃ!」
お昼を少し過ぎたころ。昼食を済ませたボクたちは、壁に様々な武器や防具が飾られた武器屋の店内に入る。すると、人間族の店長さんが声をかけてくる。店内に他の人はいない。
「どうも」
「こんにちは」
ボクたちは店長さんに挨拶すると店内の武器を見はじめる。
「しかし、意外ですね」
「ん? 何が?」
「いや、勇者というくらいですから、こういう量産品のお店じゃなくて、名匠の逸品、みたいなのを買うと思ってたんですけど」
お店の店長さんには悪いけど、この店は普通の武器屋だ。もっといい武器を売っている店なら他にもある。
しかし、女勇者さんは気にせずに武器を選んでいる。
「ああ、武器なんて結局は消耗品でしょ。前にいたとこでも手になじむとかその程度の理由で使ってたのよ」
「前のところ?」
「うん? ああ、勇者になる前は傭兵団に所属してたのよね」
「え、傭兵団?」
ボクは思わず聞き返してしまう。
「あれ、普通に暮らしてるって言ってませんでしたっけ?」
「え? ああ、王国は周辺の小国と小競り合いをしてたから、傭兵とは普通の仕事なのよ。まあ、王国の兵士で手が足りない時のモンスター退治がほとんどだったけどね」
彼女はこちらを見ずに武器の重さや刃の状態などを入念に確認している。
「そうですか」
ボクは自分の知らない彼女の過去に、少し複雑な気持ちになってしまう。
「ばーか」
「あいた!……って、何するんですか」
そんな事を考えていると、女勇者さんがボクのおでこを軽くたたいてくる。
「顔に出てるわよ」
「あ、その……」
「まったく。いい? 別に隠してたわけじゃないんだから、知りたいなら後でゆっくり話してあげるわよ」
そう言うと彼女はまた武器を探し始める。
うん、彼女のこう言うとところは年上の女性って感じだよね。ボクも見習わないと。
「ねえ。あんたは武器を選ばないの?」
そんなことを考えていると彼女が声をかけてくる。
「ボクですか?」
「一応、戦う準備はしておいた方がいいんじゃない? 何があるかわからないんだし」
「あー……それは大丈夫です。ボクは剣術は全く習ってませんし、杖とか使わなくても魔法は使えるんで」
「あー、そう言えば、あの時も武器も何もないからって斬りかかったら、目の前にいきなり炎の壁が出た時には驚いたわよ」
魔王の血の影響で、ボクは魔法を使うのに詠唱や装備品は必要ない。一応、戦いの訓練はしてはいるけど、実戦経験は少ないけど、こればっかりは、まあ、仕方ないよね。
「いらっしゃい!」
そんなことを話していると、別のお客さんが店に入ってくる。ボクは何となくその人を見る。
剣を携えた短い金髪の男性……いや、女性だ。一瞬、勘違いしたけど、よく見るとお芝居の男役のような凛々しい姿の女剣士だった。
その美しさにエルフ族かとも思ったけど、耳も短いしどうやら人間族らしい。
なんとなく女勇者さんを想像させる。
まあ、女勇者さんの方が美人だと思うけどね。
「すまない。ご主人、少し訪ねたいのだが」
その女剣士さんは凛とした声で言う。やっぱり、お芝居の男役とかやっててもおかしくはない感じだ。
「え? その声……」
女勇者さんは出口の方を振り向く。
「やっぱり! 姉さん! 姉さんじゃない!」
「ん? その声は?」
そして、驚きながら女勇者さんは女剣士さんに抱きつく。
「久しぶり!」
「ああ、やはり、君か……久しぶりだな!」
二人はしっかりと抱き合う。ボクは完全に蚊帳の外だ。
「どうしたの? こんなところで?」
「それはこちらのセリフだ。王都では君は家を出て、武者修行中だという話だったが?」
「え? ああ、そう! そうなのよ! 今はこの街で暮らしながら修行中なのよ!」
女勇者さんは焦った様子で何とか話を合わせている。
二人は親しそうに話している。うーん、なんだろ、この入り込めない雰囲気……この人は女勇者さんにとってどんな存在なんだろう?
「ん? そっちの彼は?」
「ああ、彼?」
女剣士さんがボクに気付く。
「え? 彼? えーと……その……」
女勇者さんは口ごもってしまう。
まあ、女勇者さんは嘘とか付けない人だからなぁ。
「ご紹介が遅れました。ボクはこのお方の従者として身の回りのお世話をさせていただいております」
ボクは嘘の自己紹介をしながら挨拶をする。
女剣士さんはボクを品定めするように、見下ろしながらボクを見る。
「ふむ、かわいらしい従者さんだね。ああ、私は彼女の傭兵団時代の仲間でね。よろしく頼む」
ボクたちは握手する。かわいらしいとか言われた件はちょっと引っかかるが、ここは我慢だ。
「もう、仲間なんて堅苦しいわね。あたしたち姉妹みたいなものでしょ?」
「ふっ、そうだな。しかし、久々に妹に会えるとは思わなかったぞ」
二人はは本当にうれしそうにしている。
「仲がよろしいのですね」
ボクはその様子に思わずそんな事を言ってしまう。古い仲間なんだから親しいのは普通なのに、嫉妬してしまったからだ。
「なに? 嫉妬してるの?」
「べ、別に嫉妬なんて……」
女勇者さんはボクの肩を抱いてくる。ボクはうつ向いてしまう。
「ふーん、仲がいいんだね……そうだ! せっかくの再開だ。記念にどこかで食事でもどうかな? 話したいこともたくさんあるしね」
「じゃあ、あたしたちの家に来ない? そこの方がゆっくり話せるし」
「ん? いいのかい? 君たちの家にお邪魔するのは気が引けるんだが?」
「あ、あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
ボクは女勇者さんを店の隅まで連れてくると小声で話し始める。
「魔王のボクと勇者であるあなたのことがばれたらどうするんですか?」
「でも、姉さんならバレても……」
「本当にそう思ってます?」
「それは……」
女勇者さんの顔はどんどん暗くなる。魔王と勇者が一緒にいるなんてことになったら間違いなく大問題になる。一緒にいることはかなり難しく……いや、一緒にいることはできなくなる。
「うん、そうよね……わかったわ」
しばらく黙って考え込んでいた女勇者さんは、暗い顔のまま女剣士さんのところに歩いていく。
「あ、ごめん。姉さん。あの、ちょっとうちは都合が悪くて……」
「なんだ。内緒の話をしているから、なにかとかと思ったらそんなことか。そんなに悲しそうな顔はしなくてもいい。家族だろ?」
「でも……」
女剣士さんは女勇者さんをなぐさめている。女勇者さんは本当に残念そうだ。
「あ、あの! 夕食ぐらいでしたらご用意できるかと思いますが……」
ボクは思わず言ってしまう。うん、わかってる。自分でダメだとか言ってるのに、こんなことを言うのはかなり危険だし、間違っているのはわかってる。
でも、あんなに悲しそうにされたら断るわけにもいかないよね。
「ありがとう!」
「うわ!」
女勇者さんが抱きしめてくる。身長の関係で彼女の胸のあたりにボクの顔が来てしまう。かなり恥ずかしい。
「いいのかい? お邪魔するようで気が引けるのだが」
女剣士さんが聞いてくる。ボクは彼女から離れながら言う。
「はい、是非、いらしてください」
「そうか、では、お言葉に甘えさせてもらおうかな?」
「じゃあ、姉さん。早速行きましょう!」
女勇者さんはボクから離れ女剣士さんの手を取る。
「せっかくだから姉さんの好きな食材とかいろいろ買っていかないと」
「あれ? 君は料理とかおぼえたのかい?」
「あ、彼が作るから大丈夫よ」
「まったく、そう言うところは変わらないな」
二人は楽しそう話をしながら出て行ってしまった。
「ふぅ、まあ、なんとかなるよね」
そう言いながらボクは二人のあとをついて行った。
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