第5話 お洋服を買う 2
リンネと共にエルフェリア駅前の有名な待ち合い場所、忠勇のケルベロス像に行くと、多くの若者が待ち合わせしていた。
ったく!こいつらみんなデートの待ち合わせかよ……。
見た目10歳の女児を連れた俺がものすごく場違いな気がする。
プルムの姿を探してキョロキョロしてると、突然の大声。
「うっさいわね!あんた達なんかお呼びじゃないのよ!」
声の出どころを見ると、二人の若い男に囲まれた美少女……。
って、あれプルムじゃないか?!
綺麗な赤い髪をアップでまとめ、レザージャケットに短いジーンズスカートがスタイルの良いプルムによく似合っている。
タイトなスカートとブーツがすらりと長い脚の脚線美をより引き立て、脚を組んでベンチに座るプルムはまるでファッションモデルみたいだ。
ここ数年は大学の制服姿しか見たことなかったけど、私服姿になるとこんなに可愛いかったのか!
一喝されて撃退されたナンパ野郎が消えると、またすぐに次の挑戦者が声をかけている。
周囲には何組かの男達がチラチラと様子を伺ってるから、ナンパの順番待ちだろう。
なんか、すげーな……。
「間に合ってるって言ってるでしょ!消えろ!」
そして一刀両断。
さっさと行ってやらないときりがないな。
俺はリンネを連れてプルムの元に向かう。
「プルム悪い!待たせたか」
「あ、カイル!……全然待ってないよ、今来たとこ……、って!この子、あの召喚獣だよね!?」
「ああ、ようやく日常生活にも慣れて、多少コミュニケーションが取れるようになったよ~。召喚獣を育てるって大変だよな」
「でもこの子、最初よりちょっと背が伸びてない?雰囲気も大人ぽくなったし……。てか、何よこの服!まさかこれそのまま洗濯機で洗ったの?!」
ずっと一緒だったから気がつかなかったけど、三日でそんなに成長してたのか。
「ああ、クラリス教官が着せてくれた服だけど、すぐ食べこぼしするからさ……。洗っちゃまずかったのか?」
「女の子の洋服はネットに入れて手洗いモードにするか、クリーニングに出すものよ!全く、これだから男は……。この髪もあんたがやったんでしょ?後ろがバラバラじゃないのよ……」
ぶつぶつ言いながらもプルムはリンネの髪を綺麗に整えて結び直してくれる。
なんか仲の良い姉妹みたいだ。
「……うん、これでよし!洋服はちゃんとしたの買ってあげなさいよ!」
「そうそう、今日来たのはそのためなんだよ!俺じゃあ女の服を見立てるなんて出来ないからさ。やっぱお前じゃなきゃダメだな~、付き合って貰ってありがとな!」
「……え?も一回言って……」
あれ、なんかプルムの雰囲気が変わった気がする……。
「その、服の見立ては俺には出来ないからお前じゃなきゃダメだな、と……。だから買い物に付き合って欲しいな~って。あれ?」
プルムは顔を真っ赤にしてワナワナと震えだす。
「!痛いっ!なんで殴るんだよいきなり!」
訳が解らない俺をプルムがポカポカと殴りかかってくる。
それを見たリンネも面白がって一緒になってポカポカ。
「お前ら痛いっ!ヤメテぇ~~~!」
身体も痛いけど、周囲からの視線も痛い!
浮気してたところに彼女に出くわして修羅場だって思われてるよ……。
「ほんとにムカつく!全く、人の純情を何だと思ってのよ……」
ひとしきり殴って、ようやくプルムが怒りを収めてくれたらしい。
「……って、リンネ!いつまで殴ってんだお前は!」
元々、力が強い召喚獣だけにちょっと殴るだけでもすげー痛い!
「じゃ、引き受けたからにはリンネちゃんに似合う服を見繕ってあげるから!」
と、気を取り直してプルムの案内で行きつけのブティックに向かう。
人通りの多い街を歩いても、今日はプルムが居るおかげで周囲の注目を浴びてない!
若い夫婦と娘か、仲の良い3人兄妹とかに見えてるのだろうが、何事もなく外を歩けるだけでもありがたい。
やがて俺達はエルフェリア王都中心街の商業区に入る。着いたのはその中でも特に高級ブランドが並ぶ一角。
「……おい、まさかここで買い物するとかじゃないよな?!」
「え、なんで?この辺が私の行きつけだけど?」
さすがはお嬢様!感覚ちがいすぎだろ!
「まずはここで見よっか!」
プルムはリンネの手を引いて一軒目のお高そうなブティックにためらいもなく入ってゆく。
……ここってあの『ヘルメス』エルフェリア本店!
プルムは近場の棚にある薄手のセーターをプルムに合わせながらショッピングを楽しんでるけどさ……。
こんな薄いセーターが45000ギル!1ヶ月分の家賃だよ!
「リンネちゃんは色白だから、茶色のスカートが合いそうね!」
ペラペラのスカートが80000ギル!1ヶ月分の食費だよ!
てか何の防御能力もない服がどうしてこんなに高いんだよ。
これなら魔法防御のある魔道ローブか、状態異常に強いレザー系防具を買った方がずっとお得だ。
「プルムさん、お願いだから別の店にして……」
「そうね~、ここのデザインは大人っぽいからリンネちゃんには少し早いかな……」
そういうことじゃ無いんだけどね……。
で、つぎの店は『ダマンサ・田端』。ここも有名ブランド店。
さっきよりもカラフルで可愛い系のデザインだ。
「あ!これ可愛い、リンネちゃんにすごく似合う~。あー、このフリル付きのも良いわね……。ねぇ、カイルはどっちがいいと思う?」
えーと、最初のが39500ギル、フリル付きのが42000ギル。
「どっちも却下だな」
「もー、人が見立ててあげてるのに何が不満なのよ!」
「値段だよ!」
庶民の金銭感覚を説明して、ようやく現実的なお値段のお店へ。
そこでプルムとリンネは選んだ服を持って一緒に試着室に入っる。
やがてカーテンが開いてお披露目タイム!
1着目はフリルとレースがあしらわれた、いかにも女の子ぽいピンクの洋服。
金髪ツインテ、色白のリンネはまるで絵本に出てくるお姫様のような現実離れした可愛さだ!
お次はレザージャケットとハーフパンツ、ニーソックス、髪をポニーテールに変えてワイルドな装い。
西部劇に出てくる美人ガンマンみたい。
そして最後は、赤いリボンの着いたシャツにブラウンのブレザー、チェックの短いスカート、紺のロングソックス。
どこかのお嬢様学校の制服にそっくりだ。
おお!個人的にはこれが一番かもしれない……。これは買おう、絶対買おう!
そんなこんなでお会計。
ブランドショップより良心的な価格だが、それでも1着4000から5000ギル。
それを着替え用に上下3着づつに、帽子や靴下など合わせて約50000ギルの出費……。
あとでリンネには絶対に身体で払ってもらおう!
繰り返すが、もちろん勤労的な意味でだぞ。
続いては、プルムに来てもらった一番の理由である下着の購入だ。
小さな店舗が入ったビルの一角、下着専門店に行くと、周囲の匂いからして甘い!店が全体的にピンクだし!
商品棚や壁にはところ狭しとブラジャーやパンティが並んでいて、居るだけで恥ずかしい。
だがカップル来てる客が多いのは意外だった。
……ねぇ、どの下着つけて欲しい?
……じゃあ、これがいいな!
……やん!こんな大胆なの、恥ずかしい~~
とか……、死ねばいいのに!
一方、そんな殺意を込めた視線をカップルに向けてる俺を放置してプルムとリンネは仲良く下着を選んでいる。
「ほら、これも可愛いでしょ?どっちがいい?」
「これ~~、ひらひら!」
などと、あれこれ言いながらもどうやらリンネはプルムになついているらしい。やはり女の子同士、気が合うのだろう。
楽しそうなリンネの笑顔を眺めながら、リンネはプルムに召喚されてた方が幸せだったのかも、とふと思ってしまう。
そんな俺の視線に気づいたのか、リンネが俺に向けて気に入ったパンティを掲げて見せ付けてくる。
「おい!恥ずかしいから止めなさい!」
……リンネが俺の事も忘れてないのが、ちょっと嬉しい。
だけど下着もまたいい値段だ。
二人が選んだパンティが平均2500ギル、ブラジャーが平均3500ギル。
なんでちょっとしか布が無いのにこんな高いの?
最高級回復ポーションと変わらないじゃん!
これも着替え用にと、多めに5着づつ。しめて30000ギル也。
「ちょっとお会計してくるから、ここで待ってて」
と、プルムがレジに言ってる間、リンネを連れてぷらぷらと見て回る。
「うお!こんなパンティあんのかよ!……ほとんど紐じゃないか!」
形がお菓子のプレッツェルそっくりだ……。
これをリンネが履いてるのを想像してみる。
……見た目10歳の金髪美女児にこんな下着はヤバイ!いろんな意味でヤバイ!
「うあ~~、ひらひらパンチュ!」
紐パンを手に取って見とれてると、リンネが別の棚に駆け出す。
「あ、こら!勝手に行くんじゃない!」
とっさに縛術チェーンを引く。
だいぶ人間社会に慣れたといっても、召喚獣が自分の強い力を制御出来ないうちは迷子にでもなったら大変だ。
『召喚獣、付いてて良かった縛術チェーン』
まさに魔学技術庁の標語の通りだな。
……なんて思ってるうちに周囲の女の子達の視線が集まり、始まったヒソヒソ話。
(きゃぁ!あの男、あんな小さな女の子に首輪はめて鎖まで!まさかロリコン誘拐犯?!)
(それにあんなエッチな下着握って!無理矢理あの子に履かせる気よ!!)
通報された。
駆け付けた警察官はプルムの取りなしのおかげで、どうにか納得して帰っていった。
「……ほんとに助かったよ。ありがとうプルム」
「何やってんのよあんたは!まさか本当にあの下着を買ってリンネちゃんに履かせようと思ってたんじゃないでしょうね?!」
「だから誤解だって言ってるだろ……」
買い物を済ませた俺達はプルムのお小言を聞きながら駅に向かう。
「今日は本当にありがとな!いろいろと助かったよ」
「あんたの召喚獣は特別だから仕方ないわよ。てか、ほとんど人間と変わらない極超高位獣なんて育てられるの?」
「うん、学習速度も早いし、妹が出来たつもりで育ててみるよ。潜在能力は高いはずだから、しっかり育てればかなり強くなるはずだしね。そうすりゃあ王立騎士団入りも夢じゃない!」
「妹ねぇ~。あんた、リンネちゃんが可愛いからって変な事するじゃないわよ!」
「しねーよ!リンネは召喚獣だぞ。……それよりお前の召喚獣育成はどうなんだ?確かクリスタルゴーレムだよな?」
「ああ、もうシールドやアイアンスキンとかの基本強化魔法は覚えさせたし、ソウルクリスタルでかなり大きく育ったわよ。見る?」
指を回してプルムが微かに呪文を唱えると、背後に巨大なクリスタルゴーレムが出現した。
半物質召喚獣だから姿を隠せるのは便利だよな。
「うお!デカっ!もう魔法も使えるか、いいなぁ」
それにひきかえ、リンネはクリスタルゴーレムに驚いて俺の影に隠れながら威嚇している。
うーん、まだまだだなぁ。
代々召喚師家系直伝の効率的な育成方法を聞きながら歩くうちに駅に着く。
「じゃあね、カイル。……その、またなんかあれば言ってよね。別にあんたの為じゃなくて、あんたじゃリンネちゃんの将来が不安だからさ!」
そうしてプルムと別れ、列車に乗ってようやく家に帰宅する頃にはすっかり暗くなっていた。
疲れた……、ほんとに疲れた。
「たたたー!たっぁ~!」
と、部屋に走り込んで寝床の毛布にダイブするリンネはまだまだ元気だ。
これからリンネを風呂に入れて、晩飯食べさせないと、か……。
また服を脱がすのに精神的に削られるのかぁ。こいつには剣術や魔法よりも一人で生活する方法を教えよう……。
まだまだ俺の苦労と苦悩は続きそうだった。
これまでの召喚獣の成長値
腕力 5 器用 11 俊敏 9 魅力 18 魔力 4 知力 19 社会性 25
これまでに通報された回数 4 回
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