エピローグ
「えっと、これ、植木鉢。あと、急だったからあんまりいいのがなかったんだけど、これも持って行って」
「ありがとうございます。最後までこんなに良くしていただいて」
「いいのよ。お姉さんなんだから当然でしょ」
女勇者さんはスケルトン少女さんに色々と荷物を渡している。
ここは馬車の停留所だ。普段は普通の馬車の停留所だが、深夜になると一定の間隔で死者の国行きの馬車がやってくる。そして、今日がちょうどその日だ。
「いい? なにかあったら、すぐに連絡するのよ? わかった?」
「はい、姉さん。ありがとうございます」
まわりを見るとどこから来たのかわからないが、様々な不死族の魔族たちも集まってきている。
「えーと、後は……」
そうしているうちに闇の中から、骸骨の馬に引かれ、骸骨の運転手が乗る一台の馬車がやってくる。
「死者の国行きの馬車だよ。早く乗っておくれ」
骸骨の運転手さんが低い声で言う。他の乗客たちはどんどん馬車に乗り込んでいく。
「ありがとうございました。お二人のことは決して忘れません。じゃあ、先に乗っているから」
幽霊さんは丁寧にお辞儀をする。そして、スケルトン少女さんに声をかけると先に馬車に乗り込む。
「姉さん……向こうに着いたら手紙を書きますね」
「うん、気を付けて」
最後に二人は抱き合うと、スケルトン少女さんは馬車に乗り込む。
「出発するよ」
運転手さんはそう言うと、ゆっくりと馬車を動かし始める。
「お二人ともありがとうございました! 必ず手紙! 書きますね!」
「うん! 待ってるわよ! 元気でね!」
「お元気で! ボクも待ってますから!」
スケルトン少女さんはいつまでも手を振っていたが、やがて馬車は闇の中に吸い込まれるように消え、あたりは静寂で包まれる。
「行っちゃったわね……」
「ですね……寂しいですか?」
「まあ、寂しくないと言ったら嘘になるけど、妹の幸せは願ってあげるのがお姉さんの役割でしょ」
そう言うと彼女は大きく伸びをする。
「さて、彼女たちの幸せを願って飲みに行くわよ」
「いや、今日はちょっと帰ったらやりたいことがあるんで」
「やりたいこと?」
「ええ、不死族に対して何かできないか、対策とかの提案書とか作ろうと思うんですよ」
うん、色々考えたけど、できることは一つでもやった方がいいよね
「ふーん、なによ。きちんと魔王様をやってるじゃない」
彼女はボクを抱きしめて頭をなでてくる。
「ちょ、やめてください。子供じゃないんですから」
「なによ。ほめてるんだからじっとしてなさいよ」
そして、急に真剣な声で聞いてくる。
「ねぇ、もしもよ。もしもあんたは私が死んだらどうする?」
「ボクが……ですか?」
ボクは少し考える。そう言えば、彼女と別れるとか一切考えたこともなかった。
「それよりも、あなたはどうなんです?」
「あたし? あたしは、当然、新しい恋人を見つけてあんたに死ぬまで後悔させてあげるわよ」
「死んでるのに死ぬまで後悔なんてできないですよ」
ボクは彼女の顔を見ながら小さく笑う。彼女は少し恥ずかしそうにしている。
「う、うるさいわね。じゃあ、あんたはどうなのよ?」
「そうですね……」
ボクは少し悩む。答えは決まっている。決まっているけどいうのは少し恥ずかしい。
「ほら、早く言いなさいよ」
うん、ちょっと恥ずかしいけど、まあ、こういうときでもないと言えないことだし、たまにはいいよね。
「死んでもあなたを失うようなことはさせせせん」
大事なところで噛んでしまった。ボクはうつ向く。
うん、すごく恥ずかしい。顔が今までにないくらい熱くなる。彼女の顔が見れない。
「まったく、いいところで何やってるのよ」
ボクの失敗に彼女は大笑いする。
「言い慣れてないんだから仕方ないじゃないですか」
「じゃあ、毎日のように練習する?」
「それはやめておきます」
そう言うとはボクは彼女から離れる。彼女の顔を見ると、にやにやと笑っている。
「はい、この話は終わり、終わりです。帰りますよ」
ボクは居心地が悪くなり、家に向かって歩き出す
「ちょっと待ちなさいよ!」
ボクの肩を彼女は抱いてくる。
「よし! 一杯だけ飲みに行くわよ」
「いや、だからやることが」
「うるさいわね。気分がいいんだから一杯くらい付き合いなさいよ」
彼女はそう言いながら歩き出す。
まあ、彼女が楽しそうなら別にいいけどね。
「一杯だけですよ?」
「わかってるわよ」
そう言いながらボクたちは夜の道を街に向かって歩く。
あたりは静まり返り、虫の声だけが聞こえていた。
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