第7話 初めての戦闘訓練 1

リンネを召喚して一週間。

俺の必死の教育によってリンネもすっかり人間社会の生活に慣れ、日常会話なら問題なく出来るようになった。

精神年齢、知識、言語レベルは人間で言うと小学校低学年程度だろうか。


「リンネ、今日の晩ご飯は何が食べたい?」


「ん~とね、ハンバーグと!プリン!」


買い物かごの取っ手を片方づつ持ち、リンネと近所のスーパーで買い物しながら夕食のメニューを話すのはここ最近の日課だった。


「またハンバーグかよ。昨日もハンバーグだったろ?」


「だってね、リンネ、ハンバーグ好きだもん!」


「だーめ、ご飯はバランス良く食べないとだぞ!リンネは育ち盛りなんだから!」


うちの母さんに電話で散々言われた事をそのまんまリンネに言ってるよ、俺。

なにかと野菜や食事バランスをうるさく言う母親の気持ちが良く解る!

……童貞だけどね。


「えー!野菜、キライ~~。じゃあ、プリン買って、プリン~」


「はいはい、プリン買ってあげるから、ちゃんと野菜も食べるんだぞ!」


「うん!ちゃんと食べる~」


リンネは嬉しそうにトテトテとお気に入りのホイップクリームが乗ったプリンを取ってきてカゴに入れる。


買い物から戻ると、早速今日の夕食、青椒肉絲をリンネと一緒に作る。

宣言通り、ピーマン、玉ねぎ、ニンジンと野菜たっぷり。


「たまねぎ、染みる~」


ポロポロ涙を流しながらリンネが切った玉ねぎなどの野菜と豚肉を炒め、出来合いのソースを絡めて出来上がり。

それとリンネが一人で作れるようになった味噌汁やご飯をよそって夕食の完成だ。

一汁一菜、質素ながらもちゃんとした食事だ。

リンネの栄養管理に気をつけるせいで、いつの間にか俺の食生活も改善していた。


夕食を終えると二人で仲良くお風呂。

ようやくリンネの裸にも慣れ、一緒に風呂に入れるようになったのは俺にとっても大きな進歩だ。

……だけどここ最近、ちゃんとした食事をしているせいか、リンネの胸がまた大きくなった気がする……。

湯船に浸かりながら、身体をごしごしと洗っているリンネの身体をしみじみ眺める。

まだあどけなさを残した顔つき、長いまつ毛、艶やかに光る濡れた金髪。

真っ白な身体は手足が長いモデル体系、そして胸には既に手から溢れんばかりの膨らみが……。


ピシャッ!!

「冷たっっ!」


惚けて胸を見とれていた俺の顔に冷たい水が浴びせられ、我に返る。

天罰の如く、狙いすましたようにリンネが水鉄砲で冷水を撃ってきたのだ。


「きゃはははっ!!」


「やったな!こいつ、食らえ!」


と、俺も湯船から水鉄砲で反撃して、二人で撃ち合いをして遊ぶ。だが、まだリンネは水が顔にかかるのが苦手だから、顔を狙えばイチコロだ。


そんな訳で、シャンプーハットを使わないと髪の毛を洗えないから一緒に入っているけど、髪が自分で洗えるようになったら一人で入ってもらおう。

……でないと、俺の身体の一部分がもたない気がする。


風呂から上がり、リンネに牛乳を飲ませながら長い金髪をドライヤーで乾かしてやる。

身体の成長を促進させる為にずっと牛乳を飲ませていたけど、もしかして胸ばかり成長してるんじゃないかな……。


それに背も伸びたし、筋力もかなり付いたはずだ。

そろそろ戦闘訓練を始める頃合いかもしれん。


……大学時代にバイトで貯めた貯金も残り少なくなってきたから、早く戦えるようになって稼いで貰わないと困るってのも大きな理由だけどな。


「じゃあ、そろそろ戦闘訓練をやってみるか!リンネ!」


「戦闘、訓練?わたし、戦うの?」


「そりゃあリンネは俺の召喚獣だからな。戦うのが仕事だろ?」


「そう、だよね……!カイルは、わたしが強くなったら、嬉しい?」


「そりゃあそうだよ!俺達召喚術師にとって召喚獣の強さこそがステータスだからな。リンネは特別なんだよ……。きっとどんな召喚獣より強くなるって俺は信じてるよ!」


そう言って頭を撫でてやると、リンネは嬉しそうに微笑んで頷く。


「うん!リンネ、一番強くなる!カイルの為に、絶対、強くなる……」


リンネはぐっと拳を握ると妙にめらめらと闘志を燃やしていた。

やはり元々がエルフ族だけあって、優秀な戦闘民族の本能が疼くのかもな。


――翌日。

俺達はエルフェリア郊外の軍事エリア、召喚獣専用の訓練施設『エルフェリア召喚術演習センター』に来ていた。

ここは王立騎士団を始めとした登録召喚術師が自分の召喚獣を訓練したり、お互いに模擬戦闘を行う施設だ。


俺とリンネがエントランスに入ると、先に来ていたプルムが俺達を見つけて駆けてくる。


「リンネちゃん~。うわ!また成長したわね!」


「おはよう、プルム。また付き合わせて悪いな!」


「ま、まあ、調度私もクリスタの調整と模擬戦をしようと思ってたから!別に、いいのよ!」


「くりすた?もしかしてお前のクリスタルゴーレムの事か?」


「な、何よ!良いじゃない、戦闘中にいちいちクリスタルゴーレム!なんて、長ったらしいでしょ?」


「ええ?!じゃあもうお前の召喚獣は基本戦闘行動をマスターしたのか?!」


「うん、まあ基本命令の履行だけだけどね。随意応用行動はまだ無理みたい」


クリスタルゴーレム程の基本能力が高い高位召喚獣なら基本命令だけでも王都周辺の害獣駆除程度なら十分にこなせるだろう。


召喚獣は術師が命令を下し、スキルや魔法を使って戦うのが基本的な戦闘方法だ。

基本戦闘行動とは、ターゲッティング、攻撃指示、スキル使用、魔法使用、防御、術師防御などの単純な命令の履行を指す。

これに加えて、随意応用行動とは召喚獣自信が状況に応じてより適切な行動を自ら選んで履行する事だ。

つまり、術師は召喚獣への命令に専念することなく、回避やスキル使用、アイテム使用などが可能となり、飛躍的に戦略の幅が広がるのだ。


「そっかー、みんなもう基本戦闘行動くらいはマスターさせてるんだな……。リンネはまだ武器すら握った事ないけどな」


そんな俺の言葉にリンネは悲しそうにしゅんとうつむく。

ああ、まずった!


「だけどその分、うちのリンネは言語や論理的思考、社会生活に料理スキルはどんな召喚獣にも負けねぇぜ!」


「確かに高度な随意応用行動には言語理解や論理的思考は重要よね!それにキャンプや遺跡探索に料理スキルは必須だし!いいな、リンネちゃん!」


それを聴いてリンネはパッと顔を輝かせる。

ナイスフォローだ、プルム!


「何にしても、どのステータスを成長させるかは召喚獣の特性や潜在能力、術師の好みだからね!最終的には術師が満足いくように育成させればいいんじゃない?!」


「ま、相棒になる自分の召喚獣だから、術師が満足してれば幸せなのかもな!」


そんな俺とプルムの会話を聞いていたリンネは複雑そうな表情で俺をじっと見つめていた。


「じゃあ私はクリスタと模擬戦闘の基礎講習を受けることになってるから、またあとでね!」


すでに俺達より進んだカリキュラムを受けているプルムと別れ、リンネと共にトレーニングルームに向かう。

ここは召喚獣用の様々なトレーニング器具があり、各戦闘ステータスの底上げや様々な武器の初期訓練ができる。

召喚されたばかりの召喚獣を連れてきて、能力や特性を確認する所でもある。


リンネにはまだ主武装が決まっていないので、いろいろな武器を使わせて、適正を見ることにする。

武器の訓練エリアにはエルフェリア軍が採用する様々な武器が並んでいた。

近接用の長剣、短剣、双剣、斧、槍、槌。

遠距離用には短弓、長弓、クロスボウ。

同じ種類でも召喚獣のタイプに合わせて大きさや威力も様々だ。


もちろんエルフ族用の武器などないので、ゴブリン族やドワーフ族向けの武器を試してみる。


初心者のリンネはトレーナーから基本的な動きを教わりながら、まずは長剣から。


「えいっ!やっ!はっ!」


ひゅん、と鋭い音と同時に、斬りつけられた標的の藁人形にリンネの長剣が刺さり、切り落とすことなく止まる。


「うーん、ちょっと手首の返しが甘いね。少し伸ばすような気持ちで、もう一回!」


今度の一振りは伸ばしきってしまって勢いが削がれてしまった。


「どうもぎこちないね……。短剣を試してみましょう」


トレーナーの教示の後、短剣で試し切り。

短剣はリーチが短いだけに移動しながらの攻撃が基本なのだが、間合いが上手く測れずに藁人形に突っ込み転倒。

二回目は遠すぎて空振り。


「ふう……、じゃあ次を試してみるぞ!」


と、続けるも近接用の武器はどれも全滅。

どうもリンネは相手との間合いの見極めや近接攻撃に共通する打撃感覚が欠けているようだ。

高すぎる身体能力に身体の制御がついて行ってない気がする。


「仕方ないな……。まぁ、遠距離武器なら大丈夫だろう」


まずは一番お手軽な短弓から。

ブチッ!!

引き絞りすぎて弓の弦が切れた。

何度やっても力加減が上手くいかず、矢を落としたり、弦が切れたり失敗続き……。


力が強いなら威力の上がる長弓ではどうだ。

バキッ!!

今度は弓自体がへし折れた。鉄板を重ね合わせた弓を折るなんて相当だ。


「ちょっと力み過ぎですよ!両手の力を抜いて!」


トレーナーの指示に従い、リンネは弓を構えると狙いすまして矢を放つ!

ビュン!――タンッ!


俺の顔をかすり、大きく標的から反れた矢が脇の壁に突き刺さる。


「どわぁっ!殺す気か!」


どうやら力を抜くと、まともに狙いが定まらないらしい。


リンネはいよいよ最後のクロスボウを手に取ると、自信無さそうにじっと眺める。

これがダメなら自分には適正のある武器が無いかもしれない。

きっとそんな風に思ってんだろうな、この表情は。


「大丈夫、料理で包丁を使うみたいにレバーを軽く、まっすぐ引いて、水鉄砲と同じように狙って撃てばいいんだよ。簡単だろ?」


俺のその言葉にイメージが沸いたのか、リンネが少し笑ってコクンと頷く。


クロスボウは連射が命なのでレバーを引いて撃つまでが一連の動作なのだ。

リンネはレバーに手をかけ、下に降ろした状態で構える。


「よし、始め!」


トレーナーの掛け声でリンネは素早くレバーを引きながら、同時に狙いを付け、引き金をひく。


シュ!タン!


そのまま腕を水平にしたまま狙いつつ連続でレバーを引き、素早くマガジンソケットの5本の矢を撃ちきる。


シュタン!タンッ!タンッ!タンッ!


全ての矢は藁人形の顔に一つの大穴を開けて、向の壁に突き刺さっていた。


「おおっ!スゴいじゃないか!リンネ!やったな!」


信じられないように呆然と標的を見ていたリンネが俺に飛び付いて来る。


「やったー!出来たよ!リンネ、出来たぁ!」


「リンネはこれからクロスボウ使いだな!」


こうして、どうにかリンネの主武装が決定した。

どの武器も全く才能が無かったら、ほぼ詰みだ。

残りは魔法しかないが、元々魔法が溢れてるこの世界では攻撃魔法はあまり需要が無い。

あとは回復やバフ、状態異常魔法だが、ほぼパーティ専用となり使い勝手が悪すぎるのだ。

あやうく俺とリンネの将来が暗くなるところだったぜ。


主武装に決まったクロスボウを携え、俺達は習熟訓練を行う野外訓練場に向かうのだった―――。


これまでの召喚獣の成長値


腕力 14 器用 29 俊敏 24 魅力 26 魔力 7 知力 35 社会性 31

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