第21話 Bar「紅の人鳥」
副武装が決まり、やたら500万ギルの刀を振り回すリンネを叱りつけ、刃物の扱い方を教えていると、ファミルさんも武器庫から戻ってきた。
「リンネ!大切に扱わないなら、紅葉さん帰しちゃうよ!」
「や~だ!紅葉さん大切にするから!」
「刃物は訓練と戦闘の時以外は出しちゃダメ!わかった?」
「うん・・・わかった。ごめんなさい」
よほどこの刀を気に入ったのか、リンネは素直に自分の部屋の装備保管庫にしまいに行く。
リンネには近いうちに新たな副武装の訓練に刀剣スキルの習得もさせておかねばならない。
しかし珍しい刀を担いで演習センターに行くのはやはり目立ちすぎるので、面倒だがまたプルムの家の訓練施設を使わせてもらうしかない。
「あらあら~、カイル君たら本当のパパみたいね~」
「いやぁ、子供を躾るって大変だなあと思います・・・。母さんの苦労を今になって実感してますよ」
「そうね、男の子はもっと大変だって言うものね~」
コーヒーポットから注いだブラックを飲みながら、そんな事をしみじみと話すファミルさんの結婚や出産はどうなんだろう、とふと気になった。
いつも一緒に居るドリスさんとは、夫婦や恋人って感じには見えないけど、付き合い方はそれぞれだからな。
それにまだ直接聞ける程、親しい感じでもない。
そのうち機会があれば、研究所時代から付き合いのあるクラリス教官かココットにでも聞いてみよう。
俺の担任だっただけにクラリス教官は研究が恋人だったし、そもそもココットは結婚も出産も不可能だ。
『実験の失敗を研究所に隠蔽された』と言ってたけど、戸籍上のココット扱いはどうなってるんだろう?
そう考えると、あいつが凄く不憫になってきた。
「しゃちょー!開店準備出来たわよ~!」
と、タイミングよく下のバーの開店準備をしていたココットが事務所に戻ってきた。
「ちょっと、あんた何よその顔?」
捨てられた子犬を見るような視線に気が付いたココットが訝しげに問いかけてくる。
こいつには優しく接してやろうと思う。
「ほんと、偉いなココットは。こんなにされてまで、頑張って働いて・・・」
同じ目線までしゃがみ、頭を撫でてやろうと伸ばした俺の手を掴んだココットは容赦のない十字固めを決めてくる。
「ぬぎゃぁぁぁぁ!!いてぇぇぇ!」
痛さと同時に、顔の上のココットのすべすべぷにぷにの生足と腕の裏に感じる幼少の下腹部の暖かさが絶妙なハーモニーとなって、嫌なんだか嫌じゃないのか解らなくなってくる。
ファミルさんみたいな女の人だと恥ずかしさと緊張で一杯なのに、幼少だと身近な女体の安心感と程よいドキドキを感じてしまう自分がいる。
あれ、俺ってちょっとヤバげ??
「ちょっと、あんた何顔赤らめてんのよ!!変態ロリコンマゾ野郎!!」
立ち上がったココットは腕を固めたままでゲシゲシ蹴りを入れてくる。
いや、これを喜ぶほどに堕ちてねぇ!!
「ココットちゃん~。いつまでもカイル君で遊んでないで、そろそろ時間だからお店開けましょ!」
「ほんっと!あんたはやっぱ真正のロリコンよね!!リンネちゃんが可哀想!」
「カイル君~、お姉さんはそういう趣味も理解してるからね!スッキリさせたら降りてらっしゃい~」
好きなことを言うだけ言って、二人は一階に降りていった。
スッキリってどういう事だ!
不当に借金を負わされた上にこんな扱い・・・。五月病になる新人社員の気持ち、分かるな・・・。
俺は服装を整えると、戻ってきたリンネを伴って一階のバーに向かう。
言っとくが、決してスッキリはさせてないぞ。
一階に降りて『ピンクペンギン社』が経営しているバーに入ると、そこは厨房になっていた。
店の正面入口は通りに面しているので、こっちは裏側から入ったことになる。
店で出す簡単な料理の仕込みが終った厨房には様々な料理の匂いが漂っている。
田舎にいた頃のお昼時の住宅街を思い出す。
リンネも食べ物の匂いにくんくん鼻を鳴らしている。
よーく分析すると、カレーとケチャップの香りが一番濃い感じだ。
「カイル君、リンネちゃん~、こっちよ!」
ファミルさんの声に導かれて細長い厨房を抜けると、長いカウンターと壁際に二人掛けの小さなテーブルが並ぶこじんまりとしたバーの店内に出る。
満席でも10数人しか入らない程度の店はレトロなデザインの喫茶店のような内装だ。
「ここが二人の第2の職場、バー『紅の人鳥』よ」
バーと言いつつもメニューを見ると、ハヤシライスやナポリタンなども出してるみたいなのでカフェバーといった感じだろう。
「廊下の向かいに更衣室があるから、二人も着替えてきてね」
言われてみんなの服装を見てみると、ファミルさんはいつもと同じ胸元が開いた妖艶なドレス姿だけど、ドリスさんは黒いスーツのジャケットを脱いで蝶ネクタイを付け、まさにバーテンといった装い。
「ここは毎日夜6時から開店するから、カイル君はその前の仕込みからドリスと入ってちょうだい。開店したらホールと厨房をお願い~。リンネちゃんはココットちゃんに教えてもらってね~」
「じゃあリンネちゃん、一緒に着替えよっか!こっちおいで!・・・カイル、覗くんじゃないわよ!」
幼女と女児の着替えを覗くと思われている事がかなしいぜ。
着替えは後にして、厨房でドリスさんに料理の作り方や材料の場所など教わる。
作り方と言っても、仕込んでいたパスタソースやハヤシライスのルーをかけて冷蔵庫のサラダを付けるだけだから難しいことはない。意外なのはメニューにケーキのレパートリーが多いのは驚きだった。
次にホールに移動して、ファミルさんから配膳やオーダーの取り方、接客方法を教わる。
「うちはこの辺りのお店で働く女の子のお客さんが多いから、きっとカイル君モテモテよ~。それとお客さんの話はよく聞いてあげてね。お店で依頼を受けることもあるから、お客さんとの付き合いは大切よ!」
「依頼って冒険社関係の依頼ってことですか?」
「ええ、ゾルタンさんもうちのお客さんなのよ。他にもいろんな人が美味しい依頼を持ってきてくれるから~」
つまりここの客層は水商売のお姉さんやそういうお店の経営者や客。そしてゾルタンみたいな表沙汰に出来ない人が依頼センターに持っていけない依頼を持ってくるらしい。
どうりで報酬が高いはずだ。
そこに着替えを終えた二人が戻ってきた。
ココットもいつもの魔法少女みたいなヒラヒラワンピでなく、落ち着いた感じのメイド服姿だ。
その姿はまるで幼稚園のお遊戯発表会に出る園児みたいだ。演目は『不思議の国のアリス』のアリス役かな。
リンネも色違いのメイド服だったが、金髪をツインテールにした色白美少女のメイド服姿は破壊力抜群だ。
短めのスカートとニーソックスの間の絶対領域もバッチリ完備。
神々しい程のオーラ纏ったリンネと、可愛いというより微笑ましいといった具合に、服に着られている感のあるココットとの差が甚だしい。
「・・・なに?その顔?言いたい事あるなら言ってみなさいよ」
「いいたい事言ったら、いたい事になるからいいや・・・」
痛いのも嫌だが、これ以上幼女ばかりと接してると、女体に免疫のない自分に変な性癖が開花しそうで恐い。
「リンネちゃん、可愛いっ!写真撮って広告作りましょう!新しいお客さん、絶対増えるわよ~」
「ちょっとファミル、私の時は広告作るなんて言わなかったじゃないのよ!」
「え~、ココットちゃんは見た目アレだから、児童福祉法とか健全育成条例とかでお巡りさん来ちゃうもの~。私、警察嫌いなのよね~」
ファミルさんの懸念はすごくよくわかる。『18歳以下の疑い』どころか、見た目は完全に歳が一桁だもんな。
「警察嫌いって、いつも来てるアンディさんはどうなのよ!あの人、一応あれでも刑事でしょ?!」
「あの人はいいの~。不良だし、警察のいろんな情報教えてくれるからね~。歓楽区の一斉取り締まりの日取りとか、みんなに教えてあげないと大変な事になっちゃうでしょ?」
「相変わらず、この店に来る客って、ろくな人間居ないわよね・・・」
腰に手をあて、ココットがうんざりしたように盛大なため息をつく。
「ココットちゃん目当てに来てくれるお客さんもた~くさん居るんだから、そんな事言っちゃだめよ~」
「あの連中が一番ウザイのよ!てゆーか、『どきどき生写真』に『らぶりーウィンク』『ココットのあ~ん』ってのをメニューから消してって言ってるでしょ?!」
うわー、やっぱそういう需要あるよね・・・。
「それは無理~。そのメニューのおかげでうちのお店がやっていけてるんだもん!」
ああ、確かに経費0で利益率100%だもんな。こんなボロいメニューは無いよな・・・。
「って、待ってください!じゃあリンネにもこれをやらせるんですか?!」
保護者として黙ってられませんよ!特に『リンネのあ~ん』なんて俺だってしてもらってないのに!
「大丈夫よ~、うちはそういうお店じゃないから、お触りは無しだし、リンネちゃんには注文一回に付き1000ギルの特別手当付けちゃう!」
「一回で1000ギルですか!う~む・・・」
「ちょっと!!私は500ギルしかくれないのになんでよ!!」
「ココットちゃんはマニア層がかなり狭いから、仕方ないじゃない~。指名が倍になったら考えてあげる!」
「くぅ~!くやしい~、見てなさい、若い子になんか絶対に負けないんだから!」
ココットはきょとんとしてるリンネを睨み付け、新しい娘に客を取られたキャバ嬢みたいに言ってるけど、完全にファミルさんに乗せられてるよな。
やがて午後6時になり、バー『紅の人鳥』の看板が灯った―――
理想の美幼女召喚獣育成日記 @matunomorisubaru
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