エピローグ

「よし! 次だ……」


 次の日の朝、自分の家のテーブルで、朝からボクはすごい勢いで書類に署名していく。


「ふぁ~……おはよう。今日も書類整理なの?」


 女勇者さんがあくびをしながら聞いてくる。やっぱり下着姿だが、今はそんなことに構っている暇はない。


「書類関係へ記入するのに特殊文字へと統一するようにって言う指示書ですね。簡易的な指示書だと誰も聞かないから、魔王名義で名指しで各将軍や指揮官に送りつけけやるんです」


 うん、さすがにボクから直接言われればみんな改善してくれるはずだ。


「ふーん……大変ねぇ」


 彼女はあくびをしながらキッチンに入っていく。しばらくするとコーヒーのいい臭いが漂ってくる。そして、彼女はコーヒーを飲みながら出てくる。


「あ、あんたもコーヒー飲む?」

「いりません」

「えー……人の好意を無視する気なの?」

「今はそんな事やって場合じゃないんです」


 ボクはどんどん書類を作っていく。女勇者さんのことだから、何かいたずらでもしようと考えてるのかもしれないけど、遊んでる暇はない。一刻も早く規格を統一しないと。


「なによ。つまんないわねぇ」

「邪魔ですよ」


 後ろから女勇者さんは抱きついてくる。でも、ボクは書類を書くことをやめない。


「手が離せないので後にしてください」

「ふーん……手が離せないの?」


 彼女の声はいたずらっぽく笑っている感じだ。嫌な予感がする。


「じゃあ、手を使わないで飲むならいいんだ?」


 やっぱり、何かよくないことを考えているらしい。でも、正直、今はそんなことに構ってる暇はない。


「なんですか? 口移しでもしてくれるんですか?」


 書類を書きながらボクは言う。さすがにこれくらい言えば諦めるよね。


「え? く、口移し!? え? え!?」


 うん、予想通りに女勇者さんは困っている。さて、今のうちにさっさと仕上げないと。


「く、口移しとか本当にしてほしいの?」

「あー、そうですね。して貰えたらすごくうれしいですね」


 ボクは書類を書きながら何も考えずに言ってしまう。

 彼女は少し黙り込んでいたけど、急に声を出す。


「よし、わかったわ。口移しで飲ませてあげる!」

「はいぃ?」


 思わず変な声を出してしまう。彼女の方を向くともの凄い真剣な顔でボクをみている。


「は、はは、じょ、冗談ですよね」


 ひきつった笑いをしながらボクは彼女に声をかける。しかし、彼女はボクのメガネをちょっと乱暴に外してくる。

 そして、コーヒーを口に含むと顔を近づけてくる。


「ん~!」

「あ、いや、その……」


 彼女の顔が目の前にある。やっぱり美人だよね……

 って、そう言う場合じゃ、いや、そう言う場合……なのか……


「こ、コーヒーを飲むだけですよね」


 うん、そうだ。これはキスとかそう言うんじゃなくて、手が離せないボクのためにしてくれる……そう、優しさだ! その優しさを断るなんて男としてやってはいけないことだと思う。


「じゃあ、いただきます」


 ボクは自分を納得させながら顔を近づける。口が乾き、胸がドキドキする。


 くちびるが、顔がどんどん近づく……顔が熱い……あと十センチ……


「おはよう! 我が愛しの妹よ!」


 突然、ドアの開く音が聞こえ、女剣士さんの響き渡る。


「ぶーっ!」

「うわっ!」


 女勇者さんはコーヒーをふき出しボクの顔にコーヒーがかかる。

 そのひょうしにボクは椅子から転げ落ちてしまう。


「ね、姉さん! なんで!?」

「ふっ、愛しい妹の様子を見に来たのだが……ああ、すまない。君たちの邪魔をしてしまったようだ。出直してこよう」


 女剣士さんはそう言うとさっさとドアを閉めさっさと出て行ってしまった。

 残されたボクたちは黙り込んでしまう。


「あのー……どうすれば……」

「あー、もう! しらないわよ!」


 彼女はそう言うと二階に上がっていってしまう。

 そして、後にはコーヒーをかけられたままのボクだけが残されてしまった。

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