第3話 初めてのお買い物

ぺちぺちと顔を叩かれて目を覚ます。

早くから目を覚まして部屋をガサゴソ漁ったり、テレビを点けてみたり、昨日与えた雑誌を読んだりとひとしき遊んだリンネがついに飽きて俺を起こしに掛かってるらしい。


せっかく学校を卒業して、双霊召喚獣が成長して仕事に使えるようになるまでのこの自由な期間くらいは朝寝がしたい。

だから寝たふりを押し通す。


「なぁ~、なぁ~。起っき、起っき!」


と顔や身体をぺちぺちしてきたが、無視。

すると今度は俺の布団を剥ぐ攻撃に変更する。リンネは布団の角を引っ張って苦労しながらも剥ぐ事に成功。

それでも寝たふりを貫くと、今度は俺の上に馬乗りになってゆさゆさする。


「起っきぃ~~!起っきぃ~~!」


俺の胸に手をついてさらに大きくゆさゆさする。さすがにうるさいから目を開くと、リンネに着せていたジャージのチャックが半分ほど開いていて、わずかな膨らみがゆさゆさと揺れている。

朝からちっぱいのチラリズムは強烈だ!

で、生々しい感触にふと視線を落とすと、俺の腰の上に乗ってるリンネは下半身がすっぽんぽん。

どうやら一人でトイレに行って脱いだはいいが、履き方を教えていなかったのだ。


「ねぇ~、起っき!起っき!」


上半身はちっぱいが覗く素肌ジャージに下半身裸の金髪美女児が俺の上でゆさゆさ。

別のところが起っきしそうになりました。


「重いよっ!どけぇ~」


とリンネをどかせて急いでズボンを履かせる。

健康な男子の朝はいろいろと事情があるんだから、血圧の上がることはしないでほしいぜ・・・。


さて、仕方ないので起きることにして時計を見るとまだ午前八時だ。

休みだっちゅーのに早くから起こしやがって・・・。休みの日に『どっか連れてけ』と起こされるお父さん達の気持ちがよくわかる。

まだ童貞だけど・・・。


今日はいろいろと買い物しようと思ってたからいいんだけど、まだ出かけるには早すぎる。

とりあえず近くのスーパーで朝飯を買うために家を出ようとする俺にリンネが飛びついてきた。


「やぁ~~~!やぁ~~~!」


と、半ベソをかきながら必死でしがみつく。どうやら召喚された直後みたいに一人ぼっちにされると思ったらしい。

「すぐに帰ってくるからな」と言っても離れてくれず、仕方なく縛術チェーンを繋ぎ、犬の散歩みたいな状態でスーパーに向かうことにした。


・・・案の定、登校や出勤途中の学生、サラリーマンがとても不審そうに俺たちを見てくる。

スーパーに着いたら着いたで、朝市に詰めかけてたおばちゃんや主婦が眉をひそめてヒソヒソしてるし。


(あら、最近のカップルって朝からあんなプレイしてるなんて!破廉恥だわ)


(ちょっとあんな若い子を首輪で繋いで!それに学校も行かせてないみたいだしあれって虐待かしら?)


(よく見て奥さん!父親にしてはどう見ても若すぎるわよ!あれは絶対誘拐して、ほら、調教とかしてるのよ!)


(あの男、ナヨッとした優男風だけど、意外とああいう男ほど凶悪な性犯罪を犯すのよ!)


(通報しましょ!)


(そうしましょ!)


通報された。


朝の空気を切り裂くけたたましいサイレンを鳴らしてやってきたパトカーから降りてきたのは、中年と若い警察官。


「また君か・・・。二日前にも通報されたよね、二回も」


「はい・・・、ご迷惑をおかけしてます」


「召喚師さんなのは確認取れてるし、その子が特殊な召喚獣なのは君の大学に照会済だけどさ、目立つような事されると困るんだよね。通報があった以上、うちらも出動せざる得ないんだよ」


朝から人騒がせな・・・、と言わんばかりの迷惑そうな表情で若い警察官がため息をつく。


「ですが、攻撃行動の危険性が無くなるまで首輪とチェーンを付ける義務がありまして・・・。今日はただ朝ごはんを買いに来ただけなんです」


「そりゃあ我々も召喚獣取扱法の事は知ってるよ。だけど君の召喚獣は紛らわしいんだからさ、家から出さないようにするとか、車で移動するとか、あるじゃない?いろいろと・・・」


「まあまあ、それくらいでいいじゃない。召喚獣の社会性を育むには外に出して慣らすことも必要だしね・・・。お嬢ちゃんも術者さんに迷惑かけないように、沢山勉強して早く一人前になるんだよ」


中年の警察官のとりなしで、若手の警察官のお小言がようやく収まった。

そしてその中年の警察官は優しそうに微笑みながらリンネの頭を撫でる。


「んっ!べん、きょーする!」


と、嬉しそうに答えるリンネの姿に中年警察官はさらに相好を崩す。


「おお、2日でもう言葉を喋れるようになったのかい!偉いねえ。ほんとに、子供の成長は早いもんだよ。うちの娘もこれ位の頃があったな・・・」


自分の娘の子供のころを思い出したのか、中年警察官はしみじみとつぶやく。

別に俺の子供では無いし、人間ですらないけどね。


「・・・巡査部長!署からの応援要請です、行きましょう!・・・君、もうこれで勘弁してくれよ!」


そう言い残して若い警察官と中年警察官は帰っていった。

朝飯買いにきただけなのにどっと疲れた。


ようやくスーパーに入ると、リンネに買い物カゴを押させて、必要な日用品を次々と放り込んでゆく。

シャンプーハットにトイレットペーパー、すぐに食べこぼしするからウェットティッシュ、寝床用の毛布も必要だし、結構な出費だ。知育教材として塗り絵やクレヨン、絵本や積み木も買っておいた。

リンネが成長したらちゃんと身体で返してもらおう。もちろん勤労的な意味でだぞ!


とりあえず思いつく日用品を選び、今度はお惣菜コーナー。

これがまた大変だった。揚げ物や魚などの食べ物の匂いに誘われて、飛びつきそうになるリンネを抑えながらどうにか買い物を終えた。

次からはリンネを大人しくさせておく用の飴玉でも買っておこう。


帰り道、買い物の袋から漏れる臭いに我慢できず、食べ物をねだるリンネをあしらいながら家に着き、ようやく二人で朝ごはん。

子供握りでフォークを使って食べるリンネを眺めながら、今日はまだ洋服や下着を買いに行かなければならないことにため息をつく。

近所のスーパーで大変なのに列車に乗ってエルフェリア中心街まで行けるのか?

だけど一人置いて行けないし、連れて行かないとサイズも分からない。


俺は観念すると、幼馴染のプルムに電話することにした。

男の俺一人で女児を首輪で繋いで繁華街を歩く訳にもいかないし、女物の下着や洋服売り場に行くのはさすがに辛い。

だから、こんなお願いをできる唯一の女友達であるプルムに付き添いを頼むことにしていたのだ。

断られたら、ライリーに頼んで男二人で行くしかない・・・。


さて、プルムに電話するなんてすごく久しぶりだから、番号が変わってなきゃいいけど。

お腹一杯になってまったりしながら、買ってやったばかりの絵本を声にだして読んでいるリンネを眺めながら俺は携帯電話のダイヤルボタンを押した。


こうしてさらに波乱に満ちた午後が始まるのだった。


これまでの召喚獣の成長値


腕力 2 器用 5 俊敏 4 魅力 10 魔力 1 知力 12 社会性 16


これまでに通報された回数 3回

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る