第6話 料理と言葉のお勉強
今朝もまたリンネの『さっさと起きろ』攻撃で目を覚ます。
「リンネ、おはよう」
「お、は、よー??」
朝の挨拶にも首をかしげるリンネ。
多少言葉を理解して話せるようにはなってるけど、言葉を1から習ってないので基礎的なところが欠けている。
ここでしっかりと言葉を教えておいた方がいいだろう。
通常、召喚獣は術師の唱える呪文、『精鈴言語』で簡単な命令を伝えて闘わせる。
しかしこれは精霊種や幻影種、植物系など実体のない種類や元々音声による言語を持たない召喚獣に限る。
身体など実体のある召喚獣には音声言語を理解させ、通常の言葉を用いた方がより戦略性が高まるのだ。
知能の高い高位獣は複雑な命令も理解できるので、人間の言語を教える事は特に重要だ、と昨日プルムが教えてくれた。
よし、朝ごはんが終わったら勉強会だな。
今朝は簡単に食パンに目玉焼き、ヨーグルト、サラダ。
料理も覚えさせるためにやらせてみる。
まず食パンを焼く。
そのまま食べようとするのを止めて、トースターに入れる。
リンネの指でスイッチオン。
2枚目を与えて様子を見ていると、俺の視線で理解したらしく拙いながらもトースターに入れてスイッチ。
いい子、いい子と頭を撫でてやり、次は難関の目玉焼き。
ガスの炎に慣れるのと、火は危ないということを教える。
ボッとついた炎に最初は怯えていたが、すぐに興味を示して手を伸ばす。
熱さに驚いて手を引っ込めると、リンネは「これなあに?」とばかりに不安そうに俺を見上げる。
「これは火。熱い、あぶないよ!」
「ひ―!あつい!あぶない!」
「ほら、ここを押すとつく。消える」
リンネの手を取り、ガスレンジのスイッチを押させる。
「つく!消える!つく!消える!きゃははは!」
火がついたり消えたりするのが楽しいらしい。
「ほら、遊んじゃダメ!あぶない!」
「ダメぇ??」
言えば聞き分けがいいのは助かる。子供なら持って生まれた性格があるが、真っ白なだけに素直なんだろう。
逆に言えば、俺色に染められるって事だ。
生卵を割ってフライパンに落とすお手本を見せてやると、リンネもそれを真似て器用に卵を割る。
人間の子供と違って身体機能が成長しているので、やり方さえ覚えれば何でも出来そうだな。
フライパンの中には俺が割った卵と、少し黄身が崩れて涙目になったリンネの目玉焼きが焼けるのを二人でのんびり眺める。
「ほら、焼けてきたぞ。こっちがリンネの、こっちが俺の」
「やけた~、りんね出来た~。おれの出来た~」
嬉しそうにはしゃぐリンネの言葉に、今更ながら俺の名前を教えてなかった事に気付いた。
「俺の名前は、カーイール。そうだよ、リンネと、カイル。あなた、わたし」
自分とリンネを交合に指差しながら、自己と他者の違いを教えてやる。
「わたし、リンネ……。あなた、カイル……」
リンネは何度か反芻してたが、すぐに理解したらしい。
「わたしは、リンネ。あなたは……、カイル!」
「うん、頭いいな、リンネは」
頭を撫でてやると、リンネは気持ち良さそうにうっとりとした表情を見せる。
撫でるのを止めると俺と自分の名前を繰り返すので、また撫でてやる。止めるとまた繰り返し……。
どうやら俺に誉めてもらうのが嬉しいらしい。
ああ!なんて可愛いいんだ!自分の子供が一番可愛いという親バカの気持ちがよーく解る!
……童貞だけどな。
って、こんな事やってる間に目玉焼きがちょっと焦げてる!
「うわ!焦げてる!焦げてる!」
「こげてる~、こげてる~」
慌てて火を消して目玉焼きを皿に移す。
俺も料理は得意じゃないから、こんなもんだろう。
サラダはスーパーで買っておいたレタスとプチトマト。
「リンネ、葉っぱビリビリして、キレイ、キレイ」
「びりびり~~きれー、きれー、ぽい!」
ぽいしちゃダメだろ!
シンクに落ちたあまりにでかすぎるレタスの葉を洗って、サラダボウルに入れる事を教える。
同様にニミトマトを乗せると、水を切ってない、かなり水の貯まったサラダの完成。
最後はヨーグルトを容器から移して、そこにイチゴジャムを載せる。
「よおぐると!よおぐると!」
子供握りのスプーンですくおうとして容器の蓋に引っ掛かり、ペチャッと勢いよく跳ね上がったヨーグルトがリンネの顔に……。
白くドロッとしたのがリンネの顔に飛び散る。
「ああっ……んー」
と、口元にトロリと垂れたヨーグルトをぺろり……。
幼い仕草と見た目のギャップが逆にエロい!
絵に描いたようなラッキースケベ……。
いかん、いかんよ、この光景は。
こうして料理初心者同士が作った朝食が完成。
二人で部屋のテーブルに運んで、『いただきます』をする。
一人で食べる時は『いただきます』なんてしないのに、小さい子?が居ると何でやっちゃうんだろう?
「リンネが作った目玉焼き、美味いか?」
「りんね……、わたしがつくった!うまいっ!」
「そーか!早く料理を覚えて俺にご飯を作ってくれよ」
「あなた……、えと、かいるにもつくる!」
あー!素直で可愛いなぁ、リンネは……。
「ほんと、お利口で可愛いな~、リンネは!」
リンネのいとおしさに堪らなくなって頭をナデナデしてやると、ふにゃ~っと幸せそうに表情をとろけさせて俺に飛び付いてくる。
身体が大きいだけにタックルみたいな勢いだけど、受け止めてやふと、
「えへへ!りんね、かいる、すき~」
と甘えてきて、見た目の良さも相まって更に可愛さ爆発!
『娘は絶対、嫁になんかやらん!』という頑固親父の気持ちがよく解る!
……童貞だけど!
「リンネが大好きだぞ~」
「かいる、すきぃ~」
・・・って、こんな付き合いたてのバカップルみたいなことしてたら日が暮れちまう!
今日は文字と言葉をみっちり教えないといけないんだよ。
朝食を済ませるとさっそく絵で物の名前を覚えさせる子供向けの学習絵本を広げる。
最初の絵はリンゴから。
「リンネ、これはリンゴ」
「りんご?」
「これは、イチゴ」
「いーちーご!」
「チョコ、レート」
「ちょこれーと!」
「少し難しいぞ。パイナップル」
「ぱい、なぷ、る?」
「そう。この両手広げてるおじさんは、グリコ」
「ぐりこっ!」
じゃあどれくらい物覚えがいいか、この辺でおさらいしてみるか。
「リンネ、これはなあに?」
「ぱいなつぷる!」
「これは?」
「ちよこれいと!」
「じゃあこれ!」
「ぐりこ!」
すげぇ!一度で全部覚えてる!これでリンネと階段で遊ぶことができるだろう。
こうして全て一度で物の名前を憶えてしまったリンネは、あっと言う間に3冊の学習絵本をクリアした。
次は少しレベルを上げて、挨拶や簡単な文章を教える。
これまでに絵本やテレビなどで聞きかじって使っているが、やはり一から教えないとダメだろう。
「リンネ、最初はご挨拶からだ」
「うん!ごあいさつ、する!」
「さようなら」
「さよーおなら」
「こらリンネ、おならじゃないぞ!」
「きゃはははは!」
お約束だな。
「バイバイ!」
「ばいばいっ!」
「ありがとう」
「あーりーがとう?」
「よし、じゃあおさらいだ。全部言ってごらん」
「ばいばい!、ありがとう!、さーようなら!」
うん、これで就職してもカラオケで活躍すること間違いないだろう!
次々と挨拶や表現、形容詞を教えていくも、リンネは教える端から全部覚えて身に付けてゆく。召喚初期の双霊召喚獣の成長は驚異的だとは聞いたが、まさかここまでとは思わなかった。
続いてはこれまで覚えた名詞や形容詞を用いての文章の学習に移る。
「じゃあリンネ、この会話文を読んでごらん」
「うん!えーと・・・、あの、女の人は、誰ですか?」
「よし、じゃあ次は男の人の答え」
「えと・・・、それは、仕事の、相手です」
「じゃあ、女の人は何て言ってる?」
「もし、わたしの、他にも、いい人が居るのなら、帰ってください」
・・・何だよこの会話文!男女の機微を理解するには早すぎるだろ!
本の中身はともかく、文法や文章表現の仕方を教えてやると、これもまたすぐに身に付けて使ってくる。
既に教材は小学校レベル。
このまま行けば一か月後くらいには、我が国最高学府のエルフェリア王立大学に合格出来るんじゃないか、とさえ思えてくる。
もっといろいろと勉強の教材を買ってやらねば!この才能を伸ばす為には、ちゃんとした先生から学んだ方がいいんじゃないか?
少し切り詰めて、俺がバイトすればリンネを塾に通わせる事もできそうだ。いや、勉強だけでなく芸術や音楽の習い事も・・・。
ああ!子供の教育にお金を惜しまない教育ママの気持ちが今、分かった!!
そうさ!・・・童貞だけどな!
こうしてリンネの猛勉強は続き、窓の外の空が赤く染まる頃には簡単な計算や標準語以外の俗語までもマスターしていた。
「わたし、いっぱい覚えた!何でも話せる!」
と、自分が思ったことを表現して伝えられる喜びにリンネは大はしゃぎしていた。
今までは伝えたくても俺に気持ちを伝えられずに、もどかしくて泣いたり怒ったりしていたが、一気にそれが出来るようになるのはとても嬉しい事なんだろう。
「わたしね、とてもしあわせだよ!カイルが、しょーかんしてくれたから!ありがとう!」
満面の笑みを浮かべたリンネが俺に抱き着いてきて、ありがとうを繰り返して嬉し泣きしてる。
「ばか、そんなに泣いて、鼻水付けるんじゃねえぞ・・・。リンネ、俺のところに来てくれて、ありがとな・・・」
いろいろと大変なこともあったけど、俺の双霊召喚獣がリンネでほんとに良かったとしみじみ思う。
・・・ああ、なんか俺までもらい泣きしちまいそうだ・・・。
『俺の娘に生まれてくれて、ありがとう』と思う父親の気持ちが今、分かった・・・。
童貞・・・だけどな。
これまでの召喚獣の成長値
腕力 8 器用 18 俊敏 15 魅力 22 魔力 5 知力 32 社会性 29
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