理想の美幼女召喚獣育成日記

@matunomorisubaru

第1話 美幼女、召喚

広い大講堂の中央、大理石の張りの床に描かれた複雑な儀式用次元召喚魔方陣の前で、学年主任教員のクラリス教官の講義のような挨拶が延々続く。


「・・・このように、召喚術とは高次の霊幻魔法であり、死者の魂であるゴーストやバンシー、ファントム、精霊に代表される超自然生命体などの物質的な定着触媒を必要としない召喚生物だけでなく、例えば低位召喚獣のラット種やフロッグ種、スネーク種、中位召喚獣ではホーク種、ウルフ種、フォックス種、そして高位召喚獣のゴブリン族、リザード族、ラビ族などといった有体召喚まで多岐に渡ります。これは召喚対象が私たちの三次元に存する有体生命体だけでなく、身体を失い他次元に滞留する超自然生命体も含まれているからです。召喚体を特定の生命体に指定して召喚するには、あなたたち術者自身がこれから召喚経験を数多くこなし、感覚的に対象の精神のパスワードとも言うべき『精紋』を選別出来るようにならなければいけません」


クラリス教官はそこで言葉を切り、居並ぶ卒業生を感慨深げに眺める。

彼女はここエルフェリア高等魔術大学校召喚師コースの担当教員として入学時から俺達に召喚術を教えてくれた恩師でもある。


「ああ、ごめんなさい。いつもの癖で挨拶が講義みたいになってしまって・・・。あなたたちは無事に高等召喚術師試験に合格した立派な召喚術師でしたね。では改めて、合格おめでとう!召喚術師としての道を誤ることなく、このエルフェリアの為に活躍することを祈っています!」


そう言ってクラリス教官は涙をこらえるように唇を噛んで教師達の列に戻る。

思えば一年の最初の召喚実習ではテントウムシを召喚する練習で大量のゴキブリを召喚して教官をすげー怒らせたな・・・。

それに二年の体育祭のクラス対抗召喚獣戦の時は、ビーストラットを召喚するところを何故かビーストベアが出てきて王立騎士隊が出動する騒ぎになったし、迷惑をかけた思い出ばかりだった。

「カイル君、あなた召喚師は向いてないわ」と何度言われたか分からない。

自慢ではないがこの俺、カイル・ハートレイには召喚術の才能が無い。

高校を卒業して召喚術師に憧れ、親に頼み込み、この高等魔術専門学校召喚術師コースに入学したのだ。

しかし、4年経った今も低位召喚獣の練習用精紋を覚えて、いくらイメージしても変な召喚獣ばかり出る。なのに召喚術師国家試験に合格できたのは、ほんとに運だったと思う。


やがて卒業式はいよいよ最後の双霊召喚の儀式を残すのみとなった。

それはこれから職業召喚術師として活動する上で、メインパートナーとなる召喚獣を得るための儀式で、術師本来の潜在的な能力や性格、魂の精紋などが適合した召喚獣が現れるらしい。

要は初めて自分の潜在能力だけで召喚した召喚獣が運命のパートナーですよ、ってことだ。


召喚術師にとって最初の召喚で得られるこの双霊召喚獣はその後の就職先に大きく影響する。

高位獣を双霊召喚獣として使役している術師は能力が高いと判断され、王立騎士団の召喚師隊に抜擢されるが、低位クラスだと町の何でも屋さんで荷物配達の仕事くらいしかない。

召喚術によって召喚された召喚獣は戦闘を始め、情報収集や労働力と広く利用される現代において、どれだけ高位の召喚獣を使役出来るかが重要なのだ。


過去にも、偉大な召喚術師となった人は最初からドラゴン族や巨人族などの超高位召喚獣が現れたらしいけど、俺どうしよう、またゴキブリだったらめちゃ恥ずかしいし、凹むわぁ・・・。


そんな俺の不安を他所にクラスメイト達が次々と召喚を終え、パートナーとなる召喚獣を召喚していく。


「うお!俺のはホワイトウルフかっ!!カッコイイ!!何て名前付けてやろうかな?」


「いいなぁ~、俺なんかジャイアントビーだぜ。羽音がうるせえ・・・」


「私はサンダーキャット!もふもふ可愛い!!」


みんな何だかんだ言いながらも国家試験に合格しただけあって、ほぼ低位A級~中位クラスの召喚獣を得ていた。


「ほらカイル!見て、この美しいクリスタルゴーレム!やっぱり高貴な魂の私にはそれに見合う高位獣が召喚されるのね。あんたはせいぜいダークラットがいいところね!」


と、小学校からの腐れ縁である高飛車女子、プルム・シルヴァンティエが高位A級のクリスタルゴーレムを見せ付けてくる。

全身が宝石で出来たガッシリとした人型の巨人・ゴーレムはいかにもレア召喚獣といった風格があった。

見た目の通り防御力が高く術者の盾となってくれる召喚獣だ。


まあ、こいつは代々召喚術師家系のサラブレッドだけあって、成績はクラスで一番。今回の試験で歴代最高得点を出したらしいから、レアが出るのも当然だ。

ラット種どころか、自分でもゴキブリかもしれないと思ってただけあって何も言い返せない。


「さすがプルムだよね~。僕はキングクロウって、大きいだけのカラスだったよ。可愛い女の子のホビット種とかが良かったのに。まあ、カイル君もあんまり気に病まないでね」


と、同じく幼馴染のライリー・ハミルトンが召喚する前から慰めてくれる。なんか余計に落ち込んできた。

キングクロウは見た目は確かに大きいカラスだが、飛行獣だけに機動力が高く、偵察・遊撃、弱体魔法とテクニカルな攻撃を得意としており、そんなにハズレでもない。


そしていよいよクラスで卒業成績が最下位の俺の番。

一番お金になる騎士団召喚師隊入りは出来なくとも、せめて何かしらの仕事にありつける召喚獣が出てほしい。

儀式用次元召喚魔方陣の前に立ち、召喚呪文を唱え始めた俺にクラス中の視線が集中する。


「ゴキブリっ!来い!」


「いや、ラットだろ!」


「フラッグに今月のバイト代全部突っ込んでるんだ!」


「大穴、中位C級!頑張れカイル」


・・・どうやら賭けになってるらしいけど、やたら下位召喚獣ばかり項目が細かい。中位C級なんて大穴扱いだし。


「・・・ディエン オム フェリムスティ ラウル エル アヴァルヴ オゼベット エン エアモ!!」


唱え終えると同時に魔方陣全体が光に包まれ、その中心に光の粒が集まり始める。

やがて光の粒はが光の球となり、それが膨らむように形を成してゆく。

光のシルエットが徐々に色を帯びてゆくと召喚獣の姿が鮮明に浮かび上がった。


それは膝を抱えた猿?・・・頭の毛が黄金で、他は肌色で毛がない・・・。って人!?


やがて光が消えて、完全にそれが実体化する。それは膝を抱えた素っ裸の女の子!?


いや、普通の人間より肌は透き通るように白くて、よく見ると耳がやや長い。なんだこりゃ?

色が白く、耳が長いことを覗けば見た目は10歳くらいの金髪の女の子だが、こんな召喚獣は習ったことない。


確かに天使種、悪魔種、猿人種などは人に近い外見はしているが、それでも羽が生えていて半透明だったり、猿顔全身毛むくじゃらだったりと、ここまで人間ぽい外見はしてない。

誰もが唖然としてその召喚獣を眺める。


どうしよう、と思ってクラリス教官に視線を送ると、呆然と見ていた教官が慌てて教本を取り出してめくりだした。

どうやら他の教官や理事長にも分からないらしく、居並ぶ大人達が顔を寄せ合ってヒソヒソと話しだした。


すると、ぱちりと目を開いた召喚獣がじっと俺を凝視している。

艶のある金髪の綺麗ロングヘア―にぱっちり大きな蒼い瞳と通った鼻筋、形のいい小さな唇という整った顔立ちでかなり可愛い。

子役として劇団からスカウトされてもおかしくない程に、ある種のオーラがある。

女の子みたいな召喚獣はしばらく俺を見つめていたが、パッと表情をほころばせて俺に飛びついてきた。


「うにゃーーー、わうぅ、わうぅ!!」


と、舌足らずな口調で喜んでいるらしい。

とっさに抱き留めたが、微かに膨らむ胸とスベスベの背中の感触を妙に意識してしまった!

全クラスメイトと全教師の面前で、召喚獣といえども素っ裸の女児を抱きしめて顔を真っ赤にした俺って、どうなのよ・・・。


「・・・ああっ!ちょっとカイル!何興奮してんのよ!?あんた変態なんじゃないの!」


「きゃっ!女児を抱きしめて興奮するなんて・・・。カイル君ってロリコン!?性犯罪者!?」


「賭けをどうしてくれるんだカイル!俺の金返せこの野郎!」


「みんな落ち着いて!クラリス教官、とりあえず何か羽織るものを!」


「カイル君!女児を召喚するなんてズルいや!!僕だって何度試してもできなかったのに!!その子の精紋教えてよ!いや、お金払うから~」


と、若干1名真性ロリコンのライリーは不適切なことを叫んでる以外は、講堂の中は大騒ぎ。


その後、大人が数人で掛かってもその召喚獣は俺に抱き着いて離れず、俺の卒業式はクラスメイトにいろんな意味で罵倒されながら、教師たちに連れられて緊急退場するはめになった。

すぐさま俺は理事長室に連行され、弱体魔法科の教官のスリープ魔法で眠らされた召喚獣も俺から引き離されて召喚術研究室に連れて行かれた。

王立の魔学技術庁の研究所に召喚獣に関するデータを照会するとのこと。


「ふう、カイル君、最後に何かあるんじゃないかと嫌な予感はしてたけど、その予感が的中しちゃったわね・・・」


と、向かいに座ったクラリス教官がため息をつく。


「はぁ。なんというか、すみません。最後まで・・・」


勝手に召喚される訳だから、どうしようも無いし、誰も責める事も出来ないけど、とりあえず悪い気がする。


「私もあんな召喚獣は初めて見るから、召喚術研究者としてはかなり興味深いけど。召喚獣として扱うには、まぁ、外見がね、倫理的に問題じゃないかと思うのよ。双霊召喚獣ってのは、ゼロから育てていくものなのよ。通常召喚は使役する為に必要な命令を実行できる能力を持った召喚獣が召喚されるけど、双霊召喚獣は赤ちゃんと同じ。だから最初は暴れたり逃げたりしないように縛術首輪をつけて面倒をみないといけない。つまり常に術者と共に行動して、術者と共に育っていくの。でもね、素っ裸のあの子に首輪を付けてあなたが街を歩くのを考えるとね・・・」


・・・30秒で通報されるだろうな。

召喚師免許を持ってる以上、どんな召喚獣でも使役できる権限はあるはずだけど、いろいろと苦労しそうだ。

かと言って、双霊召喚獣はこれからの召喚師人生で様々なサポートをさせるメイン召喚獣だから居ないとやっていけない。ツインソウルとも言うべき双霊召喚獣の召喚はやり直すことが出来ないし・・・。

どうしたもんか、と頭を悩ます俺とクラリス教官の元に理事長が戻ってくる。


「クラリス教官、魔学技術庁の調べで、あの召喚獣の正体が判明しました!どうやらあの召喚獣は2000年ほど前に滅んだと言われる『エルフ族』と呼ばれる妖精種らしいのです」


「・・・その種族の事は大学の研究室で文献を読んだことがあります!伝説ではエルフ族は武術と魔法に優れた戦士の一族だったと!古い文献にしか残ってない種族が召喚されて蘇ったなんて、奇跡ですわね!」


研究者でもあるクラリス教官が目を輝かせ、かなり興奮している。


「じゃああの子は研究所行きですか?俺の双霊召喚獣はどうなるんでしょう?」


そんな貴重な召喚獣なら国家規模で研究対象となるだろう。双霊召喚獣も居ない召喚師なんか、まず食べていけない。


「いえ、双霊召喚獣は魂の結びつきを媒介して術者に召喚されているの。離すことは出来ないから連れて行って構わないわ。もちろん召喚獣使役証が発行されるけど、あの子は測定不能の極超高位召喚獣なの!まさに歴史の遺産でもあるんだから変なこと教えたり、させたりせずにちゃんと服を着せて、しっかり育てるのよ!!」


・・・何だよ、変なこと教えたり、させたりって!俺を何だと思ってるんだか。


「あと、公式データの無い召喚獣だから測定と健康の管理のために定期的に私の研究室に連れてくること、いいわね!・・・変なことしてたらすぐに分かるんだからね!!」


と、エロ本を見つけて注意する母親みたいな口調でクラリス教官が念押ししてくる。

だから、俺がそんなに変なことすると思ってんのかよ!・・・さっきはちょっと意識しちまったけどさ。


こうして学校と魔学技術庁の許可が下りたらしく、俺はようやく初めての召喚獣と再会することができた。

学校の召喚術研究室に迎えに行くと、スリープ魔法から起きてみれば一人ぼっちだったことが余程寂しかったらしく、俺の召喚獣は親から離された子猫のように泣きじゃくっていた。


「むぁぁぁっ!!あうぅぅぅん、えぅぅぅぅ・・・・」


耳が長いだけで見た目が10歳の女の子なので、その光景はすごく胸が痛む。


「寂しかったか、一人にしてごめんな・・・」


と声を掛けると、俺に気づいて一目散に飛びついて来る。

ちなみにクラリス教官のチョイスらしく、水玉模様のブラウスにヒラヒラのスカートという、10歳の女の子らしい服を着せられていた。

双霊召喚獣は精神や能力が生れたての状態で召喚されるから、召喚したものを主人であると刷り込まれるらしい。

そのせいだとは分かっていても、俺の胸にしがみついて甘えてくる姿にはつい愛おしくなる。こういう繋がりだからこそ、術者と双霊召喚獣は魂で結ばれたメインパートナーになれるのだろう。


こうしてクラリス教官に疑いの目で見送られながらも家路につく。

だけど、好奇心溢れる召喚したての召喚獣は首輪に似た縛術首輪とチェーンの装着が義務づけられているので仕方ないのだが、二回ほど警官から職務質問を受けた・・・。

召喚獣使役証が無ければ、未成年者略取と暴行罪などで現行犯逮捕されていたろう・・・。


周囲からの痛すぎる視線を感じながらようやく家に着いた。こんなに帰り道が長く感じたのは初めてだ・・・。


「今日からここがお前ん家だよ」


とチェーンを解いてやると、物珍しそうにあちこちをガサゴソしだした。まるで子犬だな。


「って、ベッドの下のエロ本を漁るんじゃありません!」


変な知識がついたらクラリス教官に何言われるか分からん。

あ、こいつは飯は普通に食べられるんだろうか?2000年前の種族が何を食べてたかなんて誰も分からないし、ほぼ人間と変わらないから、何でも食うだろう。


それよりも元々が武術と魔法に優れた種族らしいから、そっちメインに育成すればかなり強くなるんじゃないか!何と言っても極超高位召喚獣だし!

傭兵として魔獣狩りや遺跡探索で一儲け出来そうだし、もしかしたら王立騎士団に入ることもできるやもしれん。


「頑張ってくれよ、お前。俺の召喚師としての未来が掛かってるんだからな!」


と、声を掛けるも、こいつはごみ箱の中のミカンの皮が気になるらしく、頭を突っこんで転げまわってる。

可愛いけど、そのバカっぽい姿に不安になってきた。

ほんとに強くなんのかよ、こんなんで。


「・・・いつまでもお前呼ばわりも可哀そうだし、名前付けてやんねえとな・・・」


サチコ、リエコ、アケミ、ハナ、ルミ・・・。

う~ん、あまりに人間ぽい名前も合わない気がするしな。こいつは一度滅んで、魂のまま多次元をさ迷っていた所を再びこっちに召喚された訳だから・・・。


「輪廻転生したから・・・、よし、お前の名前は リンネ!!」


リンネと聞いた時、その名前を気に入ってくれたのか、無邪気な笑顔で俺に微笑む。


こうして落ちこぼれ召喚師の俺と、極超高位召喚獣のリンネとの生活が始まったのであった。


これまでの召喚獣の成長値


腕力 0 器用 1 俊敏 2 魅力 3 魔力 0 知力 1 社会性 2


これまでに通報された回数 2 回

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