気まずいボクと彼女

「ただいま」

「おかえりなさい」


 日も完全に沈んだ頃、ボクが家に入るとスケルトン少女さんが掃除をしてくれていた。


「ありがとうございます」

「いえいえ、私のためにお二人ともよくしてくれていますので、せめてこれくらいはしないと」


 あれから数日、ボクは彼女の家を探すために色々と歩き回っている。

 いや、正直に言うと、ほぼ正解は見つかっている。見つかってはいるんだけど……


「ただいま」


 女勇者さんも帰ってくる。しかし、ボクを一瞬だけ見るとそのまま二階に上がっていってしまう。

 うーん、困った……あの日からまともに会話すらできていない。


「あの、大丈夫でしょうか?」


 スケルトン少女さんが心配そうにボクに話しかけてくる。


「まあ、時間が解決してくれると思いますから」


 椅子に座るとボクは大きく伸びをする。そして、テーブルの上に鉢植えがあるのに気付く。

 つぼみは膨らみ、一週間もすれば花が咲くかもしれない。


「もうすぐ咲きそうですね」

「はい、どんな風に咲いてくれるか楽しみです」


 彼女は愛おしそうにその鉢植えを眺める。


「そうですね」


 その光景から目をそらしながらボクは言う。正直、この事実は話した方がいいのか、それとも……

 そんな事を考えていると女勇者さんが二階から降りてくる。


「ねぇ。今度は洋服見に行きましょ。やっぱりローブだけだと寂しいわよね」

「え、あの、そこまでしていただくわけには」

「なに言ってるのよ。私はあなたのお姉さんなのよ?」

「あの、ありがとうございます。うれしいです」


 女勇者さんはボクを無視し、二人は楽しそうに話をしている。その姿はやっぱり仲のいい姉妹そのものだ。

 その姿にボクはまた悩む……スケルトン少女さんにとっての幸せって何だろう……


「もう、お礼なんか言わなくてもいいのよ……そうだ! このまま、あなたの彼氏が見つからなかったら一緒に暮らさない?」

「え?」

「ほら、どうしても見つからない可能性もあるじゃない? その時のことも考えておいた方がいいと思うの」

「えっと……その……」


 突然の女勇者さんからの提案に、スケルトン少女さんは口ごもってしまう。


「あなたはどうしたいんですか?」


 ボクは思わずスケルトン少女さんに声をかけてしまう。


「え?」

「もしも、見つからなかったらここに暮らそうと思いますか?」


 うん、決断しないわけにはいかないよね。彼女もボクたちも……


「ちょっと、いきなり……」

「ごめんなさい。大事な話なんです」


 手のひらを突き出しながら、女勇者さんの言葉をボクは強めにさえぎる。


「私は……」


 スケルトン少女さんはうつ向き悩んでいるようだ。


「あの、こいつの言うことは気にしなくていいからね」


 優しく女勇者さんは声をかける。


「いえ、私は彼を見つけたいんです。確かに記憶はあいまいですが、彼だけは、彼だけは忘れちゃいけないって、心の奥底から声が沸き上がってくるんです」


 その声は決意に満ちていた。ボクも覚悟を決める。


「そうですか。わかりました。では、行きましょう」


 ボクは立ち上がる。


「え? どこへですか?」

「迷っていましたが、ボクも覚悟を決めます。あなたの彼氏のところに行きましょう」


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